突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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第二章 王国の闇と真の悪

第四十八話 シルドの本心

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「奥方どの‥‥‥」

 沈黙を破ったのは、やはり、エルムンド侯だった。

 シルドをこの場で一番深く知る、戦友であり、仲間でもある彼。

 エルムンド侯は、眼前で何も言わないシルドの本心に気づいていた。

「シルドはあなたをーー」
 しかし。

 その全てを語る前に、彼の言葉を遮ったのもやはりシルドだった。

「エルムンド!!
 もう‥‥‥いい。
 僕が言う」

 そう言うと、シルドはミレイアの持つ剣先を自身の心臓の位置に当てた。

「突きたければ、ここだ。
 刃は横にするといい。
 縦にもっては骨に弾かれる」

 その行為を目の当たりにしたエルムンド侯は慌てて止めに入る。

 だが、シルドはそれをいいんだ、と片手で制止した。

「本心を語ろう、ミレイア。
 あの時。
 僕が言った言葉はこうだったはずだ。
 --その蒼穹を思わせる瞳。
 すべての光を吸いこむような漆黒の髪。私はそなたに運命を感じましたーー
 と。
 あれは嘘ではない。
 だが、許してくれとも言わない。
 だが、かなうならば。
 あと数年だけ時間をくれないか?」

 あと数年?

 なんの話?

 ミレイアは混乱する。

 エルムンド侯はそれを話すな、そう止めるがシルドは聞かない。

 ミレイアには疑問ばかりあふれ出て来る。

 とにかく、答えが欲しかった。

「あと数年で、なにをされる気ですか。
 このまま行っても、北方でのみじめな生活が待つだけ。
 あなたが本当に王子の言うように返り咲けるとはーー
 わたしは思いません」

 そう、ミレイアは冷たく言い放つ。

 だが、シルドは毅然として確固たる決意があるように。

 ミレイアに述べた。

「僕とこのエルムンド侯。
 そして銀鎖の影、それ以外にも王国にある有力貴族と騎士団。
 それらは、王子と法王庁の癒着、枢軸連邦の王国への介入に対して腹を立てている。
 僕らは王国を変える。
 王子はまだ、王子だ。
 王太子殿下はいらっしゃるが、幼い。
 時間が必要なんだ、ミレイア」

 はっ‥‥‥

 そう、ミレイアは笑ってしまう。

 王国を変える?

 時間が必要?

 笑えてしまって仕方がない。

 まったく、情けない!!! 

 わたしの伴侶になる男は、一生、王国を優先するつもりのバカ男だ。

 稀代の魔導士シルドなどど呼ばれているくせに‥‥‥

 剣を水平に構えてミレイアは覚悟を決めた。

 返答次第では、彼を殺し、自分も死のう、と。

「ねえ、シルド様。
 王族に連なる家柄なんですよね?」

「なに?
 まあ、一応はそうだがーー」

「なら、王族のを除いて、神聖ムゲール王国で王様の次に地位と権力のある貴族はなんていうのですか?」

 なにを言っている?

 シルドには質問の意図が理解できていない。

 この半分泣いたようで笑ったような顔をするミレイアの心がわからない。

「それはーー貴国と同じく、大公だ。
 奥方どの‥‥‥」

 かわりに答えたのは、エルムンド侯だった。

 彼のこの少女の奇行についていけなかった。

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