公爵令嬢は逃げ出した!

百目鬼笑太

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第三章 海を渡る公爵令嬢

一☆触☆即☆発☆

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 魔物の移動とタリクの店でのあれやこれで、だいぶ時間を食っていたらしく青かった空はオレンジ色に染まっていた。
 あれだけ市場を賑わせていたビラーディの人々も随分と減っている。

 夕暮れの中を人々は家路を急ぎ、どこからか夕食なのか料理のいい香りが漂ってくる。
 どこか物寂しい、きっとどの国でも見られる光景だった。
 そして私はそんな光景と関係なく絶望を背負っていた。
 もうおしまいなんだぁ……。
 とんでもねえものを自ら拾い上げてしまった。

「おい、帝国人。どこに行きゃいいんだ? ゴラァ、日が沈む前にさっさと案内しやがれゴミカス」

 ひどい……。
 風呂嫌いで浮浪者のような外見の犯罪者の奴隷が偉そうに言ってくる。
 私の育った帝国は奴隷制のない国だ。
 奴隷だからと相手を見下すつもりもないが、奴隷自身が私をめちゃくちゃ舐めきっている。
 一体どうしたらいいの、教えてマニュアル……。

「ハァ!? お前、ここで本なんざ開いて何してんだ!? バカかよ!? さっさと立って歩け!」
「ヤダヤダヤダヤダ!!! 大事なことは大体、本に書いてあるんだから! 確認するまで待っててよ!!!」
「アホか!! 道のど真ん中だぞ!? 常識ねえのかお前!!」

 浮浪者みたいな外見のやつに常識を問われた!!
 もうおしまいだ!!!

「よおジョー。何してんだこんなとこで」
「ディヴィス!」
「トーマスとダンテに買い出しを頼まれたっつーらしいじゃねえか。こんな時間までほつっき歩きやがって、お供もつけねえ独り歩きは感心しねえぜ?」

 道のど真ん中で座り込みマニュアルを開こうとする私をアランが無理やり立ち上がらせようと腕を掴んでいる。
 そうしていると声がかけられた。

 見知った顔に思わず顔が綻ぶ。
 不敵な笑みを浮かべるディヴィスへと駆け寄った。不安と絶望で負けそうになっているときに知った顔を見つけると心強くなるものだ。

「備蓄の買い出しにしたって時間をかけすぎだ」
「話すと長くなるんだけどさ……」
「おう、船に帰ってゆっくり聞きせてくれや、ジョー」

 柔らかな声だった。
 ディヴィスの目元は緩み、なんだか穏やかな様子だ。
 エスコートのようにディヴィスの左手が背中へ回される。
 それを甘んじて受け入れて、そういえばアランのことをディヴィスに言っておかなけれはと思い至り振り返る。

 ばんっ。

 突然の破裂音に肩がすくんだ。


「……おいおい、ジョー。なんてもんを拾ってきちまったんだ、テメエは」
「初めましてで随分な挨拶じゃねえか。坊主」

 ディヴィスの右手に以前私も向けられたことのある、短銃が握られていた。
 先端からは煙がでていて、微かに火薬の臭いがしてくる。

 銃口の先にはアランの額があった。

 しかしアランの額に穴が開くことはなく、鉄の銃弾が額にめり込んでいるだけだ。


「え、と……まずはどっちに反応したほうがいいのかな」
「そうだね、私としてはまず銃に打たれて無傷の彼について聞かせてほしいね」
「ジョン!」

 ぬるっとジョンが現れる。
 アランの額にめり込んでいた銃弾が、地面に転がった。

「ジョー。彼は?」
「奴隷、なんだけど……。話すと長くなる」
「そうかい。ならまずは船に戻ろう。ディヴィス、今の銃声で人が集まってきてしまう。騒ぎを起こすのは得策ではないよ」
「わかってらぁ!!」

 ジョンの言葉にディヴィスが苛立たしげに叫び返した。
 おや、ディヴィスの様子が……?


「ねえ、アラン。ディヴィスに何かしたの?」
「してるワケねえっての。今日がマジの初めましてだわ」

 船へ走りながら、アランへ小さく問いかける。
 アランも心当たりはないようで、ただひたすら首を傾げていた。

 道中で、ジョンの方を窺えば目が合いウインクをされた。

 一体、ディヴィスに何が……。その答えは船に着いてすぐに知ることとなる。


「きたねえ!!!! 汚物が俺の船に乗るな!!!!」
「よ~し、アランと言ったかな。話の前にまず君はイメチェンをしてもらうぞ!!」
「バートレット!! せめて最低限の清潔感!!」
「アイアイ、キャプテン。このハンサムに任せたまえ。私にかかれば君もすぐに大陸一の色男さ」
「おい! 水はやめろ!!」


「うちのせんちょ~、すげえ綺麗好きでなぁ。港に停泊するたンびに船を丸ごと大掃除するもんで、たま~にそのせいで帝国海軍に捕まりそうにもなったりすんのよ」
「海賊って命懸けなんだなぁ」
「多分そこまで綺麗好きなのもうちの船長だけだと思うけどよぉ」
「航海の腕はピカイチなんだけどなぁ」


 船に乗るなりアランの首根っこを掴み、ジョンとディヴィスが船室へと消えていった。
 その様子を残っていた海賊たちと見送り、私はただ呆然とするしかなかった。

 まあ、確かにあの格好はねえ。
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