公爵令嬢は逃げ出した!

百目鬼笑太

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第三章 海を渡る公爵令嬢

砂の国ビラーディ

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 そういやアフラ大陸って、地球でいうアフリカ大陸らしいじゃん。
 ラビ大陸にも鳥やら猫やら地球と変わらない動物がいるわけだし、もしやキリンとかゾウとかライオンとかもいたりするのかな。

 ようやく見えた陸の港へ海賊船が堂々と停まった。
 銀髪に濃い肌色の人々が見える。全員が金の装飾を身につけ白い布を巻きつけるような服装で、いつの日にか歴史で見た古代エジプトのような姿だった。

 つまりビラーディ共和国は地球でいうエジプトに位置するのだろうか。
 中世ヨーロッパ風の文化のあるゼノ帝国がヨーロッパに位置しているのは、なんとなく理解しているけど……ビラーディ共和国の見かけは古代エジプトなのだ。
 この世界の国々は特定の地域の文化を時代ごとに切り取っている……?

「まずは買い出しな」
「ったく船長にも困ったもんだぜ」
「あと、ちっと長くなってりゃ鮒の備蓄が底をついてたっての」

 考え事をしている間に海賊たちが次々上陸していく。
 船に残る者もいるらしく甲板の掃除を始めたり、それぞれ仕事をしている。
 海賊といえど共同生活をする以上は一定の秩序があるということなのか。

 甲板で立ち往生してしまう。
 もう船を降りていいのだろうか、降りたとしてどのくらいで船が出港するのか分からない。
 いや、この国で降りてラビ大陸に戻って……、それともビラーディ共和国でオズに向かう船か商団を探すべきなのだろうか。
 でもまたガイウスのときのように危険な相手だったら、また思いもしない展開に巻き込まれてしまうかも。

 ……どうしよう。

「おい、何してんだ。ジョー、テメエはこの国は初めてだろう? 特別に船長が案内してやる。ついて来な」

 いい笑顔のディヴィスが親指を立てながら言う。見知らぬ国で迷子になるよりは、いいのかな。
 1人で歩くよりは誰かと一緒になんて思ってしまうので甘えている自覚はある。

 やっぱりこう、もっと自由を感じるために自立していかなきゃな。何でも1人で出来るようにね。

「いや、1人で行ってくる」
「……ふぅん? テメエが1人でこの国を? はてさてまともに歩けるのかねえ……俺はやめといた方がいいと思うがねぇ」
「歩くくらい出来るわ、舐めんな」

 途端にニヤニヤ笑いを浮かべるディヴィスにムッとして言い返す。
 昨日の妙な言い方といい、ディヴィスは何やら企んでいるのかもしれない。
 そりゃ、私だって初日からカツラギたちと一緒に行動していて、結局単独行動をしたのはグラナット公国でタイムを捕まえた時ぐらいだけど!

「じゃあな! 海賊野郎!」

 そう叫んで甲板から飛び降りた。
 港に着地し、街の方へと歩き出す。


「出航は明後日の早朝だ! 忘れんなよ!」

 なんて背後からディヴィスの声が追いかけて来て意地でも思い通りになってやらんという気持ちにさせられた。
 誰が戻るか。
 この国からオズへ行く手段を探し出してみせる!

 よくよく考えてみればラビ大陸に戻ったら、その時点でロベリン公爵家やゼノ皇族に見つかる可能性が高い。
 あんまり追手が現れないおかげで忘れがちだけど私は追われてる。
 故に、このまま突き進むしかないのだ。


 エジプトっぽい世界観特有の気候のせいか砂埃の舞う街を気合を入れて駆け始めた。



 ▲▲▲


「ウッソ……」
「あの髪……」
「信じられない……」


 ざわざわざわ……。
 一歩、足を進めればモーセの如く人混みが破れていく。
 この世界にモーセはいないわけだけど、今の自分が置かれた状況を他になんと言えばいいのかわからなかった。
 市場を見つけて、目的の1つであった鏡を探していた。


 しかしその道中ですれ違うビラーディの人々は例外なく全員が何故か私を見て目を丸くする。
 それかは道を開けて、遠巻きに何かを言い合っている。

 正直、非常に居心地が悪い。

 なんだろうか、もしや寝癖?
 鏡はなくても、出来る限りの身嗜みは整えているはずだ……。
 そうしてると髪型が気になり出して露店を見物しながらついつい手櫛で髪を弄ってしまう。

「なんてこと……!!!」

 ざわわ!!!
 何故かザワつきが大きくなって泣きたくなった。
 なんなの、そんなに帝国人が珍しいの?
 少し移動して隣の大陸に行ったら、山程いるよ?

「あ、この鏡……」

 露店に並ぶ女性の横顔がレリーフされた銀の手鏡が目に入る。
 古代エジプト風のアンティーク感がちょっと可愛いかもと手を伸ばしかけた。


「これ!? いいよいいよ! 持ってきなよ! プレゼント!」
「は!?」
「あっ包装とかいる系? いいよー! 何色のリボンがいい? 青がオススメ!」
「えぇ……」

 店主が先に拾い上げ、私へ差し出したのである。
 そんなことを言いながらである。なんということでしょう。
 露店の店主が血迷い始めてしまった。
 困惑しかない。

「他になにいる? 鏡ってことは櫛とか!? 櫛ならめっちゃいいお店しってるよ!? 教えよっか!?」
「ぇ、えぇ……い、いらないです……」
「それマ? タダでもいいんだけど……」

 店主の勢いに引いてしまう。
 申し出を断れば、店主は目に見えて肩を落としてションボリするのでじわじわと罪悪感を刺激してくる。

「お代は払わせていただきますわ。それが商品に携わった方々への礼儀というものですもの。それとも貴方はわたくしを礼儀知らずにさせたいのかしら」
「いえ! 受け取る受け取る! あっあっあのっ! お名前を聞いてもよろしいでしょうかしら!?」
「……、……今はジョーと名乗っています」
「ジョーさん! 俺の店にまたおいで下さい! 気に入るようなめちゃカワ商品をご用意させていただくんで!!!!」

 気を抜けば凍りそうになる表情を皇后モードで何とか乗り切る。
 皇后とはすなわち、本心を見せないための仮面のようなものなのである。

 なんとか鏡の代金を支払い、その店の前から離れる。
 ふと振り返るたび露店の店主は手を振っていて、またなんとも言えない気持ちにさせられた。

 なんだよ……。
 なんなんだよ!!!!! ビラーディ!!!!!!!

 ディヴィスが言っていたのってこういうことなの!?
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