聖女は剣聖と呼ばれて

星ふくろう

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エピローグ

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「あの、間抜けな。
 ああ、なんだ?
 リード王太子、と言ったか?」
「彼が何か‥‥‥? 
 こんな婚約破棄をあんな公衆の面前でされるような女ですよ?
 魔王様もお笑いでしょう?」
「俺はー‥‥‥他人に恥をかかせる奴には興味がない」
「はあ‥‥‥」
「だが、自分が侮辱されているのに、それを捨てても国を第一に考えた女は嫌いじゃない」
「そんな、良いような捉え方をされるような発言はしていません」

 そうか?
 魔王はつまらなさげに言う。

「お前を、殴ろうとしていたからな。
 取り合えず、ぶん殴っておいたぞ」
「は?
 そんなことをしたらー‥‥‥」
「心配するな、戦争にはならん。
 王国もそうそう、バカじゃない。
 で、泣き止んだか?」
「それはー‥‥‥まあ」
「なら提案だ。
 聖女かどうかはどうでもいい。
 その気丈さが気に入った。
 もう一度、求婚を受けてくれないか?」
 それは、ハンナがあまりにも呆れ果てるほどに予想外の展開だった。


 そして今――彼は自分の隣で結婚式の最中、大勢の来賓の挨拶を受けながらにこやかにはなしを交わしている。まるでその様は普通の王であり、魔王だとは露ほどにも思えなかった。
 魔王シェイブからの使者だという、少しばかり風変わりな二人からの挨拶を受けた後。
 魔王リクトは幾分、魔王らしい顔になっていた。
 それは同族からの挨拶を受けたからかもしれないし。
 先日、竜神の聖女に滅ぼされた魔王ルクスターの領土分配をめぐっての話だったから? もしかすればだけど。
 それで神経質になっているのかもしれないと、ハンナは思っていた。
 魔王ルクスターの残党であり、元幹部統括だという上半身は女性、下半身は白蛇のエウリュアレという魔族が和議だといい持ってきた献上の品は確かに立派なものだった。
 そして、ハンナはどうしても愚痴ってしまう。
 それは、結婚式が終わって数週したあとのことだ。

「やっぱり、聖女って、本当に損な役回りだわ‥‥‥」
「そうか?
 だが、そのお陰で俺はお前に出会えたがな?」
「だから、よ。
 あの王太子に一撃食らわせてやるんだった‥‥‥」
「魔族より恐ろしい女だな、王妃よ」
「そう? 
 共和国の女はみんな、自主独立に溢れているわよ?
 今度、講和の席であったら領土を分捕ってやるんだからー‥‥‥!!」

 恐ろしい女だ。
 しかし、最高の女だ。
 聖女から魔王の妻になった彼女は、夫がぼやくその言葉を最大の賛辞として受け止めるのだった。


  *



「幸せっていいな‥‥‥」
 イオリがぼそっと呟いていた。
 魔王リクトの結婚式の帰り道は飛空艇だった。
 その機内で割り当てられた部屋のベッドにつまらなさそうに寝転んでそうぼやいている魔装人形はどことなくシュールでおかしかった。
「あなた、魔装人形は男性の型とかないの?」
 ふと、同席していたナフィーサは同じく同室になり、そのぼやきに質問してみる。
 うーん、とイオリが悩んだ末に出した答えは、「いるわよ。でも‥‥‥生殖の対象じゃない」だった。
「恋愛の対象じゃないにしておきなさいよ、まったく。
 子供は産めるの?」
「‥‥‥多分」
 いつになく、イオリが顔を赤らめてそう返事をした。
 ふうん、さすがは魔装人形。
 生殖機能もあるのか。
 ナフィーサは驚くと同時に、なぜ、男性型が恋愛の対象じゃないのかが気になっていく。
「好きな人、いない、の?」
「え?」
「いやだから、その。
 あなたが、恋愛した人、とか?」
 これまでの長い人生でいなかった?
 ナフィーサはそう問うてみる。あなたは? そう聞かれてナフィーサは返答に困った。

「あのー‥‥‥。
 結婚してるから」
「それは形だけでしょ?
 相手ってどんな男性?
 どんな人間なの?」
 うっ!、とナフィーサは返答に困ってしまう。
 相手は男性だ。
 でも、人間じゃない‥‥‥大きな大きな、狼だ。
「人、じゃあ‥‥‥ないよ?
 うん。でも、愛してる」
「ふうん?
 誰?
 黒い竜? 蒼い狼?」
「それは――あれでしょ?
 ヨアヒムの連れている魔獣たちじゃないの。
 狼‥‥‥かな?」
 ふーん、としたたかに半目になってイオリはナフィーサの下半身を見た。
「そんなに大きくて、相手できるの?
 人間並み、なの?」
 それって獣姦じゃないの? と暗に尋ねてくる。
 ナフィーサは真っ赤になると返答に困った。

「その‥‥‥子供は、いない。
 作らないし、できない。
 相手、神様で‥‥‥わたしより高位だから。
 死ぬから、わたしが。だから、無理‥‥‥なんだ」
「心だけで満足?」
 ドキリとする一言をこの魔装人形は放り込んでくる。
 満足なわけがない。
 でも、その相手をすれば自分は死んでしまう。
「あなたには関係ないわ!!」
 ついつい寂しさが相まって、声が怒りを含んでしまっていた。
 あ、しまった。
 そう思ったのも束の間、イオリは寂しそうな顔をして、それから口を開いた。
「ナフィーサは、まだ側にいるから。
 わたしは‥‥‥もう、いないから」
「え‥‥‥?」
 ごめん、もう寝るね。
 イオリは寝ることを知らない魔装人形のはずなのに、ベッドの向こう側に向くと嘘の寝息を立て始めた。
 いつのまにか、その腕に青い柄のとんがり帽子を抱いて。
「イオリ‥‥‥ごめん」
 いいわよ、と片手が上がる。
 あれは多分、彼女の大事な誰かの形見なのだろう。
 なにか悪いことを言った気がして、ナフィーサは数日後にハーミアやテダー、リザやDACISの捜査官だというレビンやエレノア。そして、なぜかそこにいるヨアヒムと二匹の魔獣たち。
 彼らとともに、エレーナの騎士団、真紅の幻影団と合流した。
 目指すは魔王レガイアのバルード城。
 ここでリザとナフィーサはすっかり忘れてしまっていた。
「竜騎士に気を付けて」
 そう言った、宰相シュバイエのあの一言を‥‥‥。





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