9 / 79
秘密の聖女が皇太子殿下から債権利息をふんだくる件 3
しおりを挟む
その書類を眺めてグランが最初に漏らした一言はレベッカに興味を与えた。
「ふん‥‥‥困ったものだ」
ザイール大公家からの帰り道。
馬車の中でハーミアの宰相であるグランはレベッカにそう漏らしていた。
困った?
何をお困りなのかしら、宰相閣下は?
これは面倒なことになる。
そう言う彼の手元にある、大公から譲り受けた債権一覧に彼女の目は向かう。
「御主人様にどう報告したものかな。
愚劣でバカなのは‥‥‥エミリオ皇太子だけかと思っていたのだがなあ。
しかし、あの大公様。
噂よりも細かったじゃないか?」
細かった?
まあ、確かにそう言われればそうだ。
二人は彼があの事件の日から今日まで、思い悩みロクに食事も睡眠も取らないでいたことを知らない。
ただーー
「あのデザインの衣装は、とても古く感じたけど。
まさか、あのヤクザまがいで有名な大公様が、ストレスや不眠で急激に痩せたなんてことがあったら‥‥‥。
奥様は大喜びするでしょうね?
でも、そこに何があるのかしら?」
そこに、やり手のこの上司を困らせる何かがあるのだろう。
さて、これは聞くべきか、聞き流すべきか。
妹のサーラなら興味とあの軽い性格で首を突っ込んで毎度のごとくトラブルに巻き込まれるだろう。
わたしはどうしようかなー?
レベッカと違い、純粋な人間のグランはどうして欲しいだろう?
心労を溜めさせて、以前のあの事件の時のように寝込ませてもこちらも寝覚めが悪い。
「あの山を砕いて妹のウロコをボロボロにハーミア様がされた時ほどにお困りなら。
おうかがいしますわよ、閣下?」
君は意地悪だな、レベッカ。
降参したように宰相はなら、聞いてくれるかい?
そうお願いして話し出した。
「総計で四十ほどある。
爵位、剣、宝石類、荘園の監督権、皇太子殿下に陛下から下賜された領地。
王都内の不動産、ま、困ったのはそこだ。
見てみるがいい」
書類の束を手渡され、揺れ動く馬車の中だと酔いそうなんだけど。
そうぼやいてレベッカはそれに目を通す。
「天空を翔ける竜族が酔うわけがないだろう。
もう少しまともな冗談を言ったらどうなんだ?」
「あら、そうおっしゃるなら閣下の困ったなどと言われるその言葉すら、ご冗談ではないですか?」
なかなか、古めかしい建物の名前ばかりが数十件そのリストには名を連ねていた。
その中には、歴史的な価値の高いもの、この王都の運営には欠かせないもの。
そして、最大の収穫物。
それはーー
「我が領地の隣にあるあの山脈一帯の管轄権とは、ね。
あの土地がなぜ帝室の直轄地だったか、納得がいくわ。
これで数代は安泰ね、わが公爵家は。
それにしても、この物件は面白いわ。
奥様、必ず喜ばれるわよ?
帝室がこれまで大事に大事に隠してきたものが、すべて明るみに出ますわねー‥‥‥」
「そうだ。
この国の建国からこれまでの歴史すらも包括する建物すら皇太子殿下の名義だったとはな。
陛下の次期皇帝にエミリオ皇太子殿下を推す、その御意思は本物だった。
そういうことだな‥‥‥」
それもありますけど、とレベッカは言いこれは?
と、ある項目を指差した。
「ん?
そこは荘園一覧だろう?
特別に価値のある物があるわけではないし。
まあ、作物を利息として取り立て、公社を立ち上げて帝国内外で販売すればいいではないか?」
「いえ、閣下。
これ、二枚ありますのよ?
二枚目をご覧になりました?」
二枚?
どうせ同じ内容ならば別に気にする事などー‥‥‥。
「呆れたな。
あれか。
あの時のあれが、そのまま前例を作ったのか‥‥‥」
「そうですわ。
不動産の中にある紳士クラブの建築物も債権一覧に在りますから。
メンバーをもう少し厳選し、風紀を律するべきですわねー‥‥‥」
「主にどう申し上げたものかな。
さぞや喜ばしいと感極まって言われることだろうよ‥‥‥」
もう、わたしは帝都を離れる気はないぞ。
君はそれの写しを文官に撮らせたら、そのまま実家に戻るといい。
そう、宰相はこの件から早く手を引きたがっていた。
「あら、閣下もご一緒に参りましょうよ。
一夜も飛べば、辺境国などすぐですわ?
まさか、御自身が発見されておいて‥‥‥か弱い女に押し付けるなんて。
そんな紳士らしからぬことはなさいませんよね?
このリストにあるような、あの紳士クラブの面々のようなことは?」
もちろん、わたしは閣下を信じていますわよ?
サーラとは別の意味で毒を持つレベッカは優しく甘えるようにグランに忠告した。
「見つけられたのは、閣下でございます。
そう、ハーミア様には申し上げますからね?」
と。
本当に竜族というやからは‥‥‥
宰相は空を飛ぶのが苦手なのだ。
あの速度も高さも。
何もかもが恐怖でしかない。
悲鳴を上げている自分を、レベッカには見られたくなかった。
「ふん‥‥‥困ったものだ」
ザイール大公家からの帰り道。
馬車の中でハーミアの宰相であるグランはレベッカにそう漏らしていた。
困った?
何をお困りなのかしら、宰相閣下は?
これは面倒なことになる。
そう言う彼の手元にある、大公から譲り受けた債権一覧に彼女の目は向かう。
「御主人様にどう報告したものかな。
愚劣でバカなのは‥‥‥エミリオ皇太子だけかと思っていたのだがなあ。
しかし、あの大公様。
噂よりも細かったじゃないか?」
細かった?
まあ、確かにそう言われればそうだ。
二人は彼があの事件の日から今日まで、思い悩みロクに食事も睡眠も取らないでいたことを知らない。
ただーー
「あのデザインの衣装は、とても古く感じたけど。
まさか、あのヤクザまがいで有名な大公様が、ストレスや不眠で急激に痩せたなんてことがあったら‥‥‥。
奥様は大喜びするでしょうね?
でも、そこに何があるのかしら?」
そこに、やり手のこの上司を困らせる何かがあるのだろう。
さて、これは聞くべきか、聞き流すべきか。
妹のサーラなら興味とあの軽い性格で首を突っ込んで毎度のごとくトラブルに巻き込まれるだろう。
わたしはどうしようかなー?
レベッカと違い、純粋な人間のグランはどうして欲しいだろう?
心労を溜めさせて、以前のあの事件の時のように寝込ませてもこちらも寝覚めが悪い。
「あの山を砕いて妹のウロコをボロボロにハーミア様がされた時ほどにお困りなら。
おうかがいしますわよ、閣下?」
君は意地悪だな、レベッカ。
降参したように宰相はなら、聞いてくれるかい?
そうお願いして話し出した。
「総計で四十ほどある。
爵位、剣、宝石類、荘園の監督権、皇太子殿下に陛下から下賜された領地。
王都内の不動産、ま、困ったのはそこだ。
見てみるがいい」
書類の束を手渡され、揺れ動く馬車の中だと酔いそうなんだけど。
そうぼやいてレベッカはそれに目を通す。
「天空を翔ける竜族が酔うわけがないだろう。
もう少しまともな冗談を言ったらどうなんだ?」
「あら、そうおっしゃるなら閣下の困ったなどと言われるその言葉すら、ご冗談ではないですか?」
なかなか、古めかしい建物の名前ばかりが数十件そのリストには名を連ねていた。
その中には、歴史的な価値の高いもの、この王都の運営には欠かせないもの。
そして、最大の収穫物。
それはーー
「我が領地の隣にあるあの山脈一帯の管轄権とは、ね。
あの土地がなぜ帝室の直轄地だったか、納得がいくわ。
これで数代は安泰ね、わが公爵家は。
それにしても、この物件は面白いわ。
奥様、必ず喜ばれるわよ?
帝室がこれまで大事に大事に隠してきたものが、すべて明るみに出ますわねー‥‥‥」
「そうだ。
この国の建国からこれまでの歴史すらも包括する建物すら皇太子殿下の名義だったとはな。
陛下の次期皇帝にエミリオ皇太子殿下を推す、その御意思は本物だった。
そういうことだな‥‥‥」
それもありますけど、とレベッカは言いこれは?
と、ある項目を指差した。
「ん?
そこは荘園一覧だろう?
特別に価値のある物があるわけではないし。
まあ、作物を利息として取り立て、公社を立ち上げて帝国内外で販売すればいいではないか?」
「いえ、閣下。
これ、二枚ありますのよ?
二枚目をご覧になりました?」
二枚?
どうせ同じ内容ならば別に気にする事などー‥‥‥。
「呆れたな。
あれか。
あの時のあれが、そのまま前例を作ったのか‥‥‥」
「そうですわ。
不動産の中にある紳士クラブの建築物も債権一覧に在りますから。
メンバーをもう少し厳選し、風紀を律するべきですわねー‥‥‥」
「主にどう申し上げたものかな。
さぞや喜ばしいと感極まって言われることだろうよ‥‥‥」
もう、わたしは帝都を離れる気はないぞ。
君はそれの写しを文官に撮らせたら、そのまま実家に戻るといい。
そう、宰相はこの件から早く手を引きたがっていた。
「あら、閣下もご一緒に参りましょうよ。
一夜も飛べば、辺境国などすぐですわ?
まさか、御自身が発見されておいて‥‥‥か弱い女に押し付けるなんて。
そんな紳士らしからぬことはなさいませんよね?
このリストにあるような、あの紳士クラブの面々のようなことは?」
もちろん、わたしは閣下を信じていますわよ?
サーラとは別の意味で毒を持つレベッカは優しく甘えるようにグランに忠告した。
「見つけられたのは、閣下でございます。
そう、ハーミア様には申し上げますからね?」
と。
本当に竜族というやからは‥‥‥
宰相は空を飛ぶのが苦手なのだ。
あの速度も高さも。
何もかもが恐怖でしかない。
悲鳴を上げている自分を、レベッカには見られたくなかった。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる