貧乏メイド、官能作家に身体を資料として提供することになりました~資料のために抱かれ続けた私、いつの間にか彼の最愛に~

蜜井蜂

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第二部

☆いつもと違うキミ

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朝、ダイニングに入った瞬間、足が止まった。

フェイがもう起きていた。
当然、それだけなら珍しくない。
ただ、椅子に腰かける姿が――いつもとどこか違う。

背もたれに深く身体を預け、片腕を肘掛けに乗せている。
脚は組まれ、こちらを見上げる視線はまるで値踏みするみたいに鋭い。

「……フェイ?」

恐る恐る名前を呼ぶと、彼はゆっくりと口元を歪める。

「ああ、起きたか」

いつもより低い声に心臓が跳ねた。

「え、な、なに……?」
「ふむ、良い反応だ」

さらりと言われて、頭が真っ白になる。

「フェイ、どうしたの?」
「どうもしない。ただ――」

彼は立ち上がり、私との距離を一気に詰めた。
逃げる間もなく、視線が絡め取られる。

「今日は“俺”で過ごすと決めただけだ」

「お、俺……?」

「……なーんてね。驚いたかい?」

ふっと表情が緩み、いつものフェイに戻る。


「びっくりした……今のなに?」
「今書いてる小説の登場人物の真似をしてみたんだ」

彼は頭をかいて、少し照れくさそうに言った。

「どうしても心情とか行動が掴めなくてさ。だから……性格を真似してみようと思ったんだ」
「真似って……」


「ああ。悪いが君には付き合ってもらう」

低く、断定的な声にまた戻る。

「拒否権は?」
「ない」

即答だった。


「……わかった。と、とりあえず朝ごはん準備するね!」

朝食の支度をするために台所へ向かおうとしたところで腰を引き寄せられる。

「それは俺の役目だ」
「え?」
「君は座っていろ」

強引。
だけど、乱暴じゃない。

私は強制的に椅子へと座らされ、台所へと向かうフェイの背中を見送ることになった。


性格はいつもと違うとはいえ、中身はいつものフェイだ。
もちろん突然家事が上手くなるわけもなくて――

ガシャン

「だ、大丈夫!?」

慌てて台所を覗くと床には半分に割れた皿が一枚。
フェイはそれを見つめながら呆然と立ち尽くしていた。

「ごめん僕また――あ、いや……ゴホン、案ずるな。少し手が滑っただけだ」
「そ、そっか。お皿片づけ――」
「俺がやる。リズは座っていろ」
「わかった」


しばらくして運ばれてきた朝食は、焼いたパンとスクランブルエッグ。

「さ、できたぞ」
「ありがとう。……おいしい」

そう言うと、フェイは一瞬だけ目を見開き、すぐに咳払いをして視線を逸らした。

「……当然だ」

言葉は強気なのに、口元は緩みっぱなし。
そのちぐはぐさがなんだかおかしくて、愛しかった。





とはいえ、いつものフェイが顔を出していたのは少しの間だけで、午後にもなればほとんどなくなっていた。


ティータイムも終わり、しばしの休憩時間。
書斎で本を読んでいると背後から影が落ちた。

「随分、熱心だな」
「フェイ……近い」

耳元で囁かれて、思わず肩をすくめる。

「集中している顔も悪くない」
「……からかわないで」
「からかっていない。事実だ」

熱を帯びた視線から逃げられない。

「君は、誰かに見られている自覚が足りない」
「な、なにを……」
「無防備だ、と言っている」

顎に指先が触れ、軽く持ち上げられた。
目が合う。

「守る側の気も知らないで」

息が、詰まる。
視線が真剣で、冗談だと笑えない。

何も言えなくて、結局私は目を逸らすことしかできなかった。






そして時間は過ぎ、夜。

一日中、妙な緊張にさらされていたせいか、身体が重い。
私はベッドに腰かけ、息を吐いた。

「今日は、疲れたな……マッサージでもしてから寝よう」

棚からお気に入りのオイルを取り出し、ふたを開ける。
花の香りが部屋にふわりと広がった――その時。


「――入るぞ」
「フェイ!?」

扉が開き、フェイが中に入ってくる。

「ふむ、オイルマッサージか。俺がやってやろう」
「えっ、いいよ自分でできるから」
「遠慮するな」

そういうとフェイは私からオイルの入った瓶を取り上げ、自分の手に広げ始めた。

そして
「――こんなかんじか?」
そう言いながら私の足首に手を添えた。

オイルで温められた掌が、くるぶしの内側をなぞる。
親指が円を描くように押すたび、じんわりと力が抜けていく。

「……くすぐったい」
「逃げるな」

逃げようとした足を自然な動きで捕まえられる。
指の間を滑る感触に、思わず息を止めた。

「ちゃんと、力抜け」
「……抜いてる、つもり」

指がスッとふくらはぎへ移動する。
下から上へ、流すように、確実に。

「嘘だな」

そう言うと、フェイは小さく鼻で笑った。

少しだけ圧が強まる。
その瞬間、声にならない息が漏れてしまい、私は慌てて口を押さえた。

「……いい声だ」
「っ、言わないで……」

そう答えた自分の声がやけに熱を帯びて聞こえて、口をつぐむ。





「……次はうつ伏せになれ」
「脚だけでもう十分……」
「早く」

促され、私は渋々背中を向けた。
寝転がろうとしたところで抱きとめられ、そのまま服を脱がされる。
「服、脱がないと駄目?」
「当たり前だ。汚れたらどうする」
「それは……そうだけど」

一歩も引く気がない声色に私は観念して、されるがまま服を脱がされていく。
上半身から服が取り払われたところでベッドに横になる。
寝具の冷たさに思わず体を小さく震わせた。


背中に空気が触れた直後、温かい手のひらが肩甲骨の内側に置かれる。

「っ……」

思わず熱のこもった吐息が漏れた。

「……すぐ温めてやる」

オイルを足した手のひらが、背中を大きく撫で下ろす。
肩から腰へ。
一本の線を引くように、迷いなく。

「……随分凝っているな」


腰にかかる手が、少しだけゆっくりになる。
腰骨のきわをなぞられるたび、背筋がびくりと跳ねた。

「フェイ……そこ……」
「何だ?」
「……ずるい」

返事の代わりに、低く笑う気配が耳元に降ってくる。




「――次は仰向けだ」

その言葉にぎゅっと身体を固くした。
裸を晒すのはもちろん初めてではない。
けれど、それでもなんだか今日は気恥ずかしい。

意を決して仰向けになると、視界の端にフェイの影が見えた。
距離が、近い。

「腕、上げろ」
「……恥ずかしい」
「何をいまさら」

渋々腕を上げると、バストラインをなぞりながら脇の下から鎖骨へ、するりと指が滑っていく。

「っ……」
「ここも、老廃物がたまりやすいと聞く」

鎖骨のくぼみをなぞる指先。
喉が鳴るのが自分でもわかって恥ずかしい。

「……体温が上がっているな」
「フェイのせい……!」
「それは光栄だ」

フェイはオイルの入った瓶を手に取り、私の肌に直接垂らしていく。
「……っ」

鎖骨、それから両胸にたっぷりと。
オイルが敏感な部分に触れるたびに、もぞもぞと腰が動いてしまう。

「マッサージ、なんだよね?」
「れっきとしたマッサージだが?」
「でも普通そんなとこは――っん」

抗議の声はフェイの口づけで抑え込まれてしまった。
「んっふぁっ……」

いつもより情熱的で強引なキスに思考が溶けていく。
角度を変えて何度も口づけるその間も、フェイの手は胸元を容赦なく攻め立て続ける。

「あっ……んぅむ」
先端をオイルで濡れた手が撫でるたび、全身に電流が走るような感覚が襲う。
腰が浮き、声が零れるのを抑えられない。

「こんな、のマッサージじゃな、い……!」
「こうすれば全身の力が抜けるだろう?」
緊張した身体を解すマッサージの一環だ、なんて言いきられてしまい言い返せなくなる。

「ふぇ、い、そこばっか触っちゃ」
「そこ、とはどこだ?――ここか?」

悪戯っぽく笑いながら先端をキュッと摘まみ上げる。

「んあぁっ!」
「随分艶っぽい声が出せるようになったな。リズ」
愛らしいな、と付け加えられて、私はただ頬を染めて俯くしかなかった。



「……ここだけでは物足りなくなってきただろう?」
「……え?」

フェイの顔が耳元から離れると同時に、足元に引っ掛かっていた服が取り払われる。

「きゃっ!?」
「こっちもしっかり解しておかないとな」

フェイは不敵に笑うと、鼠蹊部に手をあてがった。
ショーツの境目をなぞられ下腹部が疼く。

「そんなに物欲しそうな目をして……」
「してな……っん」

口ではそう言いつつ、身体はフェイを求めてしまう。
腰が彼の手を自身の敏感なところへと誘おうと動くのを止められない。
身体は正直だ、そんな言葉が脳裏をかすめた。

「そう焦るな」

フェイの指がショーツを押しのけて割れ目へと伸びる。

「んんんっっ」

指が隙間に触れた瞬間、大きく体が跳ねた。
指を飲み込もうと割れ目がヒクヒクと蠢いているのが伝わってくる。

フェイは私の反応を愉しむ様に目を細め、割れ目の入り口を何度も往復して弄ぶ。

「あっ……ううっふぇ、い!」

じれったくて思わずフェイの腕をつかむ。

「どうした?見つめているだけでは何も伝わらんぞ?」

「な、ナカに、もっと奥にっ、ちょうだい」

回らない頭で何とか必死に言葉を紡ぎ出す。


「そうか……ちゃんと言えた褒美をやろう」


指が一気にナカに沈み込んでいく。
フェイが指を曲げるたびにぐちゅりと水音が響いた。

「……っっんっくぅ!!」
「そんなに締め付けなくても逃げはせん」

間髪容れずに二本目の指が分け入ってくる。


「あっああっフェイ!フェイっっ!」

バラバラに動かされる指が反応の強い個所を的確に執拗に攻める。
快楽の波が一気に押し寄せ、頭にもやがかかったように何も考えられなくなる。
最後に残ったのは気持ちいいという感情だけだった。

「イっちゃ……!イっちゃう!」
「ああ、イけ。愛い顔を見せろ」

その言葉と共に私は大きく腰を反らせながら果てた。
息がまともに吸えないくらい痙攣が止まらない。

身体の中心が焼け付くように熱い。

もっと触れてほしい。
熱っぽい声で攻め立ててほしい。
もっともっともっと!
むき出しの欲望が脳を埋め尽くしていく。

だけど、その願いはフェイの一言であっけなく打ち砕かれる。

「――さて、今日はここまでだ」
「……おわ、り?」
「惜しいか?」

問いかける声が意地悪で。

「……そんなこと、は」
「素直じゃないな」

フェイはオイルの瓶を置き、私の顔を覗き込む。

「だが」
少しだけ、声を落として。
「俺に任せて、正解だっただろう」

答えられなくて、私はただ視線をそらした。
フェイの指が、そっと頬に触れる。

「……目は口ほどに、だな」


耳元で囁かれたその一言に、全身が熱くなるのを感じた。





翌朝。

寝ぼけた顔でダイニングに現れた彼を見て、私はほっと息をついた。
それと同時に、胸の奥に小さな穴が空いたような感覚。

「……おはよう」
「おはよう、リズ」

その笑顔は、確かに安心できるものだった。

「……ね、昨日の僕はどうだった?」

フェイがキラキラと目を輝かせながら聞いてくる。

「どう、って……」

言えるわけがない。
一日中、心臓が持たなかったなんて。


鋭い視線。
低い声。


思い出すだけで、胸が熱くなる。
……困るな。

「悪くはなかった、かも」
「なにそれ」

フェイが嬉しそうに笑う。

「……悪くなかったならさ」
「?」
「またしてあげる、ね?」

そう言って意地悪く笑うフェイの目に昨日の”彼”を見て私は口をつぐむしかなかった。

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