橋本愛莉というおんな

まなづるるい

文字の大きさ
57 / 97
第八章

57.

しおりを挟む
 違うじゃん。そうじゃないじゃん。そこはずっと胸の奥底に隠していた汚い感情をぶつけるとこじゃん。なんであんたはそうなんだよ。あたしはそんな言葉が聞きたいんじゃなくて、もっと複雑な、だめだとわかっていても止められない感情みたいなものをさ。

「……期待通りの答えじゃなかったみたい」
「だ、だって。わ、わかった。彼氏と今度会うから浮かれてるんだ! だからマウントとって、あたしのことを馬鹿にして!」

 なんとか言いなさいよ。黙ってんじゃないわよ。そうやって勝ち誇った顔であたしのことをみないでよ。

「こ、心の中では馬鹿にしてるんでしょう? あたしがお兄ちゃんに大事にされてない方の妹だって! お兄ちゃんに色目使う女がいるって知った途端、家にまで転がりこんでくるストーカー気質の妹だって!」

 あたしの声だけが浴室中に反響する。それが余計にむかついた。子供の言うことだからと黙って聞いてあげてる大人な私って素敵とでも思ってんの?
 気持ち悪い。

「お、お兄ちゃんから離れてよ! あたしのお兄ちゃんを返して!」
「……返すよ、いらないよ」
「やっぱり!」
「そう言えば満足する?」
「!」
「違うよね。そうじゃないよね。きっと私がなにを言ってもだめなんだよね。否定をすれば違うだろ、肯定をすればやっぱりね。愛莉ちゃんにとっては私の答えなんてどっちでもいいんだよね。ただたんに自分の敵を攻撃したいだけ。相手が傷ついてくれれば他はどうだっていい。だってそうすればきもちが満たされるんだもん。そうやって愛莉ちゃんはいつも自分を守ってるの。そうしないと自分が傷ついちゃうから」
「ち、が」
「違う? 本当に? 図星でしょう」
「違う!」
「図星だよ。だから困ってる。会ったばかりの女に心の内を見透かされて驚きを隠せないんだ。でもね、私、実は相手の心が読めるの。だからどんなに隠してても無駄なんだ、ごめんね」

 は?
 相手の心が読める?
 は?
 そんなわけねぇだろ阿呆かよ。

「……あ、嘘だと思ってる」
「う、嘘……だよね?」
「うん、嘘」
「な、なんで嘘」
「ふふっ。ごめんね。困ってる愛莉ちゃんが可愛くてつい」

 意味がわからない。なんでこのタイミングでしょうもない嘘なんか吐いたわけ?
 困ってるあたしが可愛くてって、変態かよ。

「ね、さっきのは嘘だけど、私は愛莉ちゃんとも仲良くなりたいと思ってるよ。本当だよ」

 ああもう、本当に調子が狂う。一緒にお風呂なんて入るんじゃなかったな。
 なんて思っていたはずなのに、どうしてあたしは藍子さんと同じ布団で寝ることになってんだ。

「あ、あのう」
「うん?」
「同じ布団で寝るのはちょっと」
「ごめんね、お客様用のお布団はひとつしかないの。どうしても嫌ならお兄さんが使ってるお布団を引っ張ってくるけど」

 お兄ちゃんが使ってる布団なんて、そっちがいいに決まってる。

「い、いいですそこまでしなくても」

 だけどあたしはよくても、それだとお兄ちゃんは床で寝ることになっちゃうもんね。それは流石に可哀想だよ。
 あたしは仕方なく布団に身を埋めた。
 すると躊躇することなく藍子さんが身を埋めてくる。初対面でこの距離感はやばくないか?
 誰にでもこうなのだろうか。それともあたしがお兄ちゃんの妹だから?
 シャンプーのいい匂いがする。あたしが男だったらドキドキするだろうな。
 ドキドキしてなにも喋れないでいると、隣から小さな寝息が聞こえてきた。
 もう寝たの?
 早くない?
 変に緊張してるのはあたしだけ?
 でも、いまならお兄ちゃんに近づける。
 あたしは藍子さんを起こさないようにそっと布団から抜けだすと、お兄ちゃんがいるであろう部屋へと足を伸ばした。
 ドアを開けると布団の中にお兄ちゃんがいて、こちらに背中を向けて横になっている。

「おにい、ちゃん」

 囁くような声でお兄ちゃんに近づくと、お兄ちゃんがこちらに身体を傾けた。

「ん、藍子……さん?」

 寝ぼけてて可愛いな。あたしのこと、藍子さんだと思ったみたい。
 違うよと言おうとした瞬間、お兄ちゃんの手がそっとあたしを抱き寄せた。

「……へ」

 唇が触れた。お兄ちゃんの唇だ。
 嬉しいよりも先に疑問だった。
 だってお兄ちゃん、あたしのこと藍子さんと間違えてたじゃん。それってつまり、藍子さんだと思ってキスしたってことじゃん。
 やっぱり二人はそういう関係なんだ。藍子さんはお兄ちゃんが寝ている間に近づいて夜這いしてくるような女なんだ。だからお兄ちゃんもすんなりと受け入れてるんだ。
 でも、どうしよう。このまま藍子さんのふりをしていれば、お兄ちゃんと触れ合えるかも。このまま藍子さんのふりをしていれば、キス以上のことだってしてくれるかも。
 不信感よりも欲が勝ってしまう。だってあたしはお兄ちゃんが好きで、お兄ちゃんとそういうことができるならなんだってしたいと思ってる。
 あのお兄ちゃんは偽物だったから、今度こそ本物のお兄ちゃんとしたい。藍子さんの家で、あたしを藍子さんだと勘違いしてるお兄ちゃんがあたしを犯すんだ。それはもう最高で、想像しただけで全身がゾクゾクするくらいの悦だった。
 触れては離れる唇を追いかけながら、あたしは藍子さんのふりをした。

「は、しもと……くん……」




(背後注意)

 お兄ちゃんの上唇を軽く舐めると、お兄ちゃんの口が開いた。開いた口の中にあたしの舌を捩じ込んで、お兄ちゃんの舌と逢瀬する。
 ぐちゅり、くちゅり。
 音が卑猥であたしの耳が壊れそう。
 お兄ちゃん、だめだよお兄ちゃん。そんなふうに舌を絡ませたら、あたしがきもちよくなっちゃうでしょ。

「あ、はあ」

 やばい。キスだけでもう、頭がおかしくなりそうだ。
 お兄ちゃんはあたしの声を聞いて興奮したのか、あたしを布団の中へと引っ張ってお兄ちゃんの腕の中に閉じ込めた。
 お兄ちゃんがあたしの上に乗ってる。いいなぁ藍子さん。お兄ちゃんと毎晩、こんなふうにシテるんだ。
 お兄ちゃんはあたしの顎に手を添えると、開口を促し舌を貪った。なんだか御奉仕されてるみたい。ぢゅるぢゅる、音がして恥ずかしい。
 感じすぎてわけがわからなくなってきた。多分、下半身を擦りつけていたんだと思う。お兄ちゃんに一秒でも早く触ってほしくて堪らなかったから。
 腰を浮かせてお強請りして、そしたらお兄ちゃんがあたしの太股を掴んで、下着をずり下ろしたの。
 膝下までずり降ろされた下着はそのままで、下着とあたしの足の間にお兄ちゃんが入ってきた。そのままお兄ちゃんの顔が沈んでいって、あたしの敏感なところに触れていく。
 さっきまであたしの舌を貪っていたお兄ちゃんの舌が、今度はあたしの敏感なところを刺激している。
 何度も何度も、刺激される度にあたしはじんわりと蜜を垂らして悦んで、あたしはすぐにだめになっちゃった。
 あたしがだめになったのを確認すると、お兄ちゃんはあたしの頭をぽんぽんと撫でて、優しく抱き締めてくれた。
 お兄ちゃんとキスをした。
 お兄ちゃんに愛撫された。
 嬉しいけど、もうおわり?
 最後までしなくていいの?
 藍子さんと間違えてあたしとしたからって、あたしは密告たりしないよ。一生黙っててあげる。だからしたっていいんだよ?
 だけどお兄ちゃんはそのまま寝ちゃったみたい。あたしもお兄ちゃんの腕の中で眠りたかったけど、藍子さんが起きる前に藍子さんのところに戻らなきゃ。
 明日になったら藍子さんにマウントとってやろう。「やっぱりお前らヤッてんじゃん、この嘘吐き」って言ってやろう。
 あたしはお兄ちゃんのほっぺにキスをしてから、藍子さんの部屋に戻った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

還暦妻と若い彼 継承される情熱

MisakiNonagase
恋愛
61歳の睦美と、20歳の悠人。ライブ会場で出会った二人の「推し活」は、いつしか世代を超えた秘め事へと変わっていった。合鍵を使い、悠人の部屋で彼を待つ睦美の幸福。 しかし、その幸せの裏側で、娘の愛美もまた、同じ男の体温に触れ始めていた。 母譲りの仕草を見せる娘に、母の面影を重ねる青年。 同じ男を共有しているとは知らぬまま、母娘は「女」としての業(さが)を露呈していく。甘いお土産が繋ぐ、美しくも醜い三角関係の幕が上がる。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写と他もすべて架空です。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...