殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、魔王と共謀する件 2

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 ハーミアが勝ち誇ったように言おうとした時だ。
 魔王は。
 フェイブスタークは殺意の仮面を失っていた。
 それはまるでー‥‥‥そう、行方不明になっていた幼い子供を見つけた親のような。
 そんな、安堵の顔だった。

「もう、よい‥‥‥ハーミア殿。
 いたのであろう?
 わしに似た、巨大なクリスタルのような魔石の中に眠る‥‥‥我が娘が‥‥‥」

「‥‥‥娘!?
 まさか、そんな関係とはー‥‥‥」

 魔王はさみしげに首を振ってため息をついた。
 そうか、まだ生きていたか。
 そう、呟きながら。

「あれはな、娘のエミスティアはわしの最初の妻の子だ。
 あの日、あの火山が噴火した時。
 あの子は己の命を賭けて結界を張り宝珠を守ると言って残った‥‥‥魔神様の巫女だったのだ。
 だが、我らにはもう宝珠は用がない。
 魔素を作り出す術を開発したからな‥‥‥」

「用がないってー‥‥‥では、あの二年前の侵攻は!?
 あの戦いは何のために!?
 魔神様の神殿を、聖地奪還を目指してきたのではないのですか!?」

 ハーミアは思った。
 もしかしたら、自分は大変な誤算をしているのではないか、と。
 神殿なんて、どこにでも作り替えれる。
 あの宝珠も、その気になれば新しく作り、魔神の御霊を召喚すればいいだけの話だ。
 もし、そうだとしたら彼らが種族をかけて取り戻そうとしているのはーー

「なあ、ハーミア殿。
 おかしいとは思わんか?
 神は天界におり、しかし、魔族は地上にいる。
 魔の神は天界にいると思うか?」

「まさか‥‥‥、魔族とはーー???」

 フェイブスタークは困り果てたようにハーミアを見た。
 どうか理解して欲しい。
 そう言っているようでもあった。

「魔界は地下にある。
 だが、地下にある魔界の種族の王はわしではない。
 さらに多くの魔族がおり、王も二十四名ほどな。
 あの神殿の役目は、地下からこの地上に他の魔族を上げないための蓋なのだ。
 分かるか、ハーミア殿。
 かつて、多くいた魔の種族は地上を目指して天界と戦いを繰り広げた。
 だがな、わしは疲れたのだ。
 地下にいれば争いが絶えん。
 わしの配下にいる種族も死んでいく。
 わしはな、ある時‥‥‥魔神様と契約を交わしたのだよ。
 地下に戻らぬ代わりに、地上の誰もおらぬ北の地を頂きたい。
 魔神様も地下世界と天界の争いに嫌気がさされていた。
 そして成ったのだ。
 地下と地上をつなぐ穴に蓋をし、その番人をわしがする。
 代わりに、地下世界と天界との争いを終わらせる。
 そういう、神たちの契約が交わされた。
 あの地を、帝国に奪われるまでは、な?」

 とんでもないことになってきた。
 あの美しい少女がその蓋の番人だったなんてー。
 ハーミアは理解してしまった。
 帝国がした行為は、天界と地下世界との争いを再開させるほどの大罪だったことを。
 だから、あの鉱山に大地母神の大神官が派遣されていたことを。
 エリーゼたちは、弱まりつつあった蓋を強化していたのだ、と。

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