殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女が皇太子殿下から債権利息をふんだくる件 2

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「はああああーーーーーー!!??
 どうしようーーどうすればいんんだあああーーーー!!!!」

 まるで豚足、いや豚の絶命するときの悲鳴を上げるように‥‥‥
 この事態をイカサマポーカーで皇太子殿下の資産を巻き上げたヤクザ大公閣下は叫んでいた。

「まずいいいーーーまずいぞおお。
 兄上は本気だ‥‥‥あの怒り様は戦場で敵国の王の首を跳ねたあの時と‥‥‥同じだ。
 わしはー‥‥‥」

 殺される。
 それはほぼ、確定事項だった。
 よくて生涯幽閉。
 悪くてーー

「ギロチンは嫌だああああ!!!
 あんな、下級なゴミみたいな市民どもにニタニタと見られながら死んでいくなんて!!!
 それならまだ自分で死んだ方がましだ!
 わしも大公。
 そうだ、大公なのだー‥‥‥。
 大公なのだ‥‥‥わしは」

 主人が館であの一件で皇帝陛下に叱責を受けて以来。
 ほぼ毎日のように、寝室からでてこないまま食事もロクにとらないその様は‥‥‥
 世間から見ればあまりにも良い話のネタ、だろう。
 しかし、彼の家臣たちは主人を心配していた。
 いかにあこぎでも、ヤクザまがいでも彼は大公。
 貴族としての誇りある行動だけは、心がけていたといえば皮肉にはなるが。
 それでも家臣にはなるべく便宜をはかってくれる良い主だったからだ。

「家臣たちがいるのだ。
 わしには‥‥‥あの者たちがいたから、好き勝手できたのだ。
 巻き添えにするわけにはーーいかん‥‥‥」

 兄上には自分が自害する、そう言おう。
 駄目ならば斬首刑でも構わん。
 甥をもて遊ぶのに夢中で愚かにも、帝位争いにまで干渉したのは自分なのだ。
 いかにばかとはいえ‥‥‥

「あれでも可愛い甥だ。
 あれにまで、責任を取らせることもあるまい。
 それにクルード女公爵殿には大変な恥をかかせてしまった。
 情けない限りだ。
 わしが、全責任を負うべきだろう‥‥‥」

 二週間。
 ほぼ飲まず食わずで睡眠も取らずに悲鳴と苦悩とそして、後悔の荒波に揉まれたザイール大公。
 彼は以外にも、スマートになっていた。
 いやむしろ、その腹に蓄えていた脂肪が彼を生かしていた。
 そう言っても過言ではないかもしれない。

 寝室に置いてある侍女を呼び寄せる手で振る鈴を彼は幾度か振った。
 リン、リンと潔くなるその音に、主を心配してやつれていた家臣団もまた救われるように彼の寝室のドアを開けた。

「大公様!!
 良かった、まだ生きていらした‥‥‥」

 侍女のその言葉に、初めてザイール大公は生きていて良かった。
 そう思い涙を流した。
 こんな鬼畜だのヤクザだのと言われ放題で、どうしようもない放蕩者だった自分にもこれだけの。
 心配をしてくれる者たちがいるなんてー‥‥‥

「済まぬ。
 わしが愚かであった。
 済まぬー‥‥‥」

「そんな、旦那様。
 なにをおっしゃいますか。
 わたくしどもにはそれでも、親類が病気になったり、息子が結婚をしたりすれば祝辞と御品なり、薬代を与えて下さった恩人でございます!!!」

 侍女の一人がそう強く言うと、他の執事や従僕たちも口々に同様の言葉で彼の心を癒してくれた。
 ああ、わしは最後に救われたのだな。
 大地母神様は、最後に素晴らしい宝物を与えて下さったのだ。
 ザイール大公はそう思い、彼らに感謝をすると、

「済まぬが、用意をしてくれ。
 今回の件、わしのところで食い止めねばあの‥‥‥エミリオにまで陛下の怒りが向かうだろう。
 者ども、今日まで仕えてくれて大義であった。
 出る前に、それなりの資産を分け与える。
 持ち帰り、どうかつつがなく暮らしてくれー‥‥‥不出来な主によく仕えてくれて感謝する」

「そんなーー!!??
 まさか、旦那様‥‥‥あんな、放蕩の皇太子殿下の分まで責任を!?」

 執事が悲鳴を上げる。
 そこまでする必要など、無いはずです、と。
 もう、陛下に全てを差し出した後、残されたわずかな領地に移りみなで暮らしましょう、と。
 しかし、大公は首を縦にはふらなかった。
 がっくりと肩を落とす執事を置いて、大公は侍女たちと共に仕度に入ろうとしていた。
 そんな時だ。

「閣下、大変でございます。
 御来客が!!!」

 従僕の一人が慌てて衣装部屋に駆け込んできた。
 その慌てぶりに、ザイール大公は、ああそうか。
 陛下の方が早かったか。
 そう、悔やもうとしていた。

「誰がいらしたのだ?
 そのように取り乱すものではないぞ? 
 落ち着いて話してみろ」

 従僕はその言葉に救われたらしい。
 息を荒くしていたのを整えながら、

「はっ。失礼致しました閣下。
 ただいま、クルード辺境国の帝都別宅より御使者が参っております」

「なに?
 あの女公爵様の御使者が!?
 それはいかん、すまんが皆の者、急いで用意をしてくれ。
 ああいかんな。
 腹がこんなにへこんでは‥‥‥若い頃の衣装で済まそう。
 さあ、お前は御使者を来賓室にお通ししなさい。
 くれぐれも、失礼の無いようにな」
 
 旦那様、これはもう二十年前のものでデザインがする過ぎるのでは?
 いや、構わん。
 もうそんなことを言っている場合ではない。
 そんなやりとりを尻目に、従僕はハーミアの代理で訪れていたサーラの姉を邸宅の中へと案内するために階下に向かった。

「さすが、皇帝陛下の弟君。
 ザイール大公様の御屋敷。
 荘厳ねえ‥‥‥」

 妹のサーラとは違い、いくぶんおっとりとした姉のレベッカは数人のお供と、帝都の別邸を任されている宰相とともに大公の屋敷を訪れていた。
 公爵家でもあり、辺境国でもあるハーミアの腹心の部下、宰相のグランはまだ若い四十代。
 切れ者として知られていた。

「ほとんどはイカサマなどで手に入れた物だと耳にしておりますがね、レべッカ殿。
 さて、我が主の意志は通用しますかな?」

 債権を買い取ってらっしゃい!!
 その一言でグランは主が何をしようとしているかを理解していた。
 ただ、ザイール大公は一癖も二癖もある人物だ。
 予算を軽く超える額を提示されれば呑むしかなくなる。
 あちらがこちらの欲しいものを持っているのだから。
 どこでうまく切り上げるか。
 悩みどころだな。
 グランはそう心配していた。しかし、彼らの不安はあっけなく解消される。

「これはお待たせを致しました」

 そう言い現れた人物が最初誰だか、二人には分からなかった。
 あまりにも痩せ細りすぎていたからだ、ザイール大公が。
 グランがこれは押せば行けるかもしれない。
 そう思い、実は債権を買い取りたい。その権利を譲渡して下さい。
 相応の値段で買い取ります、そう具申した時。
 大公は呆けた顔をしていた。

「しっしかし、それでは女公爵様にご迷惑がーーー」

 いいえ、そうグランは首を振る。
 我が主は、それなりに覚悟をしております。
 何より、大公様の御負担が減るはず。いかがですか?
 その言葉は、ザイール大公にとっては天からの贈り物だった。
 こうして、ハーミアはまんまと皇太子殿下の債権を買い取ったのだった。

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