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第十章
66.
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もうあたしの身体は限界だった。愛莉の中に入ってしまった以上、あたしはみていることしかできないから。みているだけって苦しいんだ。
一番驚いたのは鹿児島さんに触れられた時。みてるだけでドキドキして、ちょっとだけ変な気分になった。
鹿児島さん、加賀さんに惚れたのかな。加賀さんはかなりぶっ飛んでいる人だけど、鹿児島さんが惚れちゃうのもなんだかわかる気がする。
そこまではまだよかった。だけど愛莉は加賀さんと最後までした。お兄ちゃんが好きなくせに、加賀さんを受け入れた。
苦しい。だけどそれ以上に加賀さんが酷いことをした。
でも、それが嘘かどうかはあたしにはわからない。あたしには愛莉が事故に遭ってからの記憶しかないのだから。
愛莉にしかわからない感情。あたしには一生わからない感情。
「……加賀さん……」
「こんばんは、愛莉さん。頭痛いの大丈夫?」
加賀さんはあたしと愛莉が交代したとすぐに気がついたのだろう。目を覚ましたあたしに優しく声をかけてくれた。
だけどあたし知ってるよ。その優しさは嘘なんだよね。加賀さんが好きなのは愛莉であってあたしじゃない。だから加賀さんの優しさに甘えちゃだめなんだ。
「加賀さん、あたし、もう疲れちゃいました」
あたしは冷たい地面に仰向けになったまま、星ひとつない夜空を眺めていた。
本当にもう疲れたの。皆が愛莉にしかみせない顔をみるのも、自分の意思とは関係なく愛莉になったりあたしになったりするのも全部。
いつまでこんなのが続くんだろう。いつかどちらかの人格が消えるとしたら、どちらが消えるんだろう。やっぱり途中参加のあたしかな。
消えたくないと思うのに、あたしを求めてない人が多すぎて嫌になる。例えあたしが消えなかったとして、それをよしとして喜んでくれる人はいるのだろうか。
流と鹿児島さんは喜んでくれるよね。お兄ちゃんは……どうだろう。
「そういえば、僕の知人に麻生藍子という女性がいるのですが」
突然でてきた藍子さんの名前に、あたしはギョッとする。そうだ、藍子さんは加賀さんのことを知っていた。加賀さんだけでなく、柚留ちゃんのことまで。
あたしはようやく地面から上体を起こすと、加賀さんの次の言葉を待った。
「あの人、性格悪いでしょう」
「……二人はどういう関係なんですか?」
「僕とあの人の関係ですか? そうですね、似た者同士……旧友……色々と呼び方はありますが、どうお伝えすればいいのやら」
「思いつく限りの関係性を全部言ってください」
「おや、嫉妬でしょうか」
「藍子さんが知らないはずの情報を知っていたんです。誰からいつどうやって何処まで漏れたのか、あたしには知る権利があります」
ふむ、と加賀さんは納得する。
「何処から話したらいいものか……僕とあの人は中学校が同じでして。廊下側の一番前の席に座るあの人の背中を、隣の列の一番後ろの席からいつもみていました。あの人はとても頭が賢くて胸もあり、愛想もいいので友達も多かったんですよ」
(回想シーン)
同じクラスというだけでとくに接点のなかった僕と麻生藍子が初めて会話を交わすきっかけとなった騒動。それが、彼女のノーパン疑惑だった。
あの日ある生徒の証言から始まったその疑惑は、中学生男子には刺激の強すぎるものだったのだが、それを確認する勇気のある者は誰一人としていなかった。
ところがこれまたある日のことである。先輩男子中学生が、彼女にいきなり質問をした。
『お前、パンツ履いてないんだって?』
最初は先輩が失礼な奴だと思った彼女も、周りの視線やひそひそ声に、自分が知らないだけで噂になっているんだと気がついたようで、階段を上る時は下からみえないようにスカートを押さえながら上るようになってしまった。
僕はそれをみて思ったのだ。
『そんなに噂になるのが嫌ならパンツ履けばいいのに』
思った瞬間、彼女は顔を真っ赤にしながら僕に向かって詰め寄ってきた。
『ちょっと!』
『は? え、なに』
どうやら声にでていたらしい。彼女は僕の手を掴むと、人気のない場所へと歩いていく。
『履いてるから!』
『は?』
『パンツ、履いてるから!』
そんなに声を大にして言うことでもないだろう。弁明するなら皆にすればいいのに、どうして僕にだけするんだ。そもそも履いているならどうしてそんな噂が立つんだよ。
僕が聞けば言い淀むので、言えないならみせてみろと言ったんだ。
『……わ、わかった……』
真っ赤な顔で視線を逸らしたまま、指でスカートを摘み上げる。
彼女は確かに履いていた。だがこれは。
その清楚な見た目にはそぐわないような真っ赤なパンツ。派手な色だけならまだしも、これは俗に言う、ティーバックというものだろう。なるほど道理で履いてないと噂されるわけだ。
しかし、噂になっているのにまだ履くんだな。こいつはもしや変態なのでは?
正直引いた。
『わ、私のパンツみたんだから、ちゃんと誤解解いてよね!』
『はぁ、まぁ、いいんじゃね』
『は? なんでよ!』
『馬鹿な男子には誤解させとけばいいじゃん。そんなん履いてるの知ったら、余計騒ぐだろ』
『……あんたは騒がないの?』
『僕が? どうして?』
『だ、だってあんただって馬鹿な男子でしょ』
『僕は馬鹿だけど、スケスケの方が好きかな』
そんなの冗談に決まってるのに、彼女は次の日、本当にスケスケのパンツを履いてきた。
そして僕にみせるのだ。これ見よがしに、『どう……?』と聞きながら。
『どうって?』
『だ、だから……興奮、すんの?』
『どうして?』
『ど、どうしてって』
(背後注意)
ああこいつ、僕のことが好きなんだ。
そう思ったらなんだかスイッチが入っちゃって。僕の言うこと、何処まで聞くのかなって、試してみたくなっちゃって。
だから触らせてとも言ったし、脱いでとも言った。なにを言っても躊躇いながら僕に従う彼女。
もっと開いてみて、自分で触ってみて。
どうして濡れてるの?
此処に指を入れてみて。
もっと早く、そのまま最後までしなよ。
彼女はなんだってしてくれた。恥ずかしがりながら、みられながら。
『これ、舐めていい?』
僕は彼女の一番恥ずかしい箇所を舐めた。そこで初めて自分が立ち上がっていることに気づいたんだ。
繋がることはしなかった。やり方だってわからないし、避妊具だってなかったから。
彼女がノーパンで学校にきて、誰にもみつからないように一番恥ずかしい箇所を舐める。一番恥ずかしい箇所を舐めて立ち上がったした僕のそれは、自宅に帰ってから自分でなんとかした。
僕と彼女の関係は、いつの間にか誰にも言えない関係になっていた。
『ねぇ加賀、高校は何処に行くの?』
『お前とは違うところ』
『えっ』
『なに?』
『……同じところに行くんだと思ってた』
『どうして? いいじゃん別々で。僕はまた違うパートナー探すから、お前も自分の性癖に合うパートナーをみつけなよ』
いま思えば、彼女は僕と付き合っていると勘違いをしていたのかもしれない。だけどこの頃の僕は、互いに性癖が一致しただけの、所謂そういう類いの友達だと思っていたのだった。
一番驚いたのは鹿児島さんに触れられた時。みてるだけでドキドキして、ちょっとだけ変な気分になった。
鹿児島さん、加賀さんに惚れたのかな。加賀さんはかなりぶっ飛んでいる人だけど、鹿児島さんが惚れちゃうのもなんだかわかる気がする。
そこまではまだよかった。だけど愛莉は加賀さんと最後までした。お兄ちゃんが好きなくせに、加賀さんを受け入れた。
苦しい。だけどそれ以上に加賀さんが酷いことをした。
でも、それが嘘かどうかはあたしにはわからない。あたしには愛莉が事故に遭ってからの記憶しかないのだから。
愛莉にしかわからない感情。あたしには一生わからない感情。
「……加賀さん……」
「こんばんは、愛莉さん。頭痛いの大丈夫?」
加賀さんはあたしと愛莉が交代したとすぐに気がついたのだろう。目を覚ましたあたしに優しく声をかけてくれた。
だけどあたし知ってるよ。その優しさは嘘なんだよね。加賀さんが好きなのは愛莉であってあたしじゃない。だから加賀さんの優しさに甘えちゃだめなんだ。
「加賀さん、あたし、もう疲れちゃいました」
あたしは冷たい地面に仰向けになったまま、星ひとつない夜空を眺めていた。
本当にもう疲れたの。皆が愛莉にしかみせない顔をみるのも、自分の意思とは関係なく愛莉になったりあたしになったりするのも全部。
いつまでこんなのが続くんだろう。いつかどちらかの人格が消えるとしたら、どちらが消えるんだろう。やっぱり途中参加のあたしかな。
消えたくないと思うのに、あたしを求めてない人が多すぎて嫌になる。例えあたしが消えなかったとして、それをよしとして喜んでくれる人はいるのだろうか。
流と鹿児島さんは喜んでくれるよね。お兄ちゃんは……どうだろう。
「そういえば、僕の知人に麻生藍子という女性がいるのですが」
突然でてきた藍子さんの名前に、あたしはギョッとする。そうだ、藍子さんは加賀さんのことを知っていた。加賀さんだけでなく、柚留ちゃんのことまで。
あたしはようやく地面から上体を起こすと、加賀さんの次の言葉を待った。
「あの人、性格悪いでしょう」
「……二人はどういう関係なんですか?」
「僕とあの人の関係ですか? そうですね、似た者同士……旧友……色々と呼び方はありますが、どうお伝えすればいいのやら」
「思いつく限りの関係性を全部言ってください」
「おや、嫉妬でしょうか」
「藍子さんが知らないはずの情報を知っていたんです。誰からいつどうやって何処まで漏れたのか、あたしには知る権利があります」
ふむ、と加賀さんは納得する。
「何処から話したらいいものか……僕とあの人は中学校が同じでして。廊下側の一番前の席に座るあの人の背中を、隣の列の一番後ろの席からいつもみていました。あの人はとても頭が賢くて胸もあり、愛想もいいので友達も多かったんですよ」
(回想シーン)
同じクラスというだけでとくに接点のなかった僕と麻生藍子が初めて会話を交わすきっかけとなった騒動。それが、彼女のノーパン疑惑だった。
あの日ある生徒の証言から始まったその疑惑は、中学生男子には刺激の強すぎるものだったのだが、それを確認する勇気のある者は誰一人としていなかった。
ところがこれまたある日のことである。先輩男子中学生が、彼女にいきなり質問をした。
『お前、パンツ履いてないんだって?』
最初は先輩が失礼な奴だと思った彼女も、周りの視線やひそひそ声に、自分が知らないだけで噂になっているんだと気がついたようで、階段を上る時は下からみえないようにスカートを押さえながら上るようになってしまった。
僕はそれをみて思ったのだ。
『そんなに噂になるのが嫌ならパンツ履けばいいのに』
思った瞬間、彼女は顔を真っ赤にしながら僕に向かって詰め寄ってきた。
『ちょっと!』
『は? え、なに』
どうやら声にでていたらしい。彼女は僕の手を掴むと、人気のない場所へと歩いていく。
『履いてるから!』
『は?』
『パンツ、履いてるから!』
そんなに声を大にして言うことでもないだろう。弁明するなら皆にすればいいのに、どうして僕にだけするんだ。そもそも履いているならどうしてそんな噂が立つんだよ。
僕が聞けば言い淀むので、言えないならみせてみろと言ったんだ。
『……わ、わかった……』
真っ赤な顔で視線を逸らしたまま、指でスカートを摘み上げる。
彼女は確かに履いていた。だがこれは。
その清楚な見た目にはそぐわないような真っ赤なパンツ。派手な色だけならまだしも、これは俗に言う、ティーバックというものだろう。なるほど道理で履いてないと噂されるわけだ。
しかし、噂になっているのにまだ履くんだな。こいつはもしや変態なのでは?
正直引いた。
『わ、私のパンツみたんだから、ちゃんと誤解解いてよね!』
『はぁ、まぁ、いいんじゃね』
『は? なんでよ!』
『馬鹿な男子には誤解させとけばいいじゃん。そんなん履いてるの知ったら、余計騒ぐだろ』
『……あんたは騒がないの?』
『僕が? どうして?』
『だ、だってあんただって馬鹿な男子でしょ』
『僕は馬鹿だけど、スケスケの方が好きかな』
そんなの冗談に決まってるのに、彼女は次の日、本当にスケスケのパンツを履いてきた。
そして僕にみせるのだ。これ見よがしに、『どう……?』と聞きながら。
『どうって?』
『だ、だから……興奮、すんの?』
『どうして?』
『ど、どうしてって』
(背後注意)
ああこいつ、僕のことが好きなんだ。
そう思ったらなんだかスイッチが入っちゃって。僕の言うこと、何処まで聞くのかなって、試してみたくなっちゃって。
だから触らせてとも言ったし、脱いでとも言った。なにを言っても躊躇いながら僕に従う彼女。
もっと開いてみて、自分で触ってみて。
どうして濡れてるの?
此処に指を入れてみて。
もっと早く、そのまま最後までしなよ。
彼女はなんだってしてくれた。恥ずかしがりながら、みられながら。
『これ、舐めていい?』
僕は彼女の一番恥ずかしい箇所を舐めた。そこで初めて自分が立ち上がっていることに気づいたんだ。
繋がることはしなかった。やり方だってわからないし、避妊具だってなかったから。
彼女がノーパンで学校にきて、誰にもみつからないように一番恥ずかしい箇所を舐める。一番恥ずかしい箇所を舐めて立ち上がったした僕のそれは、自宅に帰ってから自分でなんとかした。
僕と彼女の関係は、いつの間にか誰にも言えない関係になっていた。
『ねぇ加賀、高校は何処に行くの?』
『お前とは違うところ』
『えっ』
『なに?』
『……同じところに行くんだと思ってた』
『どうして? いいじゃん別々で。僕はまた違うパートナー探すから、お前も自分の性癖に合うパートナーをみつけなよ』
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