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第四章
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ふと目を覚ますと真っ白な天井がみえた。視線だけを左右に動かしてみると、だんだんと状況がみえてくる。
あたしは確か、病室から飛び降りて死んだんじゃなかったっけ。
もしかしてあたし生きてるの?
身体がぐちゃぐちゃになってたり、足とか変な方向に曲がってたりしてない?
五体満足で生きてるの?
此処は多分鹿児島さんと同じ病院で、何処かの病室で、あたしがいまナースコールを押せば、看護婦さんがきてくれるだろう。そしたらお兄ちゃんに連絡がいくのかな。あたしが病室から飛び降りたなんて知ったら、お兄ちゃんはどう思うかな。
まだぼんやりとした頭で考えていると、仕切りの白いカーテンが開いた。そこから顔をだしたのはお兄ちゃんだった。
「あ、愛莉」
「……おにい、ちゃん?」
なんだ、もうとっくにお兄ちゃんに連絡がきてたんだ。
お兄ちゃんはあたしをみるなり、落ち着きをなくした子供のようにわたわたと動いていた。
「い、いつ目が覚めたんだ?」
「たったいま」
「そ、そうか。あ……何処か痛いところはある? なにがあったか覚えてる?」
「痛いところはとくに。なにがあったかは覚えてるよ」
「あ、愛莉が落ちたところに車があったんだ。それがクッションになって愛莉を救ってくれたんだ」
「……そう」
「あ、あ、看護婦呼ばなきゃ。あ、橋本です。愛莉が目を覚ましました」
しばらくすると看護婦さんと男の先生がきて、まだ動くと痛むだろうからトイレに行きたい時はナースコールを押すようにとか、面会時間の説明とかを簡単にされた。
「なにかほしいものがあればなんでも言ってくれ」
「あたし、鹿児島さんに会わないと」
「え?」
「鹿児島さん、この病院に入院してるの。早く会って話さないと」
「えっと、それはいまじゃないとだめなのかな」
「直接会って話さなきゃ。じゃないと逃げたと思われちゃう」
あたしはばたばたと手を動かして、どうにか立ち上がろうとした。だけど足が思うように動かなかった。
「だめだよ愛莉。先生も言ってたよね、まだ動くと痛むって。いくら車がクッションになってくれたとはいえ、愛莉は足から落ちたんだ。むりして歩いちゃいけないよ」
「でも」
「愛莉」
どうしよう、どうしたら鹿児島さんに会いに行ける?
そもそもお兄ちゃんにあたしと鹿児島さんのことを何処まで話せばいいの?
そうだ、上辺で話したってきっとお兄ちゃんには通用しない。だから本当のことを言うしかない。大丈夫、お兄ちゃんならきっとわかってくれるはず。あたしを大切に思ってくれているお兄ちゃんなら。
「……あたし、記憶がなくなる前に、鹿児島さんを虐めてたんだって」
「え?」
「記憶がなくなってからも無自覚に鹿児島さんを傷つけてたみたいで、さっき謝りに行ったけど、許してもらえなかったんだ」
お兄ちゃんはあたしの話を黙って聞いている。
「あたし、鹿児島さんに死ねって言われちゃった。だから死のうとしたの。だけど死ねなかった。でも、死ねなかったけど、ちゃんと窓から飛び降りたんだから、これで鹿児島さんも許してくれるよね? だからあたしは早く鹿児島さんに会って、ちゃんと窓から飛び降りたよって報告して、生きててごめんねって謝らないといけないの」
空気が凍る音がした。
「……んだそれ」
「え?」
「愛莉が死ぬところだったんだぞ……それなのに、生きててごめんなんて言う必要ないだろ」
お兄ちゃんの声が震えている。本当に怒ってるんだ。
「ち、違うよお兄ちゃん。あたしが全部悪いの。あたしが鹿児島さんを傷つけたから、許してくれなくて当然なの」
「知るかよそんなこと。理由がなんであれ、死んだらもう戻ってこれないんだからな」
そうだ。あたし、もう少しでお兄ちゃんに会えなくなるところだったんだ。そんなことになったらお兄ちゃんは、鹿児島さんになにをするかわからない。
あたし、あの時ぷつんと切れて、なにも考えられなくなった。そうすることが正しいとしか思えなくて、周りの人達の声なんてちっとも聞こえていなかった。
人が死を選ぶ時ってこういう感じなんだって思った。あいつらなにも考えてないんだよ。死ぬことだけに取り憑かれている。だから死ぬのが怖くない。
「とにかくいまは安静にして、お願いだから」
お兄ちゃんにお願いをされてしまったのだから聞かないわけにはいかないだろう。言われた通り、しばらくは安静にしておかないと。
あたしは確か、病室から飛び降りて死んだんじゃなかったっけ。
もしかしてあたし生きてるの?
身体がぐちゃぐちゃになってたり、足とか変な方向に曲がってたりしてない?
五体満足で生きてるの?
此処は多分鹿児島さんと同じ病院で、何処かの病室で、あたしがいまナースコールを押せば、看護婦さんがきてくれるだろう。そしたらお兄ちゃんに連絡がいくのかな。あたしが病室から飛び降りたなんて知ったら、お兄ちゃんはどう思うかな。
まだぼんやりとした頭で考えていると、仕切りの白いカーテンが開いた。そこから顔をだしたのはお兄ちゃんだった。
「あ、愛莉」
「……おにい、ちゃん?」
なんだ、もうとっくにお兄ちゃんに連絡がきてたんだ。
お兄ちゃんはあたしをみるなり、落ち着きをなくした子供のようにわたわたと動いていた。
「い、いつ目が覚めたんだ?」
「たったいま」
「そ、そうか。あ……何処か痛いところはある? なにがあったか覚えてる?」
「痛いところはとくに。なにがあったかは覚えてるよ」
「あ、愛莉が落ちたところに車があったんだ。それがクッションになって愛莉を救ってくれたんだ」
「……そう」
「あ、あ、看護婦呼ばなきゃ。あ、橋本です。愛莉が目を覚ましました」
しばらくすると看護婦さんと男の先生がきて、まだ動くと痛むだろうからトイレに行きたい時はナースコールを押すようにとか、面会時間の説明とかを簡単にされた。
「なにかほしいものがあればなんでも言ってくれ」
「あたし、鹿児島さんに会わないと」
「え?」
「鹿児島さん、この病院に入院してるの。早く会って話さないと」
「えっと、それはいまじゃないとだめなのかな」
「直接会って話さなきゃ。じゃないと逃げたと思われちゃう」
あたしはばたばたと手を動かして、どうにか立ち上がろうとした。だけど足が思うように動かなかった。
「だめだよ愛莉。先生も言ってたよね、まだ動くと痛むって。いくら車がクッションになってくれたとはいえ、愛莉は足から落ちたんだ。むりして歩いちゃいけないよ」
「でも」
「愛莉」
どうしよう、どうしたら鹿児島さんに会いに行ける?
そもそもお兄ちゃんにあたしと鹿児島さんのことを何処まで話せばいいの?
そうだ、上辺で話したってきっとお兄ちゃんには通用しない。だから本当のことを言うしかない。大丈夫、お兄ちゃんならきっとわかってくれるはず。あたしを大切に思ってくれているお兄ちゃんなら。
「……あたし、記憶がなくなる前に、鹿児島さんを虐めてたんだって」
「え?」
「記憶がなくなってからも無自覚に鹿児島さんを傷つけてたみたいで、さっき謝りに行ったけど、許してもらえなかったんだ」
お兄ちゃんはあたしの話を黙って聞いている。
「あたし、鹿児島さんに死ねって言われちゃった。だから死のうとしたの。だけど死ねなかった。でも、死ねなかったけど、ちゃんと窓から飛び降りたんだから、これで鹿児島さんも許してくれるよね? だからあたしは早く鹿児島さんに会って、ちゃんと窓から飛び降りたよって報告して、生きててごめんねって謝らないといけないの」
空気が凍る音がした。
「……んだそれ」
「え?」
「愛莉が死ぬところだったんだぞ……それなのに、生きててごめんなんて言う必要ないだろ」
お兄ちゃんの声が震えている。本当に怒ってるんだ。
「ち、違うよお兄ちゃん。あたしが全部悪いの。あたしが鹿児島さんを傷つけたから、許してくれなくて当然なの」
「知るかよそんなこと。理由がなんであれ、死んだらもう戻ってこれないんだからな」
そうだ。あたし、もう少しでお兄ちゃんに会えなくなるところだったんだ。そんなことになったらお兄ちゃんは、鹿児島さんになにをするかわからない。
あたし、あの時ぷつんと切れて、なにも考えられなくなった。そうすることが正しいとしか思えなくて、周りの人達の声なんてちっとも聞こえていなかった。
人が死を選ぶ時ってこういう感じなんだって思った。あいつらなにも考えてないんだよ。死ぬことだけに取り憑かれている。だから死ぬのが怖くない。
「とにかくいまは安静にして、お願いだから」
お兄ちゃんにお願いをされてしまったのだから聞かないわけにはいかないだろう。言われた通り、しばらくは安静にしておかないと。
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