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第二部
☆媚薬は蜜の味
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ある晴れた日のこと。
フェイが窓際のテーブルでなにやら小瓶を太陽光に透かしていた。
ガラス越しに透ける飴色の液体は、光を受けてとろりとした黄金色を放っている。
「……それは?」
そっと声をかけると、フェイはにやりと笑って瓶を持ち上げた。
「これは媚薬だよ」
「……媚薬?」
目を瞬かせた私に、彼はわざとらしく肩をすくめて見せる。
「小説のシチュエーションの研究用にって編集局の人が押しつけてきたんだ」
「研究用……」
瓶を軽く揺らすと、液体がねっとりと揺れる。
その艶めいた光沢に、私は反射的に視線を逸らした。
「気になるかい?」
「え、あ、そういうわけじゃ、ないんだけど……」
「まぁ――興味本位で口にするのはおすすめしない。効き目は保証つきらしいからね」
釘を刺すように言われて、私は小さく頷いた。
媚薬など縁遠い代物だと、少なくともそのときは本気で思っていたのだ。
――それから数日後。
昼時、私は台所で一息ついていた。
手元には焼き上げたばかりのふんわりとしたパンケーキ。
表面にほんのりと焼き色がつき、甘やかな香りが広がる。
湯気を立てる紅茶を並べ、さあ食べようと準備を整えたところで小首をかしげた。
「……あれ?はちみつ……どこ?」
いつもなら戸棚の奥に置いてあるはずの瓶が、今日は影も形もない。
代わりに視線をやったテーブルの上に、小瓶が無造作に置かれているのが目に入った。
「……あ、こんなところに」
飴色の液体がとろりと揺れる。
光に透けるその色合いは、どう見てもはちみつにしか見えなかった。
「まったく……フェイったら、使ったものを片付けないんだから」
小さなため息をつきつつ、私は瓶の蓋をくるりと回した。
はちみつ特有の甘い香りはしないが、濃厚そうな見た目は十分。
疑いなど、ひとかけらも浮かばない。
パンケーキの上にとろりと液体を垂らす。
飴色の筋が焼き目をなぞり、じわりと広がっていく。
「いただきまーす」
紅茶を一口飲み、ナイフを入れたパンケーキを口に運ぶ。
しっとりとした生地に、濃厚な甘味が絡みつく。
「……ふふ、やっぱりパンケーキは正義だな」
もう一口、また一口とフォークを進める。
その舌に残る甘さが、いつものはちみつよりも妙に深く、どこかくすぐったい余韻を残していることに――私はまだ気づいていなかった。
「……あつい……なに、これ……」
身体に違和感を感じたのはパンケーキを食べ終えてからしばらくしてからのこと。
息が荒くて、胸が痛い。
全身の奥が、ずきずきと疼いて――どうしようもなく、何かを求めている。
心当たりは――ひとつ。
飴色に妖しく輝く液体。
ここでようやく私は小瓶の中身が媚薬だったことに気が付いた。
「ど、どうしよう……」
気づけば私はフェイの姿を探していた。
書斎の扉を開けて、その姿を見た瞬間、抑え込んでいたものが一気に弾ける。
「フェイ……っ」
堪らず飛び込んで、腕に縋りついた。
彼の体温が触れた瞬間、脳まで痺れるような快感が走る。
もっと。
もっと触れたい。
「リズ、どうしたんだい?」
「び……やく、飲んじゃった、かも」
「……あれを……?」
フェイの低い声が耳元に落ちる。
「フェイ……身体が……からだが、あつく、て……苦しい……」
涙声で訴える。
自分でも信じられないくらい、熱に浮かされた声。
フェイの胸に顔を押しつけながら、必死に腰を擦り寄せる。
理性なんてもうどこにもない。
欲しいのはフェイだけ――彼の身体だけ。
「我慢できな、い……もう、だめ……」
震える指先で服を掴み、肌に触れようと必死になる。
「大丈夫、僕が受け止めるから……おいで」
フェイの声は静かで、どこか優しい。
止めることも、拒むこともせず――ただ受け入れてくれる。
その一言に、最後の歯止めが外れた。
「フェイ……フェイ……!ぜんぶ、ちょうだい……っ」
抱きしめるだけじゃ足りなかった。
胸の奥が灼けつくように疼いて、彼の身体を求めずにはいられない。
必死に唇を重ね、乱暴に舌を絡める。
自分でも信じられないくらい、貪るような口づけだった。
「……んっ……ふぁっ」
それでも足りなくて、彼の服の上から爪を立て、熱をぶつける。
「……リズ」
フェイの声は驚くほど落ち着いていた。
けれど、その眼差しの奥には熱が揺れている。
「いいんだよ。全部、吐き出して」
その一言で、理性が完全に消し飛ぶ。
「欲しい……フェイが欲しいの……っ」
震える声で吐き出しながら、自分から彼を押し倒した。
今まで一度もしたことのない行動。
胸の奥に燻っていた渇望が、薬の熱に押し出されるままに。
震える指先で彼の衣服を剥ぎ取り、肌に触れる。
熱い。
彼の体温に触れただけで、腰が痺れるみたいに疼く。
「もっと……もっと触れたい……」
我慢できず、自分の服も乱暴に脱ぎ捨てる。
裸の肌が触れ合った瞬間、全身が震えた。
「んんんっ……くっ……」
汗ばむ肌をすり寄せ、必死に彼を抱きしめる。
「……フェイ……もう、私……」
フェイは受け入れるように腕を広げ、背を撫でてくれる。
けれど、主導しているのは私。
首筋に唇を押し当て、噛みつくように口づける。
胸を押し当て、擦り寄せ、下腹を押しつけて必死に欲をぶつける。
――もう止まれない。
「……ほし……くて、壊れちゃいそう……」
涙まじりの声で訴え、腰を押しつけて求める。
身体の疼きが一つの答えを求めていて、もう抗えなかった。
「……分かった。全部受け止める」
フェイはそう囁いて、私を抱きしめ直した。
その瞬間、奥底まで満たされていくのを感じた。
「お願い……満たして……フェイで溢れさせて」
私は自分から下着を払い、彼のものに触れる。
硬く熱を帯びたそれに指先が触れた瞬間、頭の奥が痺れるみたいに甘く震えた。
「……ぁ、すごい……」
ぞくぞくして、身体の奥が疼いて、もう止められない。
彼が口を開こうとした、その前に――私は自ら腰を落とした。
「――っ……!」
熱が一気に体の奥へ押し込まれる。
鋭い衝撃と同時に、ずっと求めていた充足感に涙があふれた。
「……リズ、無茶を……」
「いい、の……これが欲しかったの……っ」
彼の胸に顔を埋め、必死に腰を動かす。
自分でも信じられないくらい、貪欲に、夢中で。
汗ばんだ肌がぶつかるたび、身体の奥から甘い悲鳴がもれる。
「ん、んんっ……っ、あ、だめ……こんなの、しあわせすぎる……っ」
涙と涎でぐちゃぐちゃになりながら、私はただ彼に縋った。
フェイは抱きとめながらも、決して主導権を奪わない。
あくまで私が求めるままに動かせてくれる。
今はその優しさすら、熱を煽っていく。
「……リズ、そんなに僕が欲しいのかい」
「欲しい……もう……離れたくない……ずっと繋がってたいの……っ」
声が震え、息が掠れる。
それでも腰は止まらない。
奥を貫かれるたび、快楽に理性が溶けていく。
「フェイ……っ、フェイ……っ、あいしてる……っ!」
必死に言葉を重ねるうちに、彼の腕が強く私を抱き締める。
耳元に落ちた囁きは、低く甘やかに震えていた。
「……僕もだよ……っ。大丈夫、全部君のものだ」
その声と同時に、奥の奥まで熱が溢れこみ、私は絶頂に攫われた。
痙攣する身体を彼に支えられながら、果ての余韻の中で何度も名を呼ぶ。
「フェイ……すき……」
涙と吐息と愛情を、全部曝け出すしかできなかった。
気づいたときには、私はフェイの腕の中にいた。
全身の熱はようやく収まり、荒く乱れていた呼吸も、今は彼の胸の鼓動に合わせて静まっていく。
「……っ」
我に返った瞬間、顔から耳の先まで一気に熱が上った。
どうして。どうして私は、あんな……。
思い出すたびに心臓が破裂しそうだ。
理性の欠片もなく、獣みたいに彼を求めて、何度も名前を呼んで――。
自分ではない誰かを見ていたような、でも確かに自分自身がしたことだった。
「……ご、ごめんなさい……」
震える声で搾り出すと、彼は小さく首を振った。
「謝ることはないよ。そもそも片づけておかなかった僕が悪いんだから」
むしろ謝るのは僕の方だ、と頭をなでてくれる。
落ち着き払った声。
その響きに、余計に胸が締め付けられる。
あんな醜態を見せたのに、軽蔑どころか優しさで包み込まれるなんて。
「でも……わたし……」
「リズが僕を求めてくれた。それだけで十分だ」
さらりと告げられたその言葉に、心臓が大きく跳ねた。
欲望に呑まれても、理性を失っても――それすら全部、彼は拒まなかった。
シーツをぎゅっと握りしめ、顔を隠す。
羞恥に押し潰されそうな私の頭を、フェイの手がやわらかく撫でる。
「あれが君の本心だと僕は受け取ったけど――違うかい?」
その一言に、胸の奥がじんと熱を帯びる。
薬のせいだった。
けれど、確かに私の中にあった“欲”が形になっただけだ。
普段は押し殺していた気持ちを、彼は見逃さなかった。
「リズ。君がどんな姿を晒しても、どんな言葉を口にしても――全部、愛しいと思う」
ちゃんと愛されてるんだって思えたよ、とふにゃりと笑う彼の笑顔がまぶしい。
「……ずるい」
ぽつりとこぼした声は、布団に吸い込まれていく。
彼の腕に抱き寄せられる感覚が心地よくて。
甘やかな余韻とともに、胸の奥に広がるのは安堵と幸福だけだった。
フェイが窓際のテーブルでなにやら小瓶を太陽光に透かしていた。
ガラス越しに透ける飴色の液体は、光を受けてとろりとした黄金色を放っている。
「……それは?」
そっと声をかけると、フェイはにやりと笑って瓶を持ち上げた。
「これは媚薬だよ」
「……媚薬?」
目を瞬かせた私に、彼はわざとらしく肩をすくめて見せる。
「小説のシチュエーションの研究用にって編集局の人が押しつけてきたんだ」
「研究用……」
瓶を軽く揺らすと、液体がねっとりと揺れる。
その艶めいた光沢に、私は反射的に視線を逸らした。
「気になるかい?」
「え、あ、そういうわけじゃ、ないんだけど……」
「まぁ――興味本位で口にするのはおすすめしない。効き目は保証つきらしいからね」
釘を刺すように言われて、私は小さく頷いた。
媚薬など縁遠い代物だと、少なくともそのときは本気で思っていたのだ。
――それから数日後。
昼時、私は台所で一息ついていた。
手元には焼き上げたばかりのふんわりとしたパンケーキ。
表面にほんのりと焼き色がつき、甘やかな香りが広がる。
湯気を立てる紅茶を並べ、さあ食べようと準備を整えたところで小首をかしげた。
「……あれ?はちみつ……どこ?」
いつもなら戸棚の奥に置いてあるはずの瓶が、今日は影も形もない。
代わりに視線をやったテーブルの上に、小瓶が無造作に置かれているのが目に入った。
「……あ、こんなところに」
飴色の液体がとろりと揺れる。
光に透けるその色合いは、どう見てもはちみつにしか見えなかった。
「まったく……フェイったら、使ったものを片付けないんだから」
小さなため息をつきつつ、私は瓶の蓋をくるりと回した。
はちみつ特有の甘い香りはしないが、濃厚そうな見た目は十分。
疑いなど、ひとかけらも浮かばない。
パンケーキの上にとろりと液体を垂らす。
飴色の筋が焼き目をなぞり、じわりと広がっていく。
「いただきまーす」
紅茶を一口飲み、ナイフを入れたパンケーキを口に運ぶ。
しっとりとした生地に、濃厚な甘味が絡みつく。
「……ふふ、やっぱりパンケーキは正義だな」
もう一口、また一口とフォークを進める。
その舌に残る甘さが、いつものはちみつよりも妙に深く、どこかくすぐったい余韻を残していることに――私はまだ気づいていなかった。
「……あつい……なに、これ……」
身体に違和感を感じたのはパンケーキを食べ終えてからしばらくしてからのこと。
息が荒くて、胸が痛い。
全身の奥が、ずきずきと疼いて――どうしようもなく、何かを求めている。
心当たりは――ひとつ。
飴色に妖しく輝く液体。
ここでようやく私は小瓶の中身が媚薬だったことに気が付いた。
「ど、どうしよう……」
気づけば私はフェイの姿を探していた。
書斎の扉を開けて、その姿を見た瞬間、抑え込んでいたものが一気に弾ける。
「フェイ……っ」
堪らず飛び込んで、腕に縋りついた。
彼の体温が触れた瞬間、脳まで痺れるような快感が走る。
もっと。
もっと触れたい。
「リズ、どうしたんだい?」
「び……やく、飲んじゃった、かも」
「……あれを……?」
フェイの低い声が耳元に落ちる。
「フェイ……身体が……からだが、あつく、て……苦しい……」
涙声で訴える。
自分でも信じられないくらい、熱に浮かされた声。
フェイの胸に顔を押しつけながら、必死に腰を擦り寄せる。
理性なんてもうどこにもない。
欲しいのはフェイだけ――彼の身体だけ。
「我慢できな、い……もう、だめ……」
震える指先で服を掴み、肌に触れようと必死になる。
「大丈夫、僕が受け止めるから……おいで」
フェイの声は静かで、どこか優しい。
止めることも、拒むこともせず――ただ受け入れてくれる。
その一言に、最後の歯止めが外れた。
「フェイ……フェイ……!ぜんぶ、ちょうだい……っ」
抱きしめるだけじゃ足りなかった。
胸の奥が灼けつくように疼いて、彼の身体を求めずにはいられない。
必死に唇を重ね、乱暴に舌を絡める。
自分でも信じられないくらい、貪るような口づけだった。
「……んっ……ふぁっ」
それでも足りなくて、彼の服の上から爪を立て、熱をぶつける。
「……リズ」
フェイの声は驚くほど落ち着いていた。
けれど、その眼差しの奥には熱が揺れている。
「いいんだよ。全部、吐き出して」
その一言で、理性が完全に消し飛ぶ。
「欲しい……フェイが欲しいの……っ」
震える声で吐き出しながら、自分から彼を押し倒した。
今まで一度もしたことのない行動。
胸の奥に燻っていた渇望が、薬の熱に押し出されるままに。
震える指先で彼の衣服を剥ぎ取り、肌に触れる。
熱い。
彼の体温に触れただけで、腰が痺れるみたいに疼く。
「もっと……もっと触れたい……」
我慢できず、自分の服も乱暴に脱ぎ捨てる。
裸の肌が触れ合った瞬間、全身が震えた。
「んんんっ……くっ……」
汗ばむ肌をすり寄せ、必死に彼を抱きしめる。
「……フェイ……もう、私……」
フェイは受け入れるように腕を広げ、背を撫でてくれる。
けれど、主導しているのは私。
首筋に唇を押し当て、噛みつくように口づける。
胸を押し当て、擦り寄せ、下腹を押しつけて必死に欲をぶつける。
――もう止まれない。
「……ほし……くて、壊れちゃいそう……」
涙まじりの声で訴え、腰を押しつけて求める。
身体の疼きが一つの答えを求めていて、もう抗えなかった。
「……分かった。全部受け止める」
フェイはそう囁いて、私を抱きしめ直した。
その瞬間、奥底まで満たされていくのを感じた。
「お願い……満たして……フェイで溢れさせて」
私は自分から下着を払い、彼のものに触れる。
硬く熱を帯びたそれに指先が触れた瞬間、頭の奥が痺れるみたいに甘く震えた。
「……ぁ、すごい……」
ぞくぞくして、身体の奥が疼いて、もう止められない。
彼が口を開こうとした、その前に――私は自ら腰を落とした。
「――っ……!」
熱が一気に体の奥へ押し込まれる。
鋭い衝撃と同時に、ずっと求めていた充足感に涙があふれた。
「……リズ、無茶を……」
「いい、の……これが欲しかったの……っ」
彼の胸に顔を埋め、必死に腰を動かす。
自分でも信じられないくらい、貪欲に、夢中で。
汗ばんだ肌がぶつかるたび、身体の奥から甘い悲鳴がもれる。
「ん、んんっ……っ、あ、だめ……こんなの、しあわせすぎる……っ」
涙と涎でぐちゃぐちゃになりながら、私はただ彼に縋った。
フェイは抱きとめながらも、決して主導権を奪わない。
あくまで私が求めるままに動かせてくれる。
今はその優しさすら、熱を煽っていく。
「……リズ、そんなに僕が欲しいのかい」
「欲しい……もう……離れたくない……ずっと繋がってたいの……っ」
声が震え、息が掠れる。
それでも腰は止まらない。
奥を貫かれるたび、快楽に理性が溶けていく。
「フェイ……っ、フェイ……っ、あいしてる……っ!」
必死に言葉を重ねるうちに、彼の腕が強く私を抱き締める。
耳元に落ちた囁きは、低く甘やかに震えていた。
「……僕もだよ……っ。大丈夫、全部君のものだ」
その声と同時に、奥の奥まで熱が溢れこみ、私は絶頂に攫われた。
痙攣する身体を彼に支えられながら、果ての余韻の中で何度も名を呼ぶ。
「フェイ……すき……」
涙と吐息と愛情を、全部曝け出すしかできなかった。
気づいたときには、私はフェイの腕の中にいた。
全身の熱はようやく収まり、荒く乱れていた呼吸も、今は彼の胸の鼓動に合わせて静まっていく。
「……っ」
我に返った瞬間、顔から耳の先まで一気に熱が上った。
どうして。どうして私は、あんな……。
思い出すたびに心臓が破裂しそうだ。
理性の欠片もなく、獣みたいに彼を求めて、何度も名前を呼んで――。
自分ではない誰かを見ていたような、でも確かに自分自身がしたことだった。
「……ご、ごめんなさい……」
震える声で搾り出すと、彼は小さく首を振った。
「謝ることはないよ。そもそも片づけておかなかった僕が悪いんだから」
むしろ謝るのは僕の方だ、と頭をなでてくれる。
落ち着き払った声。
その響きに、余計に胸が締め付けられる。
あんな醜態を見せたのに、軽蔑どころか優しさで包み込まれるなんて。
「でも……わたし……」
「リズが僕を求めてくれた。それだけで十分だ」
さらりと告げられたその言葉に、心臓が大きく跳ねた。
欲望に呑まれても、理性を失っても――それすら全部、彼は拒まなかった。
シーツをぎゅっと握りしめ、顔を隠す。
羞恥に押し潰されそうな私の頭を、フェイの手がやわらかく撫でる。
「あれが君の本心だと僕は受け取ったけど――違うかい?」
その一言に、胸の奥がじんと熱を帯びる。
薬のせいだった。
けれど、確かに私の中にあった“欲”が形になっただけだ。
普段は押し殺していた気持ちを、彼は見逃さなかった。
「リズ。君がどんな姿を晒しても、どんな言葉を口にしても――全部、愛しいと思う」
ちゃんと愛されてるんだって思えたよ、とふにゃりと笑う彼の笑顔がまぶしい。
「……ずるい」
ぽつりとこぼした声は、布団に吸い込まれていく。
彼の腕に抱き寄せられる感覚が心地よくて。
甘やかな余韻とともに、胸の奥に広がるのは安堵と幸福だけだった。
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