少しだけ狂った世界線で僕らは愛を語らう

星ふくろう

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第二章

補整される世界線 2

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 遠矢と秋穂の件の数日後。
 ガレージにあった双子の兄の片割れ、友紀が所有していたバイクが二台とも消えている。
 それに最初に気づいたのは七星だった。
「ふうん。
 まあ、いいか。
 また友紀さんの寂しい寂しい病が発生したね。
 でもななせは勘弁。
 もう時間は巻き戻らないー‥‥‥」
 今日は変な質問をされたし、甘利さんから。
 もう、あそこもいろいろ大変だ。
 これなら自分のバイクを置けるなーなんて、七星が思いながら家の敷居をまたいだ時だ。
 上から甘い声が降ってきた。
 嫌いな甘い声が。
「七星、何してんの?」
「あのですねーななせはあなたが嫌いなんですよー。秋穂サン。
 年下だけど、ちゃんと家賃も入れてるんですねー甘えんなよ、あきほ」
 ちょっとショックだったらしい。
 階段の踊り場で半裸の彼女は七星を睨みつけた。
「なんですかねー?
 そのカッコ。遠矢さんに可愛がって貰った?
 数年ぶりにで、めっちゃ嬉しいなんて。
 バカのメスの顔をしてる。愚かな女の顔を」
 近づくな!
 獣のメス同士が縄張り争いをしているようだ。
 部屋の奥から遠矢はそれを聞いて寒気がした。
 いま出て行けば‥‥‥必ず餌食になる、と。
「ふーんー‥‥‥
 あんたもちゃんと愛してくれて受け入れてくれる相手に出会えたらいいね、七星ちゃん。 
 わたしもあんたが大っ嫌い!!」
「うん、ななせもだよ。
 でも、ななせは逃げない。
 例え、犯されてとしても‥‥‥
 ななせは樹乃だけを愛する」
「意味がわかんないわ。
 樹乃ちゃんとあんたがどう恋愛するのも自由だし、今更、秋穂が言えることでもない。
 でもあの子があんたを犯したとは思えない」
 あーだめだこいつ。
 七星はやれやれと頭を振る。
「樹乃がななせを犯すわけないでしょ、バカ秋穂」
「え?
 そういう意味じゃないの?
 なら誰にーー??」
「バーカ。
 ななせは樹乃に救われたんだよ。
 何があっても樹乃だけはななせが守るの。
 友紀とは違うーなんでもない」
 自分のオバカさを七星は実感していた。
 余計な一言をついつい言ってしまう。
 それのせいで、これまでどれほど樹乃を傷つけてきたことか。
「友紀がどうしたって、七星?」
 犯されただの、弟の名前だの。
 まだこの家の中には闇があるのか?
 遠矢は勘弁してくれよと階段を降り始める。
 妻の衣服をその手に持って。
「下で話しないか?
 アイツはまだ寝てる。
 秋穂も来い」
 俺たちにはもう、波はいらねー。よりもでっかい輪っかがいるんだよ。
 家族って名前のな‥‥‥
 意外なことに、遠矢は数メートルだが秋穂の介助をしなかった。
 服を着る時に少しだけ手伝いはした。
 でも一歩引いて見守ることを学んだらしい。生きる強さをつかみ取れ。
 そう言っているように七星には見えた。
 まあ、それはまだ甘い甘い厳しさだったが。
「ほい、コーヒー三つ。
 んで、秋穂はここな」
 三十五キロもない妻をひょいと持ちあげて彼は膝上に彼女を抱き上げる。
「恥ずかしいんだけど?」
「文句言うな、メス犬」
「ちょっとー!!」
「黙ってろって。
 なんでそこだと思ってる?
 特等席だからだ。返事は?」
「はーい」
 抱き着いてろ、んで黙って話を聞いてろ。
 遠矢はそう言っていた。
 得意気な顔の秋穂を七星は睨みつける。
「七星ー‥‥‥もうこの家に波乱は止めたいんだ。
 わかるか?」
「わかるけど。ならななせはなにをすればいいの?」
 そうだなー、遠矢は悩んで言葉を選んだ。
「誰が、お前を壊した?
 樹乃より最初に。
 その心を身体も、かな?」
「あの事故は関係ない。
 樹乃が原因だけど、ななせの家庭もおかしくなったけど。
 樹乃とはもう十年恋人。離れる気はななせにはない」
「十年かー‥‥‥長いな?」
 でしょ?
 七星は秋穂よりは長いねーそう挑発する。
「あんたー!」
「黙ってろって。秋穂、俺たちは生きなきゃいけないんだ。
 考えろよ?
 ここにいれるのは誰のお陰だ? おじさんだろ?
 もう甘えてもいれないんだ。独立しなきゃな。それが結婚するってことだ」
 秋穂の動きが止まった。
「遠矢くん、レーサーは?
 未来を諦めるの?」
「それは友紀がやるよ。
 俺はお前を選んだ。反論はなし、な?」
 本気だ、そうなぜか理解してしまう。
「うん‥‥‥」
「ありがとう、俺の奥様。
 で、七星、どうなんだ?
 誰が最初にお前を壊した?」
 七星はゆっくりと微笑んで席を立った。
「おい‥‥‥」
「もういないよ、多分、全部背負って消えた。
 だから‥‥‥樹乃を宜しくね?
 家族は家族しかなれない。狂った世界は戻らなきゃ」
「ああ、そうだな。
 荷物は?」
「もう移してる。バイクも古いのだけにした。
 ななせは、家族を探す。
 バイバイ、秋穂、遠矢」
「ちょっと‥‥‥」
 秋穂の制止を遠矢が静かに止める。
 妹にまた殴られるなあ。
 遠矢は数日前のあの拳を思い出していた。
 
 七星がガレージから自分のバイクを押し出してまたがり、エンジンをかけようとした時だ。
「ぐぇっ」
 首に何かが巻きつけられた。
「なにすんのさ、じゅの、これ首輪じゃん!?」
 遠矢が秋穂をいじめる? ために用意したあれが、首に巻き付けられていた。
「ちょっと、それきついって、じゅの!!」
「あ、締めすぎた?
 なに勝手に逃げようとしてんのさ、バカ。
 あんたの浅い悪知恵なんて底が見えてんのよ!!」
「えーーせっかくカッコつけてきたのにーー」
 とりあえずこんなもんかなーと樹乃は首輪を締め上げてーー
「それ!?
 鍵までする気!?
 ななせ、メス犬じゃん!!」
「当たり前でしょ?
 ゆきがあんたを最初に抱いたのだって知ってるわよ。
 それも、あの事故の後にね。
 樹乃が受けきれないものと家族がいなくなった寂しさにつけこんだってのも変だけど。
 あんたには樹乃がいるの。捨てたら死ぬなんてしないからねーー」
 これには七星が驚いた。
「じゃあなにすんのさ?」
「世界の果てまで追いかけてく。
 友紀が見つけに行ったみたいに」
「樹乃、死ぬのは?」
「は?
 二人で寿命が先に来た方からでしょ?」
 その返事なのにこの首輪ですか、樹乃サマ。
 ななせは永遠に樹乃のだね‥‥‥
「ほら、待ってよ?
 樹乃のマシン出すから。二台で行こう?
 荷物もたくさん積めるし」
「あの、そう言いながらこの鎖は‥‥‥?」
「あんた、適当に返事して逃げ足だけは早いから。
 首輪と鎖つないだよ?
 鍵はあげなーい」
「樹乃あくまだ‥‥‥」
 鎖を引かれてななせはぐえっとうめいた。




「三日だかんね?」
「なんで?」
「目の予約あるでしょ?
 あのバカがそんなに遠く行ける度胸あるわけないんだから」
「めぼしついてんの?」
「だから、兄妹なの!!」
 そんなやりとりをして、二人がバイクを発進させようとした時だ。
 その前方に一台の原付が止まった。
「げ、これフラグ立つ奴だ‥‥‥」
 七星がそう呟く。
 そこには甘利佳南が立っていた。

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