橋本愛莉というおんな

まなづるるい

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第七章

50.

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 瑞穂さんはお兄ちゃんの彼女で、愛莉にとっての害虫だった。この女はお兄ちゃんが死んでしまったことを知っているのだろうか。

「もう、誰かと思ったら愛莉ちゃんでびっくりしたよ」
「はぁ」
「高校生がこんな時間に出歩いたりしちゃだめじゃない」

 この公園、嫌いなんだけどな。
 あたしはいま、瑞穂さんと加賀さんの家の近くの公園のブランコに座っている。出歩くもなにも、こっちは死ぬつもりだったんだ。それなのにどうして瑞穂さんがあたしの手を引っ張るの。

「ねぇ、柚留ちゃんは一緒じゃないの?」

 瑞穂さんだってあの部屋をみたくせに、どうして柚留ちゃんが一緒だと思うのか。瑞穂さんも記憶をなくしたの?
 それとも嫌味かな。

「一緒じゃないですよ」
「そっか。柚留ちゃんと早く話がしたいんだけどなぁ」

 話すってなにを?
 もしかしてお兄ちゃんの彼女のくせに、なんにも知らないとか言わないよね?

「……あの……知らないんですか?」
「なにを?」
「お兄ちゃん、死にましたよ」

 ああ、その顔知ってる。頭の中が真っ白になって、意味わかんないとでも言いたげな表情をするの。

「……嘘……」

 馬鹿な女。あんなにあたしにマウント取ってきたのに、お兄ちゃんが死んだことにも気がつかないなんて。これでもう瑞穂さんと関わらなくて済むと思うと清々する。あたしを無理やり引き留めたんだから、真実をとくと受け入れてもらって退場していただこうじゃないか。

「嘘じゃないです。あの日、お兄ちゃんが柚留ちゃんを探しに行って、それで車に轢かれて死んだんです」
「……嘘……嘘……」
「瑞穂さんは家族じゃないから、連絡がこなかったんでしょうね。残念でしたね、お兄ちゃんと結婚できなくて」

 言いたいことは言ってやった。瑞穂さんもあたしと同じきもちを味わえばいい。

「……じゃああたしはこれで」
「どうして」
「は?」
「愛莉ちゃんだって家族じゃないのに、なんで連絡がくるの? 一緒に住んでるからって、愛莉ちゃんと大樹は赤の他人なのに」

 なんだこいつ。この期に及んでまだあたしの上に立とうとすんの?
 自分はなにも知らされていなかったからって、こっちにまで突っかかってくんのやめてよね。ほんと迷惑。

「……そうですね。あたしとお兄ちゃんは赤の他人なんで、普通に愛し合えますけど」
「はぁ?」
「なんなら一度しましたけど。お兄ちゃんの方から求めてきましたけど」
「は?」
「そういえば、お兄ちゃんと結婚するって話をあたしにしてきた時、お兄ちゃんは一言も話してなかったけど、あれってなんでなんですかね。もしかして瑞穂さんには普段から嘘を吐くくせがあって、それをお兄ちゃんは知ってて止めるのも面倒で黙っていたりして」
「なに……言って……」
「いますよねぇ、好きな男の身近な距離にいる女にマウント取りたがる女って。きっとお兄ちゃんもまたかって思いながらみてたんでしょうね。だから瑞穂さんをおいて一人で死んじゃったんだ」

 ああ楽しい。人を馬鹿にして嫌味を言うのって、なんてきもちがいいのかしら。さっきまでの鬱々としたきもちが嘘みたいに晴れていく。
 あたしも愛莉みたいに人を見下す生き方をしてみようかしら。その方がずっと楽だし、自分が傷つかないで済むもんね。

「てめぇ!」

 瑞穂さんがあたしの胸ぐらを掴んでくる。ようやく現れた本性に、あたしはにぃ、と微笑んだ。

「あはぁ、やぁっと本性だした♡」
「あ?」
「あんた、ずっと猫被ってるんだもん。みててきもちわりぃんだよ」

 愛莉ならきっとこんなふうに言うよね。きもちがいいほどに口が悪くてブレないんだ、愛莉って。

「てめぇだって猫被ってただろうが! いっつも大樹の傍にいやがって、目障りなんだよ!」
「家族でもないのにごめんねぇ?」
「あぁ?」
「もういいじゃん、さっさとどっか行きなよ。これ以上あたしに突っかかってもお兄ちゃんはいないんだからさ」
「あんたなんか死ねばいいんだ!」
「うん、死ぬよ。死のうとしたけど、あんたがあたしを止めたんじゃん」
「……っ」

 ちょっとちょっと、なんなのよその顔は。自分が死ねって言ったんじゃん。なに泣きそうな顔してんのよ。あんたはあたしにいなくなってほしいんでしょ?
 だったらそんな顔すんな、気持ち悪い。

「なに? 同情? 同情すんならとっととどっか行ってくんない? まじ邪魔」

 あたしは愛莉みたいに振る舞えただろうか。愛莉が戻ってこないなら、あたしが愛莉になるよ。あたしが愛莉を守るから。だから愛莉はそこで指を咥えてみてなよ。愛莉の真似をしたあたしを。
 やっと瑞穂さんがいなくなって清々したあたしは、いつの間にか倒れるようにそこで眠っていた。
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