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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第六十話 南方大陸の隠された秘密 5
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「シルド」
エイシャは無言のまま彼女を見つめる夫とその膝上に座るダリアに微笑みかける。
ダリアはその視線に恐怖を感じたのか、尾を膨らませて自分の懐へと抱き込んでしまうほどだ。
こうなっても美しいものだな、我が妻は‥‥‥
場違いだと思いながらも、帝国一の美姫はプロム、お前だよ。
シルドはそう言ってやりたかった。
命を賭けて彼女が従えた者。
その仕上げは――自分の務めだ。
「さて、生えるといいんだが、な‥‥‥」
お前は残るか?
そうダリアに問いかけると、
「嫌!!
嫌‥‥‥です、御主人様――」
捨てないで。
置いて行かないでー‥‥‥そう、彼女は嘆願する。
それはエイシャが怖いからだけではない。
それ以上に、この場にいれば―自分の命は十中八九、失われる。
ダリアは獣の勘と言うべきか。
生存本能をひたすらに働かせ、シルドに懇願していた。
助けて欲しい、と。
「ふむ‥‥‥どうする?」
決めるのはエイシャだからなあ。
のんびりとそう無慈悲に返すシルドに、ダリアは絶句する。
全てを握っているのはエイシャだと理解するまでに時間はかからない。
「本気‥‥‥だったんですか?」
「本気もなにも。
ここは人間の世界だ。
そして、この大公家は全てがエイシャのものだ。
僕は単なる入り婿。
なんの権限もない。
わかるか?」
「だって!?
旦那様は大公様‥‥‥」
シルドはやれやれ、そう言いエイシャを指差す。
「女大公はあちらだ。
僕は単なる、下僕その一、に過ぎない。
だいたいダリア、考えてもみろ。
お前、リムとリザを相手に勝てるか?」
「でも、それは――!!
奥様ならなにか魔導やそういった‥‥‥」
ダリアは人間の少女が剣があるとはいえ、あの二匹に勝てるはずがないと断言する。
しかし、
「ないわよ、そんなもの。
でも、シルドは帝国一の魔導士よ?」
「帝国一‥‥‥」
シルドを見上げる、ダリアの視線にはさらに怯えが走る。
自分はどこにいてもいずれ殺される。
あの双子にも、このエイシャにも、シルドにも‥‥‥、と。
「ねえ、ダリア?
シルドを預けるわ。
その間は、あなたは安全かもね?
良い子供を産みなさい」
シルド、そろそろ行ってくれない?
エイシャはそう、夫を促した。
「生きている可能性は?」
席を立ち、ダリアを抱き上げてシルドは妻の側を通るときにさらりと問いかける。
「リムは危ないかもね?
リザは内臓が‥‥‥」
ふん。
なら、まだどうにかなるだろう。
その手がエイシャの頭に置かれた瞬間、黙っていたフェルナンドは思わず叫びそうになってしまう。
「うん、君はそれが一番きれいだよ、我が妻よ」
「凄い‥‥‥」
エイシャの身体からは切り傷も、その顔に大きくあった裂傷も、リムの返り血すらも――消え去っていた。
「治すだけでいいのか?」
ふと、シルドはそれ以外はないのか、と気になって聞いてしまう。
エイシャはそうねえ、と考えて二言ほどうしろを振り返らずに返事をかえした。
「あと、七年は戻らなくてもいいわよ、旦那様。
その間に、ダリアの国に必要な子供とこの大公家に必要な子供を育てておいて頂戴。
アルメンヌでも誰でもいいわ」
「お前‥‥‥」
「あと、あの双子。
従う気があるなら首輪でもつけてここに来させてくれないかしら。
鎖もあった方が良いわね。ただし、二足歩行は永遠に認めない。
そう、言い聞かせてあるから。
聞かないなら、殺していいわ。
旅にはダリアだけにしておいて、オーベルジュ‥‥‥」
「わかったよ、プロム。
七年後にな」
「ええ、あなた」
シルドはその言葉を最後に踵を返して二人の寝室。
あの双子が死の灯を消そうとしているその場へと向かう。
ダリアは何も言えずにいた。
エイシャは無言のまま彼女を見つめる夫とその膝上に座るダリアに微笑みかける。
ダリアはその視線に恐怖を感じたのか、尾を膨らませて自分の懐へと抱き込んでしまうほどだ。
こうなっても美しいものだな、我が妻は‥‥‥
場違いだと思いながらも、帝国一の美姫はプロム、お前だよ。
シルドはそう言ってやりたかった。
命を賭けて彼女が従えた者。
その仕上げは――自分の務めだ。
「さて、生えるといいんだが、な‥‥‥」
お前は残るか?
そうダリアに問いかけると、
「嫌!!
嫌‥‥‥です、御主人様――」
捨てないで。
置いて行かないでー‥‥‥そう、彼女は嘆願する。
それはエイシャが怖いからだけではない。
それ以上に、この場にいれば―自分の命は十中八九、失われる。
ダリアは獣の勘と言うべきか。
生存本能をひたすらに働かせ、シルドに懇願していた。
助けて欲しい、と。
「ふむ‥‥‥どうする?」
決めるのはエイシャだからなあ。
のんびりとそう無慈悲に返すシルドに、ダリアは絶句する。
全てを握っているのはエイシャだと理解するまでに時間はかからない。
「本気‥‥‥だったんですか?」
「本気もなにも。
ここは人間の世界だ。
そして、この大公家は全てがエイシャのものだ。
僕は単なる入り婿。
なんの権限もない。
わかるか?」
「だって!?
旦那様は大公様‥‥‥」
シルドはやれやれ、そう言いエイシャを指差す。
「女大公はあちらだ。
僕は単なる、下僕その一、に過ぎない。
だいたいダリア、考えてもみろ。
お前、リムとリザを相手に勝てるか?」
「でも、それは――!!
奥様ならなにか魔導やそういった‥‥‥」
ダリアは人間の少女が剣があるとはいえ、あの二匹に勝てるはずがないと断言する。
しかし、
「ないわよ、そんなもの。
でも、シルドは帝国一の魔導士よ?」
「帝国一‥‥‥」
シルドを見上げる、ダリアの視線にはさらに怯えが走る。
自分はどこにいてもいずれ殺される。
あの双子にも、このエイシャにも、シルドにも‥‥‥、と。
「ねえ、ダリア?
シルドを預けるわ。
その間は、あなたは安全かもね?
良い子供を産みなさい」
シルド、そろそろ行ってくれない?
エイシャはそう、夫を促した。
「生きている可能性は?」
席を立ち、ダリアを抱き上げてシルドは妻の側を通るときにさらりと問いかける。
「リムは危ないかもね?
リザは内臓が‥‥‥」
ふん。
なら、まだどうにかなるだろう。
その手がエイシャの頭に置かれた瞬間、黙っていたフェルナンドは思わず叫びそうになってしまう。
「うん、君はそれが一番きれいだよ、我が妻よ」
「凄い‥‥‥」
エイシャの身体からは切り傷も、その顔に大きくあった裂傷も、リムの返り血すらも――消え去っていた。
「治すだけでいいのか?」
ふと、シルドはそれ以外はないのか、と気になって聞いてしまう。
エイシャはそうねえ、と考えて二言ほどうしろを振り返らずに返事をかえした。
「あと、七年は戻らなくてもいいわよ、旦那様。
その間に、ダリアの国に必要な子供とこの大公家に必要な子供を育てておいて頂戴。
アルメンヌでも誰でもいいわ」
「お前‥‥‥」
「あと、あの双子。
従う気があるなら首輪でもつけてここに来させてくれないかしら。
鎖もあった方が良いわね。ただし、二足歩行は永遠に認めない。
そう、言い聞かせてあるから。
聞かないなら、殺していいわ。
旅にはダリアだけにしておいて、オーベルジュ‥‥‥」
「わかったよ、プロム。
七年後にな」
「ええ、あなた」
シルドはその言葉を最後に踵を返して二人の寝室。
あの双子が死の灯を消そうとしているその場へと向かう。
ダリアは何も言えずにいた。
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