橋本愛莉というおんな

まなづるるい

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第五章

36.

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 家に着くとあたしは玄関をみて立ち止まった。柚留ちゃんは勿論、お兄ちゃんはまだ帰ってきてないらしい。

「ちょっと愛莉、こんなところで立ち止まらないでよ」
「あ、ごめん。お兄ちゃんまだ帰ってきてないみたい」
「そう。いいから早く靴脱いで入って。お菓子パーティーするんでしょ?」

 あ、結局お菓子パーティーはするんだ。
 ああどうしよう。気まぐれでもいい。いまは流の優しさが身に染みる。
 言われた通り靴を脱いで中に入ると、あたしは流をリビングへと招待した。

「えっと、此処がリビングです」
「そんなんみればわかるよ」
「あ、うん。えっと、これがソファ。好きに座ってね」
「……なんか愛莉、緊張してる?」
「え?」
「人を家に呼んだことないの?」
「わ、わかんない。多分ないんじゃないかな。ていうか、流はうちにきたことないの?」
「あたしはないなぁ。果歩もないと思う。互いの家を行き来するほどの仲でもないし」
「え、そうなの? てっきり親友なんだと思ってた」
「まさかぁ。ないない。愛莉はああいう性格だから、最初からつかず離れずな距離感だったよ」
「そうなんだ」

 テーブルの上にお菓子を広げながら流と他愛もない雑談をしていると、心の中のもやもやが晴れていくようだった。この時間がいつまでも続けばいいのに。そう思ってるのはあたしだけなのかな。

「好きなの選んでいいの?」
「うん。どれでも選んでいいよん」 

 やっぱり一人で食べるより二人で食べた方がおいしいや。
 手のひらに麦チョコを乗せると、あたしの視界が徐々に歪んでいく。

「愛莉? どしたの?」
「え?」
「超泣いてんじゃん」

 本当だ、言われるまで気がつかなかった。そういえば鼻が詰まって息がしにくいな。

「あ、あれ? どうしたんだろ。麦チョコがおいしかったからかなぁ?」
「いやまだ食べてないし」

 急に涙がでるなんて馬鹿みたい。これじゃあ同情してくださいって言ってるようなもんじゃない。
 きっとあたし、心と身体がバラバラで、自分でもわけわからなくなってるんだろうな。だから急に涙がでてきたり自暴自棄になったりするんだよ。

「ご、ごめんね流。なんかいま、涙腺が馬鹿になってるみたい」

 服の袖で涙を拭っていると、流があたしにポケットティッシュを差しだしてくれた。

「しょうがないよ。勝手に涙がでてくるってことは、いまは泣きたいきもちなんだよ」

 あれ、流ってこんなに優しかったっけ?
 一度止まったはずの涙がまた溢れだす。もう涙腺がガバガバだ。

「う、うぅー……っ、泣いてる顔、不細工だからみないでぇ」
「やぁだ、泣いてる愛莉とかレア過ぎるもん。絶対みる」

 二人で笑い合っていると、あたしのスマホがヴー、ヴー、と振動する。

「誰?」
「わかんない。知らない番号だ」
「迷惑電話かな?」
「どうだろ……もしもし」

 電話の相手は知らない人だった。「橋本さんですか?」と聞かれたので、「はい」と答えると、わけのわからないことを言いだしたので、間違い電話なんじゃないかと思って通話ボタンを切ってしまった。

「誰だったぁ?」
「わかんない。多分、女の人」
「で、なんだって?」
「わかんない……あたし、なにを言われてるのかわからなくて切っちゃった……」
「は? なにそれ意味わかんないんだけど。向こうは外人だったってこと?」
「ううん、日本語」
「まぁ、用があるならまたかかってくるっしょ。あれならあたしが代わりにでたっていいし」

 言うが早いかあたしのスマホが再び振動する。みればさっきと同じ番号からだった。きっとあたしが途中で切ったから、わざわざかけ直してくれたんだろう。

「あたしがでるよ。もしもし。すいません、橋本はいま、手が離せなくて……用件ならあたしが代わりに聞きますけど。はい……はい……え?」

 電話を切ると、流があたしをみて顔を歪ませる。たった数秒の無言が何時間にも感じて、空気が一気に重く感じるようだった。

「だ、誰からだった?」
「病院からの電話だった。お兄さん、車に轢かれて死んだって」
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