魔女が経営する雑貨屋さんの事件簿 1 金毛猫耳の女騎士と帝国の亡霊編 

星ふくろう

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第一章 春を買いませんか?

河べりの夜の金色の‥‥‥

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「話していいか?」
「良くないでしょ!」

 私の嫌そうな視線を感じたのか、ラーズは確認を取ってきた。
 話して良い?
 良い訳ないでしょうが、未成年に。
 あーいえ‥‥‥、女性にそんな風俗の話なんて信じられない。
 怒りに満ちた視線を向けたら彼は困ったなーと最後の一口を頬張っていた。

「高いわよ?
 依頼を受けるかどうかはまだ返答しかねるわ」
「うん?
 まあ、そりゃそうだな。
 聞くのに料金取るのか?
 そんな契約だったかな‥‥‥?」
「気分よ!」
「気分、ね‥‥‥。
 なら、俺はアヤカがいなかった間に数件こなしてるからいいだろ?」
「数件!?」
「数件。
 その分は高額に請求しといたからな」

 自分が関知しないところで彼は好き勝手に動いているらしい。
 勝手に水増しされた請求書を受け取ったギルド側の経理担当者が驚いたことは想像にかたくない。ついでにそこに書かれた請求主が、ラーズではなく私だという事実も何となく気に入らない。

「あなたねえ‥‥‥勝手にそんなことをして、私の悪評をばら撒くのは止めてくれない?」
「問題ないだろう?
 あこぎなのはいつものことだ」
「あこぎ!?」

 ふん、と鼻を鳴らしてラーズは辛いなこれ、と二つ目の包みを開けていた。
 どうやら甘酸っぱい系と辛い系に分かれて包まれていたらしい。
 なるほど、白と薄紅色の包み紙はそういうことか‥‥‥いいや、そこじゃない。

「うちの店が揃えている品は他よりも一割から二割ほど割高だ、と市内では評判だぞ?」
「その分、質もいいし品目点数も、劣化する時期の把握だってきちんとしているわ。 
 管理費に購入費、あなたたちの人件費いろいろといれたら、利益なんてトントンよ。
 あなた全部管理してみる?」
「いや‥‥‥やめておく。
 実際に高すぎるのもあるしな。
 俺のような退魔を生業にしてる人間から見ても、これは高いなってのはあるぞ?」

 幾つかの品名を挙げられたそれは仕方ないじゃない、と私は口を尖らせる。
 砂糖に塩、もっと仕入れてこようと考えていた香辛料、それに紙類。
 その辺りは日本だと安価に手に入るけどこちらよりは精製法が高度過ぎるものも少なくない。
 安価でばら撒いていいものではないのだ。

「需要と供給よ。
 それでも紙なんて買う人間は他の店とどっちが質がいいか。
 理解してると思うわよ?」
「そんなもんかね?
 ここは貴族様向けの雑貨屋ではないと思うんだが。
 客層は平民向けだろう?
 なら、もう少し安価でいいんじゃないのか?」
「銀の含有量からしたらね、あれでも見合わないほどだから。
 紙の質からすれば安いはずよ。
 で、何を解決したの‥‥‥?」

 話題を変えるのも強引だな?
 そうぼやかれて少しばかりイラっとしながら、レニーの肩掛けで口元を拭おうとしているのを見てついついそれは、と言い出しそうになり喉元で止めるのが口惜しい。
 
「それ、拭うなら包んでいた紙にしなさいよー」
「これか?
 こんなにゴワゴワの荒い目だと肌が痛むだろう?」
「あんたは貴族様か!
 早く話して。
 時間がないのよ」
「ああ、戻るのか。
 すまんすまん」

 そう言うとラーズはズホンのポケットから何かを取り出した。
 紙にしては繊維の荒いそれは多分、時代的に言えば江戸時代の中期辺りかな。
 あの時代に使われた市場に出回っていた和紙よりも硬く、重たいものだ。
 同時期の中世ではまだ紙の質も悪かったはずだから、土地と文化が違えば時代の進化に対して発達するものとそうでないものに分かれる、かな。
 B4の用紙並みのサイズのそれは交易でやってくる海外や国外の商人向けに大量に刷られたものだった。

「市内の見取り図?
 でも大まかねー」
「正確な地図があるといざ、戦争になった時に不利を被るからな。
 そんなに細かいものは出さんさ」
「へーなるほどねー」
「で、ここ、だ。
 東の大門。
 貴族街が始まる内壁の外堀区域だな。
 何があるか知っているか?」

 知らない、と首を振るとラーズはもうここに来て三年たつんだからもう少し勉強しろよ、とぼやいていた。
 ここには、あれがあるんだよ。
 そう彼はぼやかすように呟く。
 指先でその辺りをグリグリと円を描いてから、ふーん? とラーズを見あげているとやれやれと彼は説明を始めた。

「そこな、貴族街と商業区の合間だろ?
 外から交易にきた連中や、お忍びの偉いさんが通うのは正規の色街のこの手前だ。
 で、奥のこの水路側。
 ここは河べりに沿って歩けるように舗装されているし、辺りにはまあ‥‥‥いろいろとやるのには見えない程度の茂みもたくさんあってな?」
「ぶん殴っていいかしら?」
「ダメだな。
 まだ話は終わってない」
「終わったら考えさせてね?」

 ラーズはその問いかけを黙殺して話を続けた。
 彼の指し示す指先は、水路奥へと移動する。

「この水路奥でデカイ魚だの、四本足のこの地域に原生してるアジーロが出てだなー」
「何よ、あじーろ‥‥‥?
 四本足?」
「こんな革の元になってるやつだよ。
 ほら、なんだ?
 えーと‥‥‥トカゲ、か? あれの親玉みたいなやつだ。
 肉食で顎の力が半端ないやつでな」
「ワニ?
 かな? 多分。で、それがどうしたの?」
「ああそのアジーロがな。大量に発生して、デカい魚と水路奥で縄張り争いをな。
 その両者を狩るのに時間がかかったんだ。
 俺は水に落ちたりして大変だったんだぞ?」
「そのまま食べられてたらいいのに‥‥‥」

 ひどい雇い主だな?
 彼はじろりと私を睨みつけてから、一人じゃ大変だったから人手がいったんだと話を続ける。
 人手?
 うちの店から誰か連れて行った‥‥‥?

「まさ、か。
 レニーを!?」
「見張りだけだ‥‥‥。
 まさか落ちて急流に流れて水路の出口にいるところを引き上げて貰うとか思わなかったがな」
「じゃあ、その肩掛けは‥‥‥?」
「水気を拭くのに借りたら、差し上げますと言われたからそのまま、貰ってる。
 代わりにレニーには贈り物をしたからな」
「それはー」
「首輪だ。
 あいつらは仮にもまだ奴隷の扱いだからな。
 うちが買いあげただけで、身分は‥‥‥な?」
「そう‥‥‥」
 
 俺をまるで遊び人のように言うのはやめろ、とラーズはそう否定するけど彼の行いがそういった噂を呼ぶのだからこれは否定しようがない。
 逆に何を贈ったのが気になるところ。
 聞こうとしたら先に応えられて面白くない。

「手を出さないでね?
 いま産まれたら、多産すぎて養いきれない」
「意外だな?
 奴隷の子だろ?
 それも亜人なら成長も三年もすれば大人になる。
 売ればいいじゃないか」
「本気‥‥‥?」
「さあな?
 その判断はアヤカに任せる。俺は何もする気はない。
 で、この水路奥の件がアヤカがいなかった間に受けた要件だ。
 今回はその手前。
 この舗装路が今回の依頼のな」
「路上で身体を売っている娘たちが、いるって言うのはもう聞きたくないけど予測つくわ」
「話が早くて助かる。
 で、昨夜の警邏担当の役人が、ここ数日の夜、毎度同じ女を見かけていたらしい。
 ただし、ここで商売するにも許可というか、役人と顔なじみになる必要があってな?」
「まったく見かけたことがない女性だった、と?」
「そうだ。
 それも妙な格好でなー‥‥‥」
「妙?」

 ラーズはレニーからもらった肩掛けを頭から被り、顔があまり見えないようにして見せた。
 それが、売春もとい、古い良い方をすれば夜鷹の女性たちの正装らしい。

「ま、あとはそこそこ薄着でこの辺りを夜更けまでやるわけだ。
 しかし、その女だけはフードつきの外套をすっぽりかぶっていた」
「へえ‥‥‥怪しいわね」
「数日それを見かけるからそろそろ確認しようと声をかけたところ、その女はいい女だったらしい。
 見たらそそられるような、な?
 ああ、言い方が露骨ですまないが‥‥‥」
「続きを‥‥‥片手で足りるかしら?」
「不穏な物言いはやめろ。
 フードを取らせたら金色の猫耳族だったらしい。
 まあ、あの辺りの夜女は人間が多いからな。それは不思議でもない。
 ただ、その下に着こんでいたのが問題だ」
「何?
 はだか‥‥‥だったとか?」
「そんな趣味は他でやってくれ。
 逆だよ、帝国時代の毛色と同じ金色の鎧に帯剣までした、女騎士だったらしい。
 おまけに足元が虚ろな、な?」
「ゆう‥‥‥れ、い??
 帰っていい!?」

 その先を聞くのがそら恐ろしくなってしまい、私は小さく悲鳴を上げていた。
 
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