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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第二話 エイシャの記憶の片鱗
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そういえば‥‥‥
そう、エイシャの脳裏にかすかながらよみがえる記憶があった。
あのシルドを執務席に着かせて、翌週のある朝のことである。
隣で、朝から晩まで面白くも楽しくもないであろう公務に忙殺される夫がエイシャは愛おしくて大好きで仕方がない。
できることならば、こんな公務などすべて文官に任せ、新たに宰相になった若い騎士あがりの毛色違いの切れ者がいた。彼に全てを任せてもよかったのだ。
その若者は、前々ハーベスト大公ユンベルトの可愛がっていた人物らしい。
大公軍の一師団の指揮を任され、それでいて領地経営にも秀でた才能を見せていた。
「もし、十年後に起こす予定の乱を鎮圧するのであれば、彼だろう」
そう、シルドは言っていたし、ユンベルト帝国宰相も似たような考えだった。
しかし、とエイシャは思う。
シルドはどうあっても、元王国の王族。
その全てを捨ててきたとはいえ、この帝国内では最下位の笑われ者なのだ。
たとえ、ハーベスト大公家というお飾りがあったとしても彼はそこから這い上がらなければならない。
そうしないと、起こせなくなるのだ。
あの、憎たらしいと言うべきか、すべてを段取りした天才的な姉の計略は掻き消えてしまう。
内乱を起こす大義名分は、いくつあるがそれは十年後による。
その時代のその情勢にあわせたものでなければ、民衆も、臣民も動かない。
それまでにシルドには人心を掌握してもらわなければならないのだ。
「王国の全てを捨てて帝国に亡命し、その恩義すらも忘れた飼い犬以下の裏切り者!」
そう、シルドは呼ばれ、人々から忌み嫌われーー
「そして、わたしとずっとエシャーナ公領の大河の果てで二人で暮らしましょう、旦那様」
エイシャはシルドの寝顔を見るたびにずっとそう言い続けてきた。
ただしー
「子供は十年我慢なさい!!
我が子に、裏切り者。
国を簒奪した卑怯者。
そう、周りから呼ばせたいのですか?」
エイシャはその点にだけは厳しかった。
シルドがなにを言おうが、共に寝ることはあっても、身体を許すことはしなかった。
「いいですか、旦那様!?
エイシャは、魔女の女帝ミレイアの再来と呼ばれても結構です。
でも、子供たちにそんな言葉を誰かから吐きかけられるような。
そんな親にだけはなりません!
はるか辺境のかなたで誰も知らぬ名前と身分で。
新しい人生を始めるまで、我慢なさいませ。
もちろんーー」
そう、この言葉を言ったあとになにかがずっと頭の中にひっかかっていたのだ。
それがなんなのか。
農家だのなんだのと、エルムンド侯に馬鹿にされた少し前。
あの、ルケーア子爵の領地へと行かされた馬車の中で二人が交わしていた会話の中にーー
かすかに、寝物語のように記憶に残っている言葉がある。
--
「ああ、もうやめろ、エルムンド侯。
妻が聞いたら誤解する!!」
「だが、本当のことではないか。
今夜のお前はあの時の、世間知らずの侯爵家令息シルド殿、そのものだった」
--
なんだったのかしら?
この会話の前に、何かがあったような‥‥‥???
どうにももやがかかっているようで思い出せない。
だが、あの夜。
この大公家での晩餐会に関係している気はするのだ。
さて、なんだったのかしら‥‥‥
エイシャはシルドの髪をそっと撫でて考える。
「あの夜の奇行はすべて旦那様の仕組まれたことだった、とまでは言えないけれど。
でも、即興であんなこと、できるものかしら?
まるで、過去に同じようにーー」
おや?
そう言えば、こうも言っていた気がする。
--
「ああ、そうだな、シルド。
あの日からお前は変わった。
単なる遊び人。どうしようもないクズ侯爵家令息から恩人の復讐を果たすためになあ?
あの俺と王都で遊び暴れていたあのシルドがだ。
いまでは、稀代の魔導師などと言われるように‥‥‥」
--
「遊び人?
クズ侯爵家令息‥‥‥???」
これはどうにも面白くない単語だ。
是非、確認しなければならない。
エイシャの中に流れるエシャーナ公。
父親譲りの武人の血がなぜか沸き立っていた。
そういえば‥‥‥
そう、エイシャの脳裏にかすかながらよみがえる記憶があった。
あのシルドを執務席に着かせて、翌週のある朝のことである。
隣で、朝から晩まで面白くも楽しくもないであろう公務に忙殺される夫がエイシャは愛おしくて大好きで仕方がない。
できることならば、こんな公務などすべて文官に任せ、新たに宰相になった若い騎士あがりの毛色違いの切れ者がいた。彼に全てを任せてもよかったのだ。
その若者は、前々ハーベスト大公ユンベルトの可愛がっていた人物らしい。
大公軍の一師団の指揮を任され、それでいて領地経営にも秀でた才能を見せていた。
「もし、十年後に起こす予定の乱を鎮圧するのであれば、彼だろう」
そう、シルドは言っていたし、ユンベルト帝国宰相も似たような考えだった。
しかし、とエイシャは思う。
シルドはどうあっても、元王国の王族。
その全てを捨ててきたとはいえ、この帝国内では最下位の笑われ者なのだ。
たとえ、ハーベスト大公家というお飾りがあったとしても彼はそこから這い上がらなければならない。
そうしないと、起こせなくなるのだ。
あの、憎たらしいと言うべきか、すべてを段取りした天才的な姉の計略は掻き消えてしまう。
内乱を起こす大義名分は、いくつあるがそれは十年後による。
その時代のその情勢にあわせたものでなければ、民衆も、臣民も動かない。
それまでにシルドには人心を掌握してもらわなければならないのだ。
「王国の全てを捨てて帝国に亡命し、その恩義すらも忘れた飼い犬以下の裏切り者!」
そう、シルドは呼ばれ、人々から忌み嫌われーー
「そして、わたしとずっとエシャーナ公領の大河の果てで二人で暮らしましょう、旦那様」
エイシャはシルドの寝顔を見るたびにずっとそう言い続けてきた。
ただしー
「子供は十年我慢なさい!!
我が子に、裏切り者。
国を簒奪した卑怯者。
そう、周りから呼ばせたいのですか?」
エイシャはその点にだけは厳しかった。
シルドがなにを言おうが、共に寝ることはあっても、身体を許すことはしなかった。
「いいですか、旦那様!?
エイシャは、魔女の女帝ミレイアの再来と呼ばれても結構です。
でも、子供たちにそんな言葉を誰かから吐きかけられるような。
そんな親にだけはなりません!
はるか辺境のかなたで誰も知らぬ名前と身分で。
新しい人生を始めるまで、我慢なさいませ。
もちろんーー」
そう、この言葉を言ったあとになにかがずっと頭の中にひっかかっていたのだ。
それがなんなのか。
農家だのなんだのと、エルムンド侯に馬鹿にされた少し前。
あの、ルケーア子爵の領地へと行かされた馬車の中で二人が交わしていた会話の中にーー
かすかに、寝物語のように記憶に残っている言葉がある。
--
「ああ、もうやめろ、エルムンド侯。
妻が聞いたら誤解する!!」
「だが、本当のことではないか。
今夜のお前はあの時の、世間知らずの侯爵家令息シルド殿、そのものだった」
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なんだったのかしら?
この会話の前に、何かがあったような‥‥‥???
どうにももやがかかっているようで思い出せない。
だが、あの夜。
この大公家での晩餐会に関係している気はするのだ。
さて、なんだったのかしら‥‥‥
エイシャはシルドの髪をそっと撫でて考える。
「あの夜の奇行はすべて旦那様の仕組まれたことだった、とまでは言えないけれど。
でも、即興であんなこと、できるものかしら?
まるで、過去に同じようにーー」
おや?
そう言えば、こうも言っていた気がする。
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「ああ、そうだな、シルド。
あの日からお前は変わった。
単なる遊び人。どうしようもないクズ侯爵家令息から恩人の復讐を果たすためになあ?
あの俺と王都で遊び暴れていたあのシルドがだ。
いまでは、稀代の魔導師などと言われるように‥‥‥」
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「遊び人?
クズ侯爵家令息‥‥‥???」
これはどうにも面白くない単語だ。
是非、確認しなければならない。
エイシャの中に流れるエシャーナ公。
父親譲りの武人の血がなぜか沸き立っていた。
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