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第8話 炎上の掘り返し
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初配信から一週間が経った。
二回目、三回目と配信を重ねるうちに、少しずつコメントの層が厚くなってきた。新規らしいアカウントが増えて、既存ファンが「俺たちの烈くん」みたいなコメントを打って、そこに新規が「なんか仲良さそう」と混ざってくる。そういう空気が戻ってきていた。
悪くない、と思っていた。
それが崩れたのは、四回目の配信を終えた翌朝だった。
スマホを開いたら、藤井からメッセージが来ていた。
『昨夜から一部で過去の件が話題になっています。念のためご報告します。対応については焦らず、ノアと相談してみてください』
蓮はそのメッセージを読んで、すぐにSNSを開いた。
あった。
自分の名前で検索すると、半年前の炎上まとめのリンクが新しいコメントつきで回り始めていた。『復帰したらしいけど結局あの件どうなったの』『新事務所に入ったって知らずに見てた人かわいそう』『過去の件調べたら引いた』。
投稿の日時を見ると、昨夜の配信が終わった直後から始まっていた。
「……やっぱりな」
誰もいない部屋で、蓮は呟いた。
そうなると思っていた。好調になればなるほど、掘り返される。それがSNSというものだ。分かっていた。分かっていたから、覚悟もしていた。
のに。
胃のあたりが、じわっと重くなった。
タブレットの通知が鳴った。ノアからだった。
『状況を確認しています。今話せますか』
蓮は少し間を置いてから、通話ボタンを押した。
「見ました」蓮は先に言った。
「はい。私も把握しています」ノアが答えた。「現時点での拡散規模と、投稿の発生源について分析しました」
「どこから出てるんですか」
「特定の発生源は見つかりませんでした。復帰後の注目が高まったことで、自然と過去の件を調べる人が増えた結果です」
「……そうですか」
蓮は窓の外を見た。曇り空だった。
「で、どうするんですか。対応策は」
「三つあります」ノアが言った。「一つ目、無視する。時間が経てば自然に収束する可能性が高い。二つ目、藤井さんを通じて声明を出す。事実関係を整理した上で、新事務所の立場から発信する。三つ目、次の配信でさりげなく触れる。説明ではなく、今の活動で上書きしていく形です」
蓮は腕を組んだ。
「どれが一番いいと思いますか」
「データ上は三つ目が最も効果的です。説明や声明は、かえって話題を長引かせるリスクがあります。あなたが楽しそうに配信しているという事実が、余計な言葉より強い」
「……それはそうですね」
「ただ」ノアが続けた。「これはあなたが決めることです。私が効果的と判断しても、あなたが納得できない方法では意味がありません」
蓮は少し黙った。
三つ目、か。また笑って配信する。それだけだ。言葉にすれば簡単だ。でも今この瞬間、スマホの画面に並んでいる言葉たちが、まだ目の裏に残っている。
『新事務所に入ったって知らずに見てた人かわいそう』。
かわいそう、か。
「……俺のことを応援してくれてる人が、そういうの見て傷つくのが嫌なんですよ」
言ってから、少し驚いた。自分でもそこが一番引っかかっていたと気づいたのは、言葉にした後だった。
ノアは一瞬、間を置いた。
「それは」ノアが言った。「あなたが今もファンのことを考えているということです」
「……当たり前でしょう」
「当たり前ではない人もいます」
蓮は何も言わなかった。
「三つ目で行きます」蓮は言った。「次の配信、普通にやります」
「分かりました。準備を手伝います」
通話を切った。
スマホをテーブルに置いて、蓮は天井を見た。
やっぱりな、と思った。また始まった。でも今回は、隣に分析してくれる奴がいる。前回は一人だった。それだけが、今回と違う。
それだけで、少しだけ違う気がした。
二回目、三回目と配信を重ねるうちに、少しずつコメントの層が厚くなってきた。新規らしいアカウントが増えて、既存ファンが「俺たちの烈くん」みたいなコメントを打って、そこに新規が「なんか仲良さそう」と混ざってくる。そういう空気が戻ってきていた。
悪くない、と思っていた。
それが崩れたのは、四回目の配信を終えた翌朝だった。
スマホを開いたら、藤井からメッセージが来ていた。
『昨夜から一部で過去の件が話題になっています。念のためご報告します。対応については焦らず、ノアと相談してみてください』
蓮はそのメッセージを読んで、すぐにSNSを開いた。
あった。
自分の名前で検索すると、半年前の炎上まとめのリンクが新しいコメントつきで回り始めていた。『復帰したらしいけど結局あの件どうなったの』『新事務所に入ったって知らずに見てた人かわいそう』『過去の件調べたら引いた』。
投稿の日時を見ると、昨夜の配信が終わった直後から始まっていた。
「……やっぱりな」
誰もいない部屋で、蓮は呟いた。
そうなると思っていた。好調になればなるほど、掘り返される。それがSNSというものだ。分かっていた。分かっていたから、覚悟もしていた。
のに。
胃のあたりが、じわっと重くなった。
タブレットの通知が鳴った。ノアからだった。
『状況を確認しています。今話せますか』
蓮は少し間を置いてから、通話ボタンを押した。
「見ました」蓮は先に言った。
「はい。私も把握しています」ノアが答えた。「現時点での拡散規模と、投稿の発生源について分析しました」
「どこから出てるんですか」
「特定の発生源は見つかりませんでした。復帰後の注目が高まったことで、自然と過去の件を調べる人が増えた結果です」
「……そうですか」
蓮は窓の外を見た。曇り空だった。
「で、どうするんですか。対応策は」
「三つあります」ノアが言った。「一つ目、無視する。時間が経てば自然に収束する可能性が高い。二つ目、藤井さんを通じて声明を出す。事実関係を整理した上で、新事務所の立場から発信する。三つ目、次の配信でさりげなく触れる。説明ではなく、今の活動で上書きしていく形です」
蓮は腕を組んだ。
「どれが一番いいと思いますか」
「データ上は三つ目が最も効果的です。説明や声明は、かえって話題を長引かせるリスクがあります。あなたが楽しそうに配信しているという事実が、余計な言葉より強い」
「……それはそうですね」
「ただ」ノアが続けた。「これはあなたが決めることです。私が効果的と判断しても、あなたが納得できない方法では意味がありません」
蓮は少し黙った。
三つ目、か。また笑って配信する。それだけだ。言葉にすれば簡単だ。でも今この瞬間、スマホの画面に並んでいる言葉たちが、まだ目の裏に残っている。
『新事務所に入ったって知らずに見てた人かわいそう』。
かわいそう、か。
「……俺のことを応援してくれてる人が、そういうの見て傷つくのが嫌なんですよ」
言ってから、少し驚いた。自分でもそこが一番引っかかっていたと気づいたのは、言葉にした後だった。
ノアは一瞬、間を置いた。
「それは」ノアが言った。「あなたが今もファンのことを考えているということです」
「……当たり前でしょう」
「当たり前ではない人もいます」
蓮は何も言わなかった。
「三つ目で行きます」蓮は言った。「次の配信、普通にやります」
「分かりました。準備を手伝います」
通話を切った。
スマホをテーブルに置いて、蓮は天井を見た。
やっぱりな、と思った。また始まった。でも今回は、隣に分析してくれる奴がいる。前回は一人だった。それだけが、今回と違う。
それだけで、少しだけ違う気がした。
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