殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、魔王に債権を売り渡す件 1

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 ハーミアは最っ高の夜だわ、今夜は!!
 そう満足げにうなづくと、久しぶりにワインを用意させた。
 前夫がワインが大好きな竜族で、領地内の荘園で栽培・醸造させていたものだ。
 彼はまだ製造数が少なく、いまのように醸造が軌道に乗る前に逝ってしまった‥‥‥

「お前はまだ子供だから、少しだけだよ、ハーミア?」

「そんな、旦那様!?
 ハーミアだってもう、結婚したのです!
 子供ではありません!」

「そうだね。
 わたしはお前とあまりにも年齢が離れているが、それでも愛しているよ」

 あの優しい声が、その豊潤な香りが頭を満たす度に、ハーミアの胸を悲しみが満たしていく。
 二年前のあの魔族との大混戦が無ければ‥‥‥
 彼はまだこの隣に座り、共に笑い、この辺境国という魔族からの侵入を阻止するための困難な難題にも‥‥‥
 あの人とともにならばーー

「解決なんて出来ないけど、どうにか守りはできたはずなのよねえ‥‥‥」

 ぼやくように呟いたハーミアに、侍女たちは怪訝な顔をする。
 なにを解決したかったのか、その意図がつかめずにいた。

「えーと、奥様?
 もう酔いが回ったんですか???」

「あのねー、サーラ。
 年中無休で能天気な、竜族のオスのつがいを探してるあなたと違うのよ」

 侍女はそれはあまりにもひどいです、そこまで切羽詰まったことは‥‥‥と涙する。
 姉がもう嫁に行くとなれば、自分にも幸せが来て欲しい。
 そういう思いがあるのは事実だったが‥‥‥
 サーラの泣き顔を見ながら、ワインを飲む席に同席しているグランは別のことを考えていた。

「御主人様、失った子供たちを取り戻すお考えですか?」

 それは、二年前の戦争で魔族側に奪われた領土のことだ。
 あいにくと、相手側の奮戦と双方の被害の割に、失った土地にはなんの価値もない荒涼とした草原地帯だ。
 いまさらどうこうする気は、ハーミアにはなかった
 それに、

「無理よ、グラン。
 旦那様は竜王様配下でも五指に入る武将だった。
 帝国との同盟のためにわたしを妻にされ、この辺境国を守られたけど。
 相討ちになったのは、魔族でも名高い魔王配下の四代将軍の一人よ?
 あれほどの能力をもった相手を‥‥‥。
 いまから軍備を揃えて国境を奪い返せと言われるならもう、帝国を抜けるわ」

 もう、数本目になるボトルをサーラに開けさせて、注がせるとハーミアは飲むペースを下げることなくそれを愛飲していく。
 さすが、竜族の血筋も混じっているだけはあるなと。
 グランは違う意味で感心していた。

「あのねえ、グラン。
 この国の財力は帝室の直轄地から上がる税金に匹敵するくらいあると思うわ。
 でもねえ、あれを見たんじゃ。
 今更、魔族との戦いもあきれてできないわよ」

「あれですか。
 そうですね、我が国と帝都の間にあるあの帝室の直轄地がまさかあれほどとは‥‥‥」
 
 違うわよ、とつまみに用意させたハムをフォークで突き刺しながらハーミアは言う。

「それは単に金鉱脈だの、ミスリル鉱石だの。
 そんなものでしょ?
 あんなの、どうでもいいのよ。
 いざとなれば反乱を起こして奪いにいけばうちの辺境国でも同じように鉱山運営してるんだから!!
 資源活用なんてどうにでもなるわよ。
 もう一つの方よ」

 はあ、それはそうですが。
 しかし、あれに手を着けるのはいささか問題があるのでは?
 そうグランは具申する。

「御主人様、あれは鉱山の地下に埋もれているとはいえ‥‥‥。
 魔族が絶対に奪還したいものであることは理解できますがーー」

「そう、そこよ。
 あの債権のリストの中にあった、直轄地に使役されてる亜人の奴隷の人数を見て驚いたわ。
 あの規模なら、まあ千人ならまだわかるけど。
 その三倍、しかも、近衛兵団が常駐しているかと思えばそうでもない。
 たった数百人の騎士団とーー」

 ハーミアの言葉を受けてグランがあとを継ぐ。

「神殿関係者、で、ございますね。
 それも大地母神様の。
 何を封じているか、もしくはまだ発掘しているか。
 どちらかですな」

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