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プロローグ
砂上の楼閣 1
しおりを挟むドライブというには十数分の短い距離を二人を載せたバイクは駆け抜ける。
郊外にあるそのまだ新築一年の一戸建ては千坪前後の敷地がある。
四方を高い壁で覆われてて、中は見えない。
セキュリティだけでも相当厳重だ。
「本当に、こんな時間に呼び出しだめだよ、七星?」
オート開閉式のガレージを無線式のスイッチで開けて樹乃は中に彼女の相棒のスタンドを立てておく。
古いオートバイ。
250ccだが、400ccのにも引けを取らないパワーを持つ半世紀以上前のkawasakiのオートバイ。
「大事にしてるね?」
七星そう声をかけた。
このマシンは樹乃がタンク周りのサビ取りや吸排気系の掃除を丹念にして蘇らせたものだからだ。
「まあ、レストアしても素人だから。
そのうち、専門家のとこに持ってくつもり」
「ふーん、ななせにはよくわかんないや。
でも、どこのお店?」
「四国。
店っていうよりは個人でやってる昔のチームのメカニックの人がいるの。
こいつのパーツも、その近くにある川崎の工場の横で同じ会社が経営してる古い販売店があって。もう、そこにしかパーツないから」
「四国?
ここ関東だよ、樹乃?」
「うん、まあお金貯めて。それから数日かけて、かな。
ななせも行くでしょ?」
当然、来るよね?
樹乃の質問はそんなふうに七星に聞こえた。
「まあ、当たり前でしょ?
ななせ置いていったら別れるから」
一人で行ったらそうするよー? なんて七星は平気で樹乃に言い放つ。
「ちょっと、それは・・・・・・嫌」
あーらら、真に受けてるよこの人。七星は半ばあきれながらよしよし。
そう言って樹乃の頭を撫でてやる。
「やっぱ、樹乃はどМだねー?
ななせがいないとすーぐだめになる、ね?」
「もう、犬じゃない!!」
手を払いのけられた。
うん? あ、そう?
七星はしたり顔で言ってやる。
「ふうん、はい、御主人様って言えたらキスしてあげたのにー」
「そんな、ひどいっ!?」
抗議の声は素通り。聞かないふり。
「はい、なんか言う事は?」
早くしろ、そう指先で指示する悪い奴。七星はいつもこうだ。
樹乃には拒否権なんて存在しない。
でも、それも含めて樹乃は七瀬が大好きだった。
「‥‥‥はい、御主人様」
本当に言ったよ、この人。
言わせておいて呆れる七星も七星なら、それをする樹乃も樹乃だ。
「ふーん、本当に飼われてるって自覚あるのかな、樹乃さんはー???」
意地悪に畳重ねて七星は言ってみる。いつ終わるんだろう、この変な光景。
そう思いながら。
「うんーーはい、思ってます。
樹乃は七星の‥‥‥ものだから」
うわー引くわ。と言うか、やり過ぎた。
もう終わりにしよ、これ以上は歯止めが効かなくなる。
「はーい、ならご褒美ねー」
そう言って、頬にだけキスを与える。
「そんなっ、な、御主人様、ひどい!!」
まだ、続けるか。どうも樹乃は変な性癖があるような‥‥‥
「釣った魚にエサは与えないのがななせの主義―。
はい、帰ろ?
まだ、秋穂さんお風呂とか入れてないでしょ?」
樹乃は真剣にエサを御預けされた子犬みたいな顔をしてる。
あーあ、やり過ぎた。反省、反省。
悪ふざけは気を付けましょー。そんなことを心で思いつつ、七星は樹乃をガレージから引っ張り出す。
義姉の秋穂一人にさせて出てきたのが心配だったのか、樹乃もそれに続いた。
「ねえ、ペットの樹乃くん。
なんで秋穂さんには介護かいるの?
ななせ、ずっと不思議だったんだけど。
一応、歩けるし、上半身は動くでしょ?
まあ、左足使えなくてと左眼が見えないのは可哀想だけど‥‥‥」
ペットと言われて幾分満足したような樹乃においおい、あんた大丈夫? なんて思いながら七星は続けて言う。
「まあ、ななせもここに住まわせて貰ってるから文句はないけど。
でも、お兄さんたちかなーり責任感じてるよね?」
樹乃は黙り込んでしまってなにも言わない。実兄たちの想いを知っているからだ。
それでもガレージから玄関までの長い細道を歩きながら、樹乃はポツリポツリと話し出す。
「多分、瀬名家はかなりの名家だから。
義姉さんを放り出したら、お父さんたちの仕事がなくなる。
そんな感じで‥‥‥去年の今頃に、秋穂義姉さんの父親が来て押し付けて行ったの。
兄さんたちはそれもあって頑張ってるんだと思う」
権力者の一族、か。
ドロッドロの闇の世界。
七星にはわからない知りたくもない世界だ。
樹乃はそれを言うと歩みを止めてしまった。
あーあ、また始まったよこのどМ樹乃は。
「ねー、樹乃。
背負いすぎなんじゃない?
どうせ、その場で何か言えてたらとか。昨年の全日本の地方予選で勝ててたら契約できて助けれたとか。
そんなこと考えてるでしょ?」
樹乃は普通にすごい。
国際何級だかのライセンスがあるし、さっき以外にも二台。
競技用のバイクを持ってる。
チームと契約は出来てないが、小さな仲間内で何度も全国上位に食い込んでたりする。
ダンベルも八十キロ近く上げるし、あの旧車狙いで声かけて盗もうとした不良どもを何度も撃退してる。
まあ、筋トレには七星も付き合わされるからこっちもそれなりには筋力があるし体力も半端ないが。
それはさておき、樹乃は全部を背負って生きようとする。大会で負けたら全部自分のせい。
周りのクラッシュに巻き込まれた方なのに。
でも謝り続けてた。その光景を七星は覚えている。
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