少しだけ狂った世界線で僕らは愛を語らう

星ふくろう

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プロローグ

砂上の楼閣 2

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「そんなことはない、よ……?」

 そう樹乃が否定しても、七星にお見通しだ。

「ねーもう何年の付き合いですか、旦那様?」
「は? え?
 旦那様って。さっきは御主人様って呼ばせといてーー」
「そんなのどうでもいいの。
 もう何年の付き合い?
 こうなってから!!!」

 七星はさっき樹乃が止めた裾を捲り上げる。

「だめ、見せないで。
 それ、樹乃だけの‥‥‥」
「じゃあ、何年?」
「もう、それより前入れたら10年くらいーー」
「もう夫婦も変わんないよね? 女同士だけど」

 頭の中は違うかもしれないけどさ。そう七星は呟く。

「うん、そう、だね。
 でも、七星はこのままでいいの?
 秋穂さんの世話。樹乃は本当はしたくない。 
 お風呂とかも一緒には嫌だ。だからって、七星がずっとするのも、樹乃はやだ」

 はあ、ようやく本音語り出したよ、本当にこの子は。

「七星はいいよ?
 秋穂さん、身体綺麗だし―。なんかこう、子犬を可愛がってる感じ」
「そんなー樹乃は?
 もう、飽きたの? 御主人様‥‥‥?」

 いや、もうやめろそのキャラ。
 軽く頭をはたいてやる。

「そのキャラ悪ノリしすぎ。
 それに、仕方ないじゃん。樹乃が嫌ってるのは、秋穂さんがあの日から性格が変わったからでしょ? 
 あれだけ明るかったのにさ。
 正反対ってか、全然自分を出さなくなって。樹乃、遠慮しまくりで先に進まないし。
 遠矢さんと友紀さんがあれだけ献身的って言うか。
 籍まで入れて、夫二人の環境とか異常だけど。
 全部、あっちの父親が仕組んだまんま進んでる。
 で、それをあの二人の旦那は黙って受け入れてさ。
 高校、本当に卒業できるかも怪しいし、このまんまじゃ‥‥‥」
「七星?
 兄さんのどっちか好きなんだ?」

 は? おバカかあんたは。
 口には出さないが樹乃の嫉妬心? それとも性格?
 ああ、メンドクサイ。

「な訳ないでしょ!!!
 この先、ずっと派遣バイトで生きていけるわけないじゃん。
 樹乃はプロになればまだ道があるし、七星は自分で生きている。
 そう思うよ、隣に樹乃がいれば一番いいけど。それは無理強いはしない。
 ただ、いつかはあの三人も道は崩れるよ。それを言いたいだけ」
「七星って、あんたバカかと思ってたのに。
 意外にまとも」
「いや、それ今言う!?
 さっきまで涙目で御主人様ーなんて悪ノリしてたの誰よ? 引くわー」

 深夜に中学校のプールに不法侵入して警察呼ばれて逃げ延びたあんたに言われたくないわ。
 そんな感じで樹乃は黙ってスマホの通信アプリの画面を見せる。
 あの助けてジュノ様!
 とか書いてるやつだ。

「あ…‥すいません、樹乃様」
「樹乃様?」
「ううっー。ご、御主人様、ありがとうございました‥‥‥」

 ふん。分かればいいのよ。
 七星のバーカ。
 そう言って樹乃様は不機嫌なまま、玄関を開けて中にはいってしまう。

「結局、樹乃が一番、めんどくさいんだよね‥‥‥?」

 いや、七星が一番おバカなんだ。
 多分、この場に誰かいたらそう突っ込んだだろう。
 二人は深夜の帰宅を果たした。

「あれ、電気消えてる‥‥‥」
「んだね。
 もう寝たとか?」
「え、でも義姉さんお風呂の準備してたし、あーまさか……っ」

 慌てて樹乃が両サイドに廊下や家中に設置された手すりを確認しながら風呂場に向かう。
 どこかでこけていないか。
 頭など打って気を失っていないか。
 この家はとにかく広い。
 自室に戻る間に階段はないが、通路が二つある。
 どこに行くにしても、片足の不自由な義姉にとっては人の倍、大変だ。
 それに彼女は左眼が見えない。
 不安要素は尽きない。

「義姉さん!?」

 唯一、灯りがともる脱衣所を開けて樹乃はほっとした。

「良かった、何もない……ごめんなさい、七星が遅くなったから。
 迎えに行ってたの」

 心配されていた義姉は、彼女専用におかれた椅子に腰かけて髪を乾かしていた。
 両腕と片目、片足が動くだけでも幸せ。
 そう言う、秋穂が樹乃は好きでもあり、苦手でもある。

「あ、ごめん。
 樹乃ちゃん、一人でも、何とかできたからー」

 秋穂は百七十センチを超える樹乃や七星より頭二つは小さい。
 百五十あるかないかの低い小柄な体格。
 体重も軽くて、二人なら抱えてでも運んでやれるほど軽い。
 まあ、ダンベル八十キロ上げる二人は規格外でもあるが‥‥‥

「ううん、今夜は兄さんたち朝まで夜勤だから。
 あたしが担当なの。もう髪乾いた?」

 そこまでやるなら、ヘルパーの時給くらい貰えよ。
 その光景を見て七星はそう思う。何が怪我をさせた責任?
 押し付けて行っただけのクセに。押しかけてきただけのクセに。
 それが七星から見た秋穂の印象だった。

「そう、旦那様たち、今夜はいらっしゃらないのね。
 なら、お帰りを待たなくてもいいのね」

 古い言葉遣い。これはまあ、昔からだけど。
 この境遇を当たり前なのか、それとも甘えなのか。
 それとも?

「ねえ、七星。
 義姉さんの着替え手伝って?」
「え、あ、うん……」

 着せ替え人形じゃないのに。でも、身体がうごかないのは事実だし。
 七星と樹乃は二人がかりで秋穂を一階の『三人』の寝室に運んだ。
 大きいキングサイズのベッドが一つ。
 最初から家具など全部用意されていた。

「夫婦なんだから、一つにしておいたよ」

 これ以上はもうしないけどな。そんな内容で彼女の父親は言い、電話を切ったという。人間として最低。
 彼に対しての見解は、この家の中で秋穂以外は一致していた。
 娘はその時、何も言わなかった。言えないかったかもしれないが。

「じゃあ、おやすみなさい」

 部屋から出てくる樹乃を見て、七星が「行くよ」、そう声をかける。
 いつもの事だ。風呂に二人で入り、二人で樹乃の部屋で寝る。七星は居候。
 それでも、家賃兼食費をバイト代から入れているが、立場はそんな感じだ。

 余った部屋を好きに使えよ、長男の遠矢はそう進めたが、七星は遠慮した。
 ここに来たのは樹乃のため。そうでなければ、住み込みで働ける派遣会社にでも入社して働いている。
 学校には興味がなかった。

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