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第七章
46.
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「お、おはようございます」
寝起きの状態で加賀さんに会いたくなくて、洗面所を探すために廊下をうろうろしてみたけど、勝手にドアを開けてうっかり開けちゃいけない部屋だったりしたら困るので、仕方なくリビングと思われる部屋に行き、加賀さんに挨拶をする。
実は歯磨きもまだなので、できる限り加賀さんから距離をとりたかったのだが。
「あ、あの、洗面所は何処でしょう? あと、トイレも……」
「ああ、そういえば昨日は案内していませんでしたね。どうぞこちらへ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。ではごゆっくり」
あまりにも紳士的な振る舞いに、あたしの心はズキンと痛む。
加賀さんはどうしてなにもしてこないんだろう。あたしが高校生だから?
それとも、あたしがお兄ちゃんの妹だから?
お兄ちゃんじゃなきゃだめなきもちがそこに間違いなくあるはずなのに、加賀さんならその壁を軽々と蹴り飛ばしてきてくれるんじゃないかって、心の何処かで期待してる自分がいる。
もし加賀さんが求めてきたら、あたしはきっと拒めない。そんな自分が軽薄で、嫌になる。
身支度とトイレを済ませると、あたしは加賀さんのいるリビングと思われる部屋に戻った。
「朝食は食べますか? ご飯とパン、どちらがいいですか?」
このままじゃだめだ。加賀さんに甘えてばかりでは、いつか必ずあたしがあたしを許せなくなってしまう。
なんていうのは建前で。
本当は誰かに依存するのが怖いだけ。いまこの瞬間も逃げたいんだ、あたしは。
その優しさを失うのが怖いから。誰かを好きになって失うのが怖いから。
「……加賀さん」
「はい」
「あたし、家に忘れ物をしたみたいで」
加賀さんの顔が怖くてみれなかった。
だってあたし、嘘吐いた。こんなに優しくしてくれた加賀さんに、嘘吐いた。
加賀さんは大人だから、きっともうあたしの嘘に気づいている。気づいているくせに黙ってる。何処までも優しい人。
「……ちょっと、取りに行ってきます」
「そうですか。暗くなる前には戻ってきてくださいね。おいしいご飯を作っておきますから」
「……はい」
ほらね、加賀さんは気づいてる。暗くなる前にはだって。まるであたしがすぐに戻るつもりはないの、わかってるみたい。
加賀さんがおいしいご飯を作っていてくれるたらちゃんと戻ろう。戻るから、いまだけはこのままなにも聞かないでいてほしい。
あたしは逃げるようにして加賀さんの家をでた。
【加賀side】
『加賀さぁん』
愛莉さんが家をでたあと、甘えた声で彼女が鳴く。彼女は僕に跨ると、当たり前のようにその柔い唇を僕の唇に押し当てた。
『やぁだ、なんであんな人、家に呼んだのぉ?』
「ごめんね。困ってる人がいると、助けたくなっちゃうんだ」
『んもぉ、加賀さん優しすぎぃ』
「嫉妬してるのかい?」
『当たり前ぇ』
言いながら身体を密着させてくる彼女を僕はそっと抱き寄せる。
早く愛莉さんも僕に堕ちないかな。僕なら救ってあげられるんだ。僕なら、僕なら、僕なら。
きみだってそう思うだろう?
柚留。
寝起きの状態で加賀さんに会いたくなくて、洗面所を探すために廊下をうろうろしてみたけど、勝手にドアを開けてうっかり開けちゃいけない部屋だったりしたら困るので、仕方なくリビングと思われる部屋に行き、加賀さんに挨拶をする。
実は歯磨きもまだなので、できる限り加賀さんから距離をとりたかったのだが。
「あ、あの、洗面所は何処でしょう? あと、トイレも……」
「ああ、そういえば昨日は案内していませんでしたね。どうぞこちらへ」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。ではごゆっくり」
あまりにも紳士的な振る舞いに、あたしの心はズキンと痛む。
加賀さんはどうしてなにもしてこないんだろう。あたしが高校生だから?
それとも、あたしがお兄ちゃんの妹だから?
お兄ちゃんじゃなきゃだめなきもちがそこに間違いなくあるはずなのに、加賀さんならその壁を軽々と蹴り飛ばしてきてくれるんじゃないかって、心の何処かで期待してる自分がいる。
もし加賀さんが求めてきたら、あたしはきっと拒めない。そんな自分が軽薄で、嫌になる。
身支度とトイレを済ませると、あたしは加賀さんのいるリビングと思われる部屋に戻った。
「朝食は食べますか? ご飯とパン、どちらがいいですか?」
このままじゃだめだ。加賀さんに甘えてばかりでは、いつか必ずあたしがあたしを許せなくなってしまう。
なんていうのは建前で。
本当は誰かに依存するのが怖いだけ。いまこの瞬間も逃げたいんだ、あたしは。
その優しさを失うのが怖いから。誰かを好きになって失うのが怖いから。
「……加賀さん」
「はい」
「あたし、家に忘れ物をしたみたいで」
加賀さんの顔が怖くてみれなかった。
だってあたし、嘘吐いた。こんなに優しくしてくれた加賀さんに、嘘吐いた。
加賀さんは大人だから、きっともうあたしの嘘に気づいている。気づいているくせに黙ってる。何処までも優しい人。
「……ちょっと、取りに行ってきます」
「そうですか。暗くなる前には戻ってきてくださいね。おいしいご飯を作っておきますから」
「……はい」
ほらね、加賀さんは気づいてる。暗くなる前にはだって。まるであたしがすぐに戻るつもりはないの、わかってるみたい。
加賀さんがおいしいご飯を作っていてくれるたらちゃんと戻ろう。戻るから、いまだけはこのままなにも聞かないでいてほしい。
あたしは逃げるようにして加賀さんの家をでた。
【加賀side】
『加賀さぁん』
愛莉さんが家をでたあと、甘えた声で彼女が鳴く。彼女は僕に跨ると、当たり前のようにその柔い唇を僕の唇に押し当てた。
『やぁだ、なんであんな人、家に呼んだのぉ?』
「ごめんね。困ってる人がいると、助けたくなっちゃうんだ」
『んもぉ、加賀さん優しすぎぃ』
「嫉妬してるのかい?」
『当たり前ぇ』
言いながら身体を密着させてくる彼女を僕はそっと抱き寄せる。
早く愛莉さんも僕に堕ちないかな。僕なら救ってあげられるんだ。僕なら、僕なら、僕なら。
きみだってそう思うだろう?
柚留。
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