少しだけ狂った世界線で僕らは愛を語らう

星ふくろう

文字の大きさ
12 / 23
第一章

矯正される世界線 2

しおりを挟む
「ねえ、ところでさ」

 帰り道、このまま帰ったらあの二人の現場にまた遭遇したくない。
 そう思った二人はコンビニでお菓子とジュースを仕入れてたむろしていた。

「なに、樹乃?」
「七星、いつ兄貴のマシン借りたの? あれ、滅茶苦茶、排気音うるさいじゃん?」

 なんで言いづらそうなの?
 樹乃は不思議そうな顔をする。

「借りたと言うか、一緒に‥‥‥ゴメン。あの住宅街の外まで押してからエンジンかけたから」
「え、一緒に! そんな暇な日あったっけ?」

 ここ数日の記憶を思い出す。あったとしたら。

「え、今朝ってこと? あー違うか。でも、兄貴のチームの走るのって金曜の夜だし。先週?」
「うん……」
「兄貴のチームみんないかついでしょ? てか、暴走族だけど」
「違うよ、樹乃。暴走族じゃない峠を攻めるだけ。走り専門。ちゃんと道交法も守ってる」
「似たようなもんでしょ? 名前もえーと‥‥‥」
「疾風」

 なんで詳しいんだよ、あんたは。
 そんな目で樹乃は七星を見る。

「じゃあ、マシンは誰の借りたの?」

 遠矢のにはそんな目立つ傷が無かったような気もする。
 樹乃はそう思い出していた。

「誰のっていうかー‥‥‥。ななせのはあるよ? 樹乃サン」
「は?」
「だから、ななせのお父さんの、あれがある」

 あれってどっちだろ?
 250cc?
 それとも。

「まさか、ドゥカティ900SSでは、ないでしょ?」

 あの車体は扱いにくい上に、壊したら修理代が数十万単位で飛んでいく。
 フレームも曲がりやすいし、乗りにくいことこの上ない。

「あれじゃないけど。250のは売ったの。プレミアついてたから」

 え?
 思い出のやつなのに?
 でも、あれじゃないって。

「売って、ドゥカティのモンスターの中古。750の買ったの。それでコケた」 

 750って。
 それ、運転できるほどテクニック無いでしょ、あんた。
 樹乃は呆れてものが言えない。

「それ、どこにあるの?」
「チームの人の家がバイク屋さんだから。修理ついでに預けてる」
「それで、樹乃は知らない訳だ。でも、よく兄貴が混ぜてくれたね? 女はダメだったあれほど言ってたのに‥‥‥」

 樹乃も走りたい。
 そう叫んだ時、真っ先に却下された覚えがある。

「違うよ、いるよ樹乃。ななせの他にも。後ろに乗せるのがダメなのと。マシン無い子がダメなだけ」
「だってー‥‥‥樹乃はダメだって」

 分かってませんなあ、樹乃さんはー。
 そう七星はポッキーを指揮棒みたいに振りながら言う。

「なにがわかってないのよー、樹乃も走りたいよ?」
「だからー。遠矢さんも友紀さんもいるけど。樹乃は、レーサーじゃん。だめだよ、サーキット以外を攻めたら。チーム、ほら樹乃のね? みんなに迷惑かかる。そう遠矢さんは言ってた。ななせはそれは正しいと思う」
「コケて樹乃に心配かけるなら、もうしたらヤダ」
「う、ゴメン」

 なんて分かりやすいんだろ、バカ七星。
 本当に心配なんだよ?
 樹乃は何も言わずに背中をさすってやる。

「ねえ、樹乃」
「へ?」
「さっきの、ホラ。二人のあれ……」

 自宅のリビングルームで見てしまった、あれのことだ。
 樹乃は顔が赤くなる。

「兄貴も秋穂義姉さんも裸になりかけてたね‥‥‥」
「うん、ななせも見た。樹乃、義姉さんつけてなかったよ? 呼び捨て。あれ、本心?」

 うーん……樹乃は沈黙する。
 あの時は勢いが強かった。
 ただ、そういう思いもある。

「どっちの子供でも、わからない。樹乃はそれが怖いな」

 今度は七星が黙り込んでしまった。

「あれ、どうしたの?」
「ううん、なんでもない」

 あ、こいつ。
 隠し事すると指で耳を触る癖気づいてないな?
 何を隠してる、え、まさかの。

「七星、兄貴と寝た?」

 遠矢と関係したか、そう聞いた。
 七星、は動かない。
 返事をしづらそうにしている。

「言わないと背中叩くよ? それとも頬がいい?」
「違うよ」

 ぼそり、とそう漏らしてあちらを向く七星。

「何が違うの?」

 どうもこれは怒る内容ではなさそう。
 樹乃はそんな感じがしていた。

「ななせは何もしてないし、そんな気もない。遠矢さんもそう。二人は無実。うん」
「あんたが無実でも兄貴が違うのね?」
「なんでするどい‥‥‥」
「で、相手だれ?」
「同じ工場のバイト先の人。ななせも似た時間帯に入ることあるから、その女の子と相談されて、何も言えなかった。どしたらいい?」
「どうしたらいいって‥‥‥。何もできないよ。三人に任せるしか」
「だよねー」

 少しだけ狂った世界線はまた、違う位置から補正を始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...