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第一部
☆踏み越える夜
しおりを挟む擬似デートのあとも、フェイ様はことあるごとに距離を詰め、当然のように肩や腕に触れ、まるで本物の恋人のように振る舞ってきた。
私が口を開いて問いただそうとしても、「情報収集のためだから」の一言で終わらされる。
本当にそれだけなのだろうか。
そう思うたび、私の胸は苦しくなる。
触れられるたびに心臓が跳ねて、息が詰まりそうになるのは――私だけなのだろうか。
答えが出ないまま悶々とした日々を過ごして、数日。
そして、その夜が来た。
「もう一度言う。君を抱かせてほしい」
揺らぎのない真剣な眼差し。
逃げ場のないその光に射抜かれて、私は悟った。
「……わかりました」
私は戸惑いながらも、頷いていた。
――薄暗い寝室。
薄いカーテン越しに差し込む月明かりが、床に淡い影を落としている。
シーツの冷たさが腕に触れた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
フェイ様の手が私の頬に添えられる。
指先の体温がじんわりと広がり、次の瞬間、唇にそっと触れた感触に全身が小さく震えた。
耳の奥で鼓動がやけにうるさく響く。
舌先を甘く吸われると、背筋を伝って小さな震えが走った。
首筋に下りてきた口づけは、舌がわずかに肌をなぞるたび湿った音を立てる。
鎖骨に吸い付かれた瞬間、「ちゅっ」と小さな音が残り、そこに熱が刻まれていく。
「力を抜いて。君のペースでいいから」
その低く穏やかな声が、胸の奥に柔らかく沁み込んでくる。
背筋を撫でられるたびに布擦れの音が小さく鳴り、鼓動がさらに速くなる。
羞恥と期待でぐちゃぐちゃになって、息が浅く乱れる。
フェイ様の顔が近づいてくる。
吐息が頬をかすめ、熱を帯びた呼吸音が耳に触れる。
唇が触れる直前、心臓の鼓動がひときわ大きく響いた。
「……目を閉じて」
囁きに従って瞼を伏せると、柔らかな温もりが口元を覆った。
最初はかすかな触れ合い。けれどすぐに角度を変えて深さを増していく。
唇と唇が吸いつき合う湿った音。
下唇を甘く吸われ、舌先で探られるたび、背筋にぞくりと震えが走った。
「リズ、力を抜いて」
頬を撫で、髪を耳にかけ、首筋へと唇が下りていく。
耳朶をかすめる吐息、鎖骨に落ちる熱、唇が離れるたび残るわずかな水音。
一点ごとに体温が塗り替えられていくようで、喉から声が漏れた。
「……ふっ……ん……」
漏れる声を抑えようとする唇を指先でなぞられ、余計に意識が集中してしまう。
衣服越しに胸元を撫でられる。
布の擦れる音がくぐもった呼吸と重なり、緊張が増していく。
形を確かめるように円を描く指先。
布越しに伝わる熱に耐えきれず、肩がすくむ。
やがて指が布の中に潜り込み、素肌に触れた瞬間、肺の奥まで熱が押し寄せた。
「君はここが弱いんだな」
観察者のような低い声が耳に落ちる。
手の動きが驚くほど丁寧で、解きほぐすように時間をかけていく。
胸を包む掌。
指先が頂点をかすめるたび、背中が反り、吐息が震えに変わる。
「……っあ……そこ……」
反応を確かめるように左右を交互に、強弱をつけて繰り返す。
やがて手は腹部へ。
撫でる、止める、また撫でる。
その繰り返しのたびに心拍数が上がり、下腹がじんわりと疼く。
腰骨をなぞる指が、布越しに内腿へと近づいてきた。
触れそうで触れない距離。
焦らすような間合いに息が上ずる。
「……フェイ様……」
名を呼ぶと、彼は小さく笑い、唇を重ねる。
「……んあっ」
視線が絡み合い、膝の間へ指先が忍び込む。
外側を撫でる動き。
圧を変えながら中心へと導かれる。
湿り始めた布地を自覚し、頬が熱く染まった。
「自然に受け入れられるまで、慣らしていこう」
指がゆるやかに動きを重ねる。
力加減を試し、敏感なところを探り当てる。
「……んんっ……あ……っ」
水音が静寂に混じり、温かな感触が広がるたび腰が跳ねる。
羞恥と快感に溺れ、声だけが零れてしまう。
やがて、彼の体温が重みとして覆いかぶさってきた。
胸に圧がかかるたび、シーツがわずかにきしみ、下腹へ熱が流れ込む。
耳のすぐ近くで彼の吐息がかかり、心臓の鼓動が自分のものか彼のものか、分からなくなるほど重なって聞こえた。
逃げようという気持ちはもうなかった。
「……入れるよ」
低く力強い声が、熱を帯びて耳に落ちる。
腰が押し入れ、指先の温もりが奥へと導かれる。
じわりと肌が押し広げられ、濡れた水音が小さく混じった。
「……っあぁ……っ!」
圧迫感に目を閉じると、額の汗がこめかみをつたい落ちて、肌の密着感が全身を震わせる。
「どう?浅いところは痛くない?」
間近で覗き込む瞳が揺れて、熱のこもった吐息が頬を撫でる。
頭の奥まで響く感覚を意識しながら答える。
「……ん……熱くて……でも、そんなに痛くないです……」
ゆっくり押し入れられるたび、布が擦れ、甘い痺れと微かな痛みが溶け合っていく。
胸、腹、腰、脚先まで、電流のような快感が一気に広がる。
「リズ……この体勢だと、どう感じる?」
「……熱くて、こすれるたび……ゾクゾクします」
背中から腕にかけて伝わる力強さ、首筋に触れる指の熱、頬の汗が触れ合うほどの顔の近さ……
それらが幸福感を伴う痺れとなって、胸を満たしていった。
やがて、快感が全身を駆け抜け、喉を震わせて声を漏らした。
「んっ……あぁっ……」
腰の動きに合わせて体が小刻みに跳ね、シーツが擦れる音と共に、胸の奥から足先まで甘い電流が走る。
「リズ……苦しくないかい?」
「はい……むしろ気持ち、いい、です……」
吐息混じりに答えると、フェイは優しく笑い、濡れた髪を指で払うようにして体勢を変える。
「今度は後ろからだ。感覚の違いを教えて」
体勢を変えると、背に落ちる影と同時に、腰の奥から太ももにかけて圧迫感が増す。
前とは違う角度から押し広げられ、内側に深く届く感覚に、息が詰まる。
「……っ……奥まで……熱くて、押される感じが強いです」
フェイ様は私の声に合わせて動きを調整する。
水音がはっきりと耳に届き、肌と肌がぶつかる音が重なり合う。
呼吸がずれるたびに熱い吐息が首筋にかかり、膝が微かに震え、胸の奥まで熱が駆け抜けた。
「まだ大丈夫かい?」
「……はい……もっと……」
私の答えに応じて、フェイの腰の動きが深く鋭くなる。
シーツが乱れ、ベッドが小さく軋む音が部屋に満ちる。
二人の声、呼吸、体温、水音が折り重なって、快感と安心感が同時に押し寄せてきた。
後ろからの圧と奥への熱刺激が、先ほどとは違う痺れを胸に刻む。
やがて二人同時に熱が重なり、身体が震える。
腰が小刻みに跳ね、吐息と声が混ざり合い、視界が白く弾ける。
「……っあぁっ……あぁあっ!」
フェイ様と私の身体が一つになったまま、熱と幸福の波に包まれて果てた。
その後も、私は甘く蕩けた意識の中で、彼の体温と手のぬくもりに抱かれていた。
フェイ様は一つ一つの行為をじっくり思い返すように何やらぶつぶつ言っている。
……ほんとに、記録魔だ……。
それでも、彼とこうして一つになれた満たされた感覚は、胸の奥で確かに残り続けた。
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