殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

文字の大きさ
10 / 79

秘密の聖女が皇太子殿下から債権利息をふんだくる件 4

しおりを挟む
「君は本当にひどい女性だな、レベッカ。
 毎度、まいどわたしの悲鳴を聞いて楽しんでいるのだからーー」

「あら、そんなことはないわよグラン?
 あなたのあの恐さに震える様はとても可愛いもの。
 食べたくなるほどに」

「それは冗談になっていないぞ、お前。
 この関係もーーまだ、ハーミア様には申し上げるには‥‥‥どうなのだ?
 わたしの寿命はもう長くはないぞ?」

 グランは四十代。
 しかし、竜族のレベッカはその倍は生きている。
 そして、竜族の寿命はほぼ千年。
 グランはその点で揺れていた。

「あら、前公爵様も竜族ですわ。
 そう心配なら、あなたが観念して申し上げるべきではないの?」

 まさか女から言わせる気ですか?
 婚姻をしたいと。
 レベッカはそうグランを見つめて言ってやる。
 まるでいじめて楽しんでいるように。

「はあ‥‥‥。
 わかったわかった。
 わたしの求婚をこの二十年もずっと笑って退けてきたのは君じゃないか。
 まったく、酷い女性だ。
 そのリストのようだよ、本当に」

 だって、あなたは少年の頃からいじめると可愛いんですもの。
 レベッカは言わないが心でそう呟いていた。
 その手元にあるリストの内容がこれから起こすであろう事態も、いまの自分たちのようだ。
 そう思いながら。

 その夜。
 転写を終えた債権一覧はレベッカの背で悲鳴を上げながら‥‥‥
 帝都から辺境国に向かい飛んだグランの手ずからハーミアに渡されることになる。

「まったく。
 飛行などというものは最悪です‥‥‥。
 それとお願いがございます、御主人様」

「お願い?
 ああ、レベッカとの結婚ならさっさとなさいよ、グラン。
 そうすれば、竜族の魔法で延命もできるのだから。
 あと数百年は幸せに、彼女の背中で悲鳴を上げれるから」

 素知らぬ顔で恐ろしいことを平然と言い放つ主人に、グランは開いた口が塞がらない。

「せめて、御苦労の一声ほどはー‥‥‥」

「だって長いんだもの。
 待たせ過ぎたあなたが悪いのよ。
 ねえ、レベッカ?」

 そう会話を振られてレベッカはグランを見てしまう。
 もう十年以上求婚されてはそれを受け流してきたのは自分だからだ。

「えーそうです、いえ、そうでもないかもしれません」

「どっちなのよ?
 まあ、いいわ。するなら早くなさいな」

 ごめんなさい、そう視線で謝るレベッカは可愛らしい。
 グランは気を取り直して報告を続けた。

「奥様、大公殿下なのですが‥‥‥」

「ザイール大公様?
 どうせ、うまく逃げ回ろうと画策してたんでしょ?
 お腹の上に顔が乗る面積がさらに増えてなかった?」

 興味ないわ、あんな方の行く末なんて。
 殺しても死なない程度にはしぶといはずだもの。
 そうハーミアは言うがーー

「いえ、それが大変痩せておられまして。
 まるで、思い悩み、食事と睡眠も取れなかった。
 そのようなご様子で‥‥‥」

「へえ、あのヤクザ大公様が?
 ふうん‥‥‥少しは人の心もあったのか。
 それとも、八方ふさがりで悩んでいたか。
 それによってはこちらも考えが変わるわねえ‥‥‥」

 あなたはどう見る?
 そう問われ、グランはあの邸宅で感じた雰囲気。
 そして、家臣たちの大公への接し方から推測するにと前者ではないかと思います。そう告げた。
 世間ではヤクザ大公と言われていても、家臣に慕われているように見えました、と。

「そうなんだ。
 なら、面白い駒になるかもね。
 でもあれねえ、殿下が前例を作ったからって。
 まさか、殿下御自身が他にも御婚約をなされていたなんてね。
 面白いものが債権にあるじゃない。
 陛下がこれほど親バカだとは思わなかったわ‥‥‥」

 ハーミアはあの瞬間を思いだして怒りに拳を握る。
 自分はまだ皇帝陛下からサインを頂いておらず、女公爵だったから婚約破棄も出来た。
 まさか、あの女とも婚約していたなんてー‥‥‥。
 それに他にも数名。
 全部、聖女候補ばかりじゃない。
 全員を賭けの対象にしていたなんて。
 呆れるにも程があるわ。
 ハーミアはそう怒りを交えてぼやいていた。
 グランが買い取った債権一覧の中にあったリストには‥‥‥
 彼女以外の聖女候補は、全員が正式な婚約と婚前契約書を陛下のサイン入りで交わしていたのだから。
 


「ほんと、クズね。
 あのエミリオ皇太子。
 そして、あの女。
 レベン公爵令嬢カーラ、ね。
 なにが婚約するよ、よ。すでに側室か正妃か。
 陛下すらその思惑があったのねえ。面白いわ。
 それに陛下までこんなに内情がひどいなんて。
 まあ、側室を設ける意味では‥‥‥この子たちとの婚約は正しいと思うけど」

 ただ、これだ。
 ハーミアは不敵に笑う。
 これだけは、最終兵器になる。
 そんなものの名前がそこにはあった。

「この不動産。
 これは最高ねー‥‥‥。
 帝国をひっくり返してやるわっーー!!!
 あのバカ親子、覚悟なさいよ‥‥‥」

 復讐に薄ら笑いを浮かべて燃える主人は雄々しいが、強すぎてもう誰も夫にはならないだろうな。
 レベッカとサーラ姉妹、そして、グランはそう思いため息をつくのだった。

しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

処理中です...