公爵令嬢は逃げ出した!

百目鬼笑太

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第三章 海を渡る公爵令嬢

あれ何するんだっけ?

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 引き続きビラーディ共和国を歩いて結構な時間が経った。
 どこに行ってもやはりどうしてか視線が集まってくるので居心地が悪い。

「おや、ジョーじゃないか」
「っ! ジョ、ン……」

 そんな中、声をかけられ天の助け! と振り返れば一気に白ける。
 両脇にビラーディの女性を侍らすジョン・バートレットがいい笑顔で手を振っていたのだ。
 どうやら銀髪と濃い肌色に白い衣服がビラーディの人々の特徴らしい。

「バート様ぁ、この髪色のやべぇ人は友達?」
「マジヤバ~、こんな鮮やかな水の色は初めて見たぁ。どこ住み? 別大陸の人?」
「ゼノ帝国から来ているジョーだよ」

「ゼノ帝国か~、聞いたことねえけど多分隣の大陸だよねぇ」
「ね~、ジョー様みたいな髪の人がたくさんいるなら一度は行ってみたいかも~」
「わかるわ~」

 ジョンに侍る女性たちが顔を見合わせて頷き合う。
 髪の色……そういえば道行く人々も髪がどうとか言っていたかもしれない。

 ニコニコと微笑むジョンへ視線を送る。

「ビラーデイでは青は海の…生命の宿る神聖な色として大事にされているんだよ。だからこの髪色の私はもちろんのこと、空色の髪を持つ君もどこへ行っても大人気なわけさ」
「……知らなかった」
「コックスに教えて貰わなかったのかい? 昨晩から君にこの国を案内すると意気込んでいたけれど」
「初めは1人で歩きたくってさ、誘われたけど断ったんだよ。でもそっか、髪の色だったんだ……」

 するとジョンが意味深に目を細める。

「ふふ、なるほど? では、そろそろ我らが船に戻るとしようか。大体は見て回れたのだろう?」
「あ、うん……でも、まだしたいことがあって」
「それは何かな? 君の目的を教えてもらえれば
 私も手伝えるのだが」

 侍っていた女性たちに別れを告げ、ジョンが船に戻ろうと促してくる。
 確かに日は沈みかけて、もうじきに夜の帳が下りるだろう時間だ。
 市場を見てるだけで疲労してしまい、1番の目的であるオズへの行き方について調べることが出来なかった。

「さ、酒場とか行きたくて」
「ほう! それは是非とも同行したいね!」

 酒場なんかはこの時間から賑わうだろうし、人が集まるので情報収集にうってつけだと思っている。
 本来の目的を隠したまま言えば、ジョンがやけに食いついてくる。
 やっぱり海賊だから酒がすきなのだろうか。
 そういえば幼く見えるディヴィスの部屋にも酒瓶が飾られていた。

 馴染みの店があると、ジョンに案内されることになった。
 何度か来ているらしいジョンの行きつけなら間違いはないだろう。

「今から行く店は料理の提供もあってね、帝国料理もあるんだよ」
「そうなの?」
「あぁ、ビラーディ料理は帝国のものとはまた違う味付けだからね。好みに合わなければ、そっちを頼めばいい。食事は大事だ」

 そういうジョンの声には実感が込められているような気がした。
 確かに海賊船では3食とまでは行かなくても、食事の他に定期的な果物なんかの配給があった。
 冷蔵庫があるわけでもない船でよく新鮮な果物が用意できるものだと少し思っていたのだ。
 あとで船での保存方法について聞いてみようかな。


 港の一角に佇む葦の原野という店だった。
 看板にも葦の原野と記されている。私に読めると言うことは帝国の文字ということだ。
 店の明かりが路地に漏れ出し、中から騒々しい笑い声や陽気な音楽が聞こえてきている。

「どうやら、すでに相当出来上がっているようだね」

 片目を閉じながら、ジョンが店の扉を開けた。

「せんちょ~、いつになったらジョーの奴を、仲間にするんですかい?」
「うっるせえなぁ! そらいつかはいつかだって、ずっと言ってんだろうが!」
「でもぉ、陸に着くまでに口説くって言って1週間も漂流してたくせして、ちっともジョーのヤロー靡いてなくないっすか?」
「やっぱり、口説くのはバートレットに任せた方がいんじゃ?」
「ああん!?」
「だってせんちょ~、交渉はともかくカッコつけすぎて女相手のべしゃり下手じゃないっすか~。いくらガキっても女は女っすよ、女相手ならやっぱバートレットのが……」

 店内のテーブルを埋めているのは、ほとんどが見覚えのある顔だった。
 すぐ隣のジョンは視線を向ければ、白い歯を見せ微笑むだけだった。
 なるほど、わざとか。

「そもそも魔術師なんてラビ大陸にゃ腐るほどいんじゃねえすか? なんでジョーにこだわってんすか?」
「そらテメエ……アレだよ、あーアレアレ」

 ごにょごにょと顔よりも大きなジョッキを持ってディヴィスが何事かを呟く。
 私が魔術師である他にも勧誘の理由があるのが確実になった。

「いや、アレじゃわかんねっすけど」
「私も是非とも知りたいな」
「ぐっ、ゴホッゴホッ」
「やあ親愛なる船長。そして野郎ども、やってるかい?」
「バートレット! テメエ!」

 話しかけるとディヴィスが思い切りむせた。
 海賊たちがいい笑顔で挨拶をしたジョンへ非難の声をあげて立ち上がる。

 ジョンはそれにすら特に大きく反応を返すことなくディヴィスの隣の椅子を動かして、私を振り返るだけだ。
 さっきまで他の海賊が座っていた場所なのだが……それに関して海賊たちも不満はないらしく文句を言う様子はない。
 どうやらエスコートをされているらしく、ひとまず素直にディヴィスの隣へ座る。
 ジョンは向かいの席に座るとメニューを渡された。

「ジョー、どれを頼む? まずは君の気になる料理は何でもいいから頼むといい。今なら苦手な味でも皿を片付ける胃には困らないからね、気を使う必要はないよ」
「無視すんなぁ! バートレットぉ! テメエ、なんでジョーをこの店に連れて来てんだぁ!? 船長がびっくりしちゃってんだろうが!!」
「せんちょ~大丈夫っすか~!?」

 かなり飲んでいるのか顔を赤らめた海賊たちが咳き込むディヴィスの背中をさすっている。

「とりあえず私はワインを。ジョーにはジュースを」

 周囲を欠片も気にかけることもなくジョンが注文をした。
 ジョンに渡されたメニューを開く。お代と料理の名前が記されただけで、説明も何もない。
 料理の写真とか、せめてイラストがあったら味のイメージもしやすいというのに……。

「ねえ、じょ……」
「てめ、バートレット! ちょっとツラ貸せゴラァ!」
「やれやれ、何やら相談のようだ。ジョー、すまないが質問はディヴィスにしてくれ」

 海賊に首根っこを掴まれて店の隅に連行されていくところだった。

「……何が聞きてえんだ?」
「このサンブーサっていう料理はどういう感じ?」
「あぁ、パリってした皮に挽肉やら野菜やらが詰められてる。辛味も苦味もねえからテメエでも食べやすいんじゃねえか」
「へえ、じゃあこれにしよ。あとは、……あー、たくさんありすぎて悩んじゃうな、これ」
「好きなだけ頼みゃいい。バートレットも言ってたろ」

 メニューの1つ1つをディヴィスに質問しながら料理の注文した。
 異国の料理ということで、どれも食べ慣れない味がした。
 海が近いからか魚を使った料理が多かった。
 スープと聞いていたのに、どろっした緑の粘着質な液体が出されたときには驚いたし勇気を出して口に入れてみれば案外イケたのでまた驚かされた。

「これは?」
「コナーファな。蜂蜜がたっぷり使われた小麦粉の菓子だよ、美味え」
「マジ?」

 ちなみに初めにジョンが頼んだジュースは真っ赤な苺ジュースだった。


「美味しい!」
「そら何よりだ」

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