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秘密の聖女様、魔王に債権を売り渡す件 2
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そうよ、とハーミアは言うがそろそろ酔いが回ってきたらしい。
前夫に外観が似ているグランをどうやら前夫と勘違いしたようだ。
「ねえ、スィールズ様?
あの神殿関係者が百人規模でいるのはおかしいと思いません?
ラナはそう思いますわ」
ラナとはハーミアのミドルネームである。
酔いが回られてきたらしい。
グランは困った顔になる。
ハーミアは‥‥‥酔うと甘え癖が酷い。
「あー‥‥‥御主人様。
わたしはグランでございます。
今夜はもう引き上げの御命令をただいま頂きましたので、これにてーー」
宰相はそつなく逃げ出す方法を心得ていた。
え、そんな、自分だけ逃げだす気ですか!?
侍女たちの冷たい視線を背中に、グランはレベッカを伴にその場を下がろうとする。
「あら、そうだったかな?
まあ、いいわ。
ああ、そうだ、グラン。
お待ちなさいーー」
これは逃げ出すのにしくじったか!?
朝まで晩酌の相手をさされたことのある宰相は背筋に冷や汗をかく。
しかし、ハーミアの命令は違った。
「いまねー‥‥‥うん、スィールズ様と。
話してたの、この不毛な四種族の争いを治める方法はないかってね‥‥‥。
それで思いついたのよ。
あなたね、明日から二週間であの直轄地、平らげて来なさい。
そうね、辺境国軍四万の全軍を使ってもいいわ。
帝国側と完全に行き来を封鎖するのよ。
いいわね、やりなさい。
できないと、レベッカはわたしの側室にするからね」
酔っているのか冗談なのか。
その判断がつかないとんでもないことをハーミアはグランに命じた。
「そっ、そんなことをなされば‥‥‥。
帝国への反逆罪で周囲の全貴族や騎士団からの反撃をー‥‥‥!!??」
はあ?
なに言ってるのよ、あなたは。
ハーミアは更にグラスにワインを注がせる。
「正規軍だけで四万。
それ以外に、うちの雇ってる傭兵だっているでしょうが。
総勢どれくらいになると思ってるのよ?」
「そっ、それはーー八万は越えるかと‥‥‥」
「なら持ちこたえるでしょ?
帝都から騎士団の本体が来るまでどう頑張っても一月はかかるのよ?
さっさとやりなさい。
ああ、そうそう。
忘れてたわ。
魔王フェイブスターク様に使者を出して。
わたし自らが、魔都グレインスケーフにお伺いします、とね。
この辺境国国王の名前で出すのよ、いいわね?」
ねえ、スィールズ様。
今夜はハーミアを抱きしめていただけますか?
誰もいない隣の席に語り掛ける主を、グランと侍女たちはとても悲しそうに見ていた。
あの仲の良かった二人が‥‥‥あんな戦争で引き裂かれたのだから。
「かしこまりました。
では、護衛はどうなさいますか?」
護衛?
ハーミアはそんなの決まってるじゃない。
そう言い、グラスにワインを注いでいたサーラを引き寄せる。
「ここに良い、弾避けがいるじゃないの。
ふふ、ねえ、サーラ?
まさか、未亡人のわたしを置いて、自分だけオスを探そうとか考えてないわよねえ?」
主のその不敵な微笑みに侍女たちはこの場を逃げ出したくて仕方がない。
いつ、魔法が暴走するか分からないからだ。
「ひえっ!?
そ、そんなことはありません、はい、ありませんとも奥様。
悪いのはあの、エミリオ皇太子ですよ、エミリオ皇太子!!」
エミリオ皇太子?
ハーミアの目つきが変わる。
「そうね、あのクソ皇太子殿下に皇帝陛下ね。
いいなあ、ザイール大公閣下」
「あ、あの、なぜいいのでしょうか‥‥‥!!??」
サーラはもう誰かこの酔っ払いから助けて、と視線で助けを求めるが誰も目を合わせようとはしなかった。
「だって、わたしにこんなにいい復讐の機会を与えて下さったんだもの。
旦那様が死ななくてもよかったと知れた今、帝国に恩義なんて感じるもんですか!
酔ってないからねー‥‥‥」
そして、ハーミアは眠りの世界へと誘われてしまう。
旦那様、どこですか?
ハーミアはここにいますよ、旦那様‥‥‥???
そう、寂しそうに寝言で語る主の胸中を察して、サーラは主人を抱き上げると寝室に彼女を寝かせに行く。
「魔王と対談、ねえ。
どうするの?
先にあの場を侵略しなきゃだめだわね?
奇襲攻撃する?」
レベッカはハーミアを見送りながら、自分と去り行くサーラ、そして侍女たちとその後ろに控えているーー
「ここには純粋な竜族の護衛だの騎士だの、侍女だの。
最低でも三十はいるわよ、グラン?
空から奇襲をかければまあ、いいんじゃない?」
「お前は‥‥‥わたしはお前を危険にあわせたくないぞ?
だが、それも、いい案だな」
こうして、帝室の直轄地の強奪作戦と、魔王との対談。
両方の計画が水面下で動き始めたのだった。
前夫に外観が似ているグランをどうやら前夫と勘違いしたようだ。
「ねえ、スィールズ様?
あの神殿関係者が百人規模でいるのはおかしいと思いません?
ラナはそう思いますわ」
ラナとはハーミアのミドルネームである。
酔いが回られてきたらしい。
グランは困った顔になる。
ハーミアは‥‥‥酔うと甘え癖が酷い。
「あー‥‥‥御主人様。
わたしはグランでございます。
今夜はもう引き上げの御命令をただいま頂きましたので、これにてーー」
宰相はそつなく逃げ出す方法を心得ていた。
え、そんな、自分だけ逃げだす気ですか!?
侍女たちの冷たい視線を背中に、グランはレベッカを伴にその場を下がろうとする。
「あら、そうだったかな?
まあ、いいわ。
ああ、そうだ、グラン。
お待ちなさいーー」
これは逃げ出すのにしくじったか!?
朝まで晩酌の相手をさされたことのある宰相は背筋に冷や汗をかく。
しかし、ハーミアの命令は違った。
「いまねー‥‥‥うん、スィールズ様と。
話してたの、この不毛な四種族の争いを治める方法はないかってね‥‥‥。
それで思いついたのよ。
あなたね、明日から二週間であの直轄地、平らげて来なさい。
そうね、辺境国軍四万の全軍を使ってもいいわ。
帝国側と完全に行き来を封鎖するのよ。
いいわね、やりなさい。
できないと、レベッカはわたしの側室にするからね」
酔っているのか冗談なのか。
その判断がつかないとんでもないことをハーミアはグランに命じた。
「そっ、そんなことをなされば‥‥‥。
帝国への反逆罪で周囲の全貴族や騎士団からの反撃をー‥‥‥!!??」
はあ?
なに言ってるのよ、あなたは。
ハーミアは更にグラスにワインを注がせる。
「正規軍だけで四万。
それ以外に、うちの雇ってる傭兵だっているでしょうが。
総勢どれくらいになると思ってるのよ?」
「そっ、それはーー八万は越えるかと‥‥‥」
「なら持ちこたえるでしょ?
帝都から騎士団の本体が来るまでどう頑張っても一月はかかるのよ?
さっさとやりなさい。
ああ、そうそう。
忘れてたわ。
魔王フェイブスターク様に使者を出して。
わたし自らが、魔都グレインスケーフにお伺いします、とね。
この辺境国国王の名前で出すのよ、いいわね?」
ねえ、スィールズ様。
今夜はハーミアを抱きしめていただけますか?
誰もいない隣の席に語り掛ける主を、グランと侍女たちはとても悲しそうに見ていた。
あの仲の良かった二人が‥‥‥あんな戦争で引き裂かれたのだから。
「かしこまりました。
では、護衛はどうなさいますか?」
護衛?
ハーミアはそんなの決まってるじゃない。
そう言い、グラスにワインを注いでいたサーラを引き寄せる。
「ここに良い、弾避けがいるじゃないの。
ふふ、ねえ、サーラ?
まさか、未亡人のわたしを置いて、自分だけオスを探そうとか考えてないわよねえ?」
主のその不敵な微笑みに侍女たちはこの場を逃げ出したくて仕方がない。
いつ、魔法が暴走するか分からないからだ。
「ひえっ!?
そ、そんなことはありません、はい、ありませんとも奥様。
悪いのはあの、エミリオ皇太子ですよ、エミリオ皇太子!!」
エミリオ皇太子?
ハーミアの目つきが変わる。
「そうね、あのクソ皇太子殿下に皇帝陛下ね。
いいなあ、ザイール大公閣下」
「あ、あの、なぜいいのでしょうか‥‥‥!!??」
サーラはもう誰かこの酔っ払いから助けて、と視線で助けを求めるが誰も目を合わせようとはしなかった。
「だって、わたしにこんなにいい復讐の機会を与えて下さったんだもの。
旦那様が死ななくてもよかったと知れた今、帝国に恩義なんて感じるもんですか!
酔ってないからねー‥‥‥」
そして、ハーミアは眠りの世界へと誘われてしまう。
旦那様、どこですか?
ハーミアはここにいますよ、旦那様‥‥‥???
そう、寂しそうに寝言で語る主の胸中を察して、サーラは主人を抱き上げると寝室に彼女を寝かせに行く。
「魔王と対談、ねえ。
どうするの?
先にあの場を侵略しなきゃだめだわね?
奇襲攻撃する?」
レベッカはハーミアを見送りながら、自分と去り行くサーラ、そして侍女たちとその後ろに控えているーー
「ここには純粋な竜族の護衛だの騎士だの、侍女だの。
最低でも三十はいるわよ、グラン?
空から奇襲をかければまあ、いいんじゃない?」
「お前は‥‥‥わたしはお前を危険にあわせたくないぞ?
だが、それも、いい案だな」
こうして、帝室の直轄地の強奪作戦と、魔王との対談。
両方の計画が水面下で動き始めたのだった。
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