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第十章
67.
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「中学時代の……そういう……」
それは旧友とは言わないんじゃ。
加賀さんの過去を聞いたあたしは、予想を遥かに超えてきた答えに言葉を失っていた。
「ふ、二人の出会いはわかったけど、藍子さんとはいまでも繋がりがあるんですか?」
「そんなのないですよ。中学校卒業以来、あの人には会っていませんから」
だとしたらおかしいのだ。どうして藍子さんは加賀さんがお兄ちゃんを作ったことを知ってるの?
もしかして藍子さんが一方的に加賀さんを知っている?
「藍子さんは知ってましたよ。加賀さんがお兄ちゃんを作ったこと。それを使ってあたしと繋がりを作ったことも。それっておかしくないですか? 加賀さん、藍子さんに盗聴器とか仕掛けられてるんじゃ」
「だとしたらなんですか?」
「え?」
「あの人がいまもまだ僕に執着しているんだとしたら、なんなんですか?」
「なにって……それって犯罪だし、怖いじゃないですか」
「怖い? どうして?」
「だって、同級生がもうなんの接点もないのに加賀さんの近くにいたら怖いじゃないですか」
「そうかな。僕はむしろ嬉しいですけど。いまもまだ僕のことが忘れられなくて、僕の近くにいようとするなんて可愛らしいじゃないですか」
「いや、でも」
「では僕が橋本を好きで橋本にしたことも、いま此処で愛莉さんとしたことも、あの人に全部筒抜けだ」
やめてください、それ。その、タメ口。
普段は敬語なのにいきなりタメ口になるの本当に毒なんです。あたしは加賀さんのそういうところが。
高鳴る心臓が加賀さんに悟られないように、あたしはまっすぐ加賀さんをみつめていた。
あたし、愛莉になってたとはいえ、加賀さんとしちゃったんだ。あたしと加賀さんの関係ってなんだろう。もうお兄ちゃんの妹ってだけじゃないよね。あたしも藍子さんと同じで、加賀さんにとってはただのそういう友達なのかな。
だけど加賀さんは愛莉が好きなんだよね。だからあたしに優しくしてくれるんだ。あたしの中にいる愛莉があたしの所為で死なないように、あたしを見張っているだけ。
「愛莉さん?」
「加賀さんは、あたしのことが好きですか?」
自分でもなにを聞いているのかわからなかった。だけど聞かずにはいられなかった。あたしはお兄ちゃんが好きだけど、加賀さんにも惹かれている。多分、初めて会ったあの日から。
「前に、お兄ちゃんが瑞穂さんと密会してるのをみた時……あの時、加賀さんはあたしを追いかけてきてくれましたよね」
「うん」
「あれ、かなり救われてたんです。加賀さんが追いかけてくれなかったらあたし、あのまま死んでたかもしれないから」
人の感情は複雑で、一度気づいてしまったらなかったことにはできなくて。
「あたしにとっての加賀さんは救世主でしたよ」
本当に救ってくれた。だからあたしも加賀さんを救いたい。お兄ちゃんは生きている。生きて、藍子さんの家にいる。
だからあたしと一緒に藍子さんに会いに行こう。お兄ちゃんを取り戻そう。
「あのね、加賀さん」
だからもう大丈夫だよ。そんな作りもののお兄ちゃんに縋らなくても。
「お兄ちゃんは、生きてるの」
あたしがそう告げた途端、加賀さんの瞳に光が宿る。
「嘘」
「本当だよ。いま、お兄ちゃんは藍子さんの家にいるの。まだ柚瑠ちゃんを探してるみたいなんだけど、柚瑠ちゃんを連れていけば、お兄ちゃんはきっと帰ってくる。だから加賀さんの方から柚瑠ちゃんに連絡して」
「柚瑠に連絡? どうして僕が?」
「あたしは柚留ちゃんに嫌われてるみたいだから、加賀さんから連絡した方が柚瑠ちゃんもきてくれるかなって思ったの」
あれ、なんかだめだったかな。でもお兄ちゃんが帰ってくれば、加賀さんだって嬉しいはず。
違うのかな。加賀さんはお兄ちゃんが好きで、お兄ちゃんがいなくなってしまった穴を埋めたくてあたしに近づいてきたんじゃないのかな。
「柚瑠は僕のペットだよ。ペットと橋本を交換しろって言いたいの?」
一瞬、瞳に宿った光が消え、一気に冷たい声色になる加賀さんを、あたしは初めて怖いと感じてしまった。
柚瑠ちゃんはペットじゃない。そう言いたいけど、それよりも先に疑問に思ったのは、柚留ちゃんとお兄ちゃんを天秤にかけた時、選ぶのはお兄ちゃんではないという点だ。
「加賀さんは、お兄ちゃんに会いたくないの?」
「会いたいか会いたくないかと問われれば勿論会いたいさ。もしそれが本物であればだけど」
「本物……なんじゃないの?」
「ああ、愛莉ちゃんはまだ知らなかったね。僕が作った橋本は量産型の橋本で……あ、量産型っていうのはつまり、沢山いるっていう意味なんだけど」
沢山いる?
お兄ちゃんが?
加賀さんの言っている意味が理解できなくて、頭の中がフリーズする。
沢山ってどのくらい?
沢山作ってどうするの?
沢山いるって、何処にいるのよ。じゃああたしがみたあの事故に遭って死んだお兄ちゃんはなんだったの?
まさか偽物?
じゃあ藍子さんのところにいるお兄ちゃんは?
それとも事故に遭ったお兄ちゃんが本物なの?
事故に遭ったお兄ちゃんは、柚留ちゃんを探してたって聞いたよ。だからあたしはあの女に、あたしが柚留ちゃんだと間違えられたんだよ?
「あいつら本当、何処にでもいますから。僕もいちいちどの個体が何処でなにをしているのかなんて把握してないんですよ」
「個体……」
いや、本当に同じ顔をした人間がそこら中にうろうろしてたら、今頃ドッペルゲンガーだと噂になっているのでは。噂になっていないのだから、加賀さんの言ってることは嘘なんじゃ。
だけどいったいなんのためにそんな嘘を吐くの?
「だから例えあの人のところに橋本がいたとしても、それが本物であればいいですけど、僕が作った橋本……偽物の橋本であるのなら、僕は世界にたった一人しかいない柚瑠を手放す気はないですよ」
沢山のお兄ちゃんよりも、たった一人の柚瑠ちゃんを選ぶこと。
それは一見、正しいように思えるけど、だったら柚留ちゃんも沢山作ればいいんじゃないのと考えてしまうあたしは性根が腐っているのだろうか。
だけど、好きだから故に沢山作ってしまうというくせに柚留ちゃんを作りたがらないのだとすれば、加賀さんにとっての柚瑠ちゃんはきっと、そこまでの対象ではないのだろう。
そこまで好きではないただのペット。本当に柚留ちゃんは加賀さんにとってのペットなんだ。
それはそれで柚留ちゃんを下にみられているようで嫌だけど、それが理由で動いてもらえないのはもっと嫌だ。
「なら、お兄ちゃんが本物かどうかみてください。お兄ちゃんを作った張本人である加賀さんならわかるでしょ」
「残念だけど僕はそんなに馬鹿じゃない。本物か偽物かの区別がつくような代物は作らないようにしているんです。だから僕はいつだってこれは本物だと思いながらそこにいる橋本を愛でるんですよ。僕の愛はそれくらいの愛なんです」
わかるよ。あたしもお兄ちゃんが好きだから、本物か偽物かの区別がつくような代物は作らないと言い切る加賀さんに安堵した。ちょっと触れただけで、話しただけで、してみただけでそれとわかるような不良品なんて作ってほしくないもの。
だから嬉しい。加賀さんのお兄ちゃんに対する愛が、拘りが、尊敬に値する。
「……あは、参ったな」
だからあたしは笑うしかなかった。このままでは本当に加賀さんを好きになってしまう。そんなことになればあたしはお兄ちゃんに、「この浮気者!」と叱られてしまうだろう。
だけどお兄ちゃん、あたしに入金してたよね。偽物ならあたしのポイポイに入金なんてできないんじゃない?
じゃああれは本物だって、本当にお兄ちゃんなんだって、あたし、期待してもいいのかな。
「加賀さん、本物のお兄ちゃんにしかわからない記憶とかないですか。本当にひとつもないですか」
「ないよ、ひとつもない」
「いま藍子さんの家にいるお兄ちゃんは、あたしのポイポイに入金してくれたんです。こんなの、本物のお兄ちゃんにしかできないんじゃないんですか?」
「そんなの偽物にだってできますよ」
「なにか、なにかありますよね。ひとつくらいあるでしょう? 決定的な違いが、なにか!」
本当にひとつもないのなら、どれが本物のお兄ちゃんなのかわからないじゃない。本当にひとつもないのなら、いつの間にか偽物に入れ替わっていたとしてもわからないじゃない。
「区別なんて、つかなくていいんですよ」
あたしは無言で首を横に振る。
「区別なんてついてしまったら、いなくなってしまった時に傷つくでしょう」
あたしは無言で首を横に振る。
「僕にとってはすべてが嘘で、すべてが本当なんです。それでいいじゃないですか」
あたしは無言で首を横に振る。
「区別がついてしまったとして、いま、愛莉さんの目の前にいる橋本が偽物だとわかったら? 偽物だから嫌いですか? 本物なら好きですか?」
あたしは無言で首を横に振る。
「橋本が本当は生きているのか、死んでいるのか。僕も愛莉さんもそんなのは知らなくていいんです。知ってしまってはいけないんです。知ればきっと僕達は、壊れてしまうから」
やめて、正論なんて掲げないで。あたしはただ、お兄ちゃんはまだ生きているんだって信じたかっただけなんだから。希望を打ち砕かないでよ。お願いだから、あたしにも夢をみさせてよ。
誰もいない道路の片隅で、あたしと加賀さんはどちらからともなく抱き合った。すぐに鼻が詰まって息が苦しくなったけど、加賀さんの腕の中はとても居心地がよかった。
それは旧友とは言わないんじゃ。
加賀さんの過去を聞いたあたしは、予想を遥かに超えてきた答えに言葉を失っていた。
「ふ、二人の出会いはわかったけど、藍子さんとはいまでも繋がりがあるんですか?」
「そんなのないですよ。中学校卒業以来、あの人には会っていませんから」
だとしたらおかしいのだ。どうして藍子さんは加賀さんがお兄ちゃんを作ったことを知ってるの?
もしかして藍子さんが一方的に加賀さんを知っている?
「藍子さんは知ってましたよ。加賀さんがお兄ちゃんを作ったこと。それを使ってあたしと繋がりを作ったことも。それっておかしくないですか? 加賀さん、藍子さんに盗聴器とか仕掛けられてるんじゃ」
「だとしたらなんですか?」
「え?」
「あの人がいまもまだ僕に執着しているんだとしたら、なんなんですか?」
「なにって……それって犯罪だし、怖いじゃないですか」
「怖い? どうして?」
「だって、同級生がもうなんの接点もないのに加賀さんの近くにいたら怖いじゃないですか」
「そうかな。僕はむしろ嬉しいですけど。いまもまだ僕のことが忘れられなくて、僕の近くにいようとするなんて可愛らしいじゃないですか」
「いや、でも」
「では僕が橋本を好きで橋本にしたことも、いま此処で愛莉さんとしたことも、あの人に全部筒抜けだ」
やめてください、それ。その、タメ口。
普段は敬語なのにいきなりタメ口になるの本当に毒なんです。あたしは加賀さんのそういうところが。
高鳴る心臓が加賀さんに悟られないように、あたしはまっすぐ加賀さんをみつめていた。
あたし、愛莉になってたとはいえ、加賀さんとしちゃったんだ。あたしと加賀さんの関係ってなんだろう。もうお兄ちゃんの妹ってだけじゃないよね。あたしも藍子さんと同じで、加賀さんにとってはただのそういう友達なのかな。
だけど加賀さんは愛莉が好きなんだよね。だからあたしに優しくしてくれるんだ。あたしの中にいる愛莉があたしの所為で死なないように、あたしを見張っているだけ。
「愛莉さん?」
「加賀さんは、あたしのことが好きですか?」
自分でもなにを聞いているのかわからなかった。だけど聞かずにはいられなかった。あたしはお兄ちゃんが好きだけど、加賀さんにも惹かれている。多分、初めて会ったあの日から。
「前に、お兄ちゃんが瑞穂さんと密会してるのをみた時……あの時、加賀さんはあたしを追いかけてきてくれましたよね」
「うん」
「あれ、かなり救われてたんです。加賀さんが追いかけてくれなかったらあたし、あのまま死んでたかもしれないから」
人の感情は複雑で、一度気づいてしまったらなかったことにはできなくて。
「あたしにとっての加賀さんは救世主でしたよ」
本当に救ってくれた。だからあたしも加賀さんを救いたい。お兄ちゃんは生きている。生きて、藍子さんの家にいる。
だからあたしと一緒に藍子さんに会いに行こう。お兄ちゃんを取り戻そう。
「あのね、加賀さん」
だからもう大丈夫だよ。そんな作りもののお兄ちゃんに縋らなくても。
「お兄ちゃんは、生きてるの」
あたしがそう告げた途端、加賀さんの瞳に光が宿る。
「嘘」
「本当だよ。いま、お兄ちゃんは藍子さんの家にいるの。まだ柚瑠ちゃんを探してるみたいなんだけど、柚瑠ちゃんを連れていけば、お兄ちゃんはきっと帰ってくる。だから加賀さんの方から柚瑠ちゃんに連絡して」
「柚瑠に連絡? どうして僕が?」
「あたしは柚留ちゃんに嫌われてるみたいだから、加賀さんから連絡した方が柚瑠ちゃんもきてくれるかなって思ったの」
あれ、なんかだめだったかな。でもお兄ちゃんが帰ってくれば、加賀さんだって嬉しいはず。
違うのかな。加賀さんはお兄ちゃんが好きで、お兄ちゃんがいなくなってしまった穴を埋めたくてあたしに近づいてきたんじゃないのかな。
「柚瑠は僕のペットだよ。ペットと橋本を交換しろって言いたいの?」
一瞬、瞳に宿った光が消え、一気に冷たい声色になる加賀さんを、あたしは初めて怖いと感じてしまった。
柚瑠ちゃんはペットじゃない。そう言いたいけど、それよりも先に疑問に思ったのは、柚留ちゃんとお兄ちゃんを天秤にかけた時、選ぶのはお兄ちゃんではないという点だ。
「加賀さんは、お兄ちゃんに会いたくないの?」
「会いたいか会いたくないかと問われれば勿論会いたいさ。もしそれが本物であればだけど」
「本物……なんじゃないの?」
「ああ、愛莉ちゃんはまだ知らなかったね。僕が作った橋本は量産型の橋本で……あ、量産型っていうのはつまり、沢山いるっていう意味なんだけど」
沢山いる?
お兄ちゃんが?
加賀さんの言っている意味が理解できなくて、頭の中がフリーズする。
沢山ってどのくらい?
沢山作ってどうするの?
沢山いるって、何処にいるのよ。じゃああたしがみたあの事故に遭って死んだお兄ちゃんはなんだったの?
まさか偽物?
じゃあ藍子さんのところにいるお兄ちゃんは?
それとも事故に遭ったお兄ちゃんが本物なの?
事故に遭ったお兄ちゃんは、柚留ちゃんを探してたって聞いたよ。だからあたしはあの女に、あたしが柚留ちゃんだと間違えられたんだよ?
「あいつら本当、何処にでもいますから。僕もいちいちどの個体が何処でなにをしているのかなんて把握してないんですよ」
「個体……」
いや、本当に同じ顔をした人間がそこら中にうろうろしてたら、今頃ドッペルゲンガーだと噂になっているのでは。噂になっていないのだから、加賀さんの言ってることは嘘なんじゃ。
だけどいったいなんのためにそんな嘘を吐くの?
「だから例えあの人のところに橋本がいたとしても、それが本物であればいいですけど、僕が作った橋本……偽物の橋本であるのなら、僕は世界にたった一人しかいない柚瑠を手放す気はないですよ」
沢山のお兄ちゃんよりも、たった一人の柚瑠ちゃんを選ぶこと。
それは一見、正しいように思えるけど、だったら柚留ちゃんも沢山作ればいいんじゃないのと考えてしまうあたしは性根が腐っているのだろうか。
だけど、好きだから故に沢山作ってしまうというくせに柚留ちゃんを作りたがらないのだとすれば、加賀さんにとっての柚瑠ちゃんはきっと、そこまでの対象ではないのだろう。
そこまで好きではないただのペット。本当に柚留ちゃんは加賀さんにとってのペットなんだ。
それはそれで柚留ちゃんを下にみられているようで嫌だけど、それが理由で動いてもらえないのはもっと嫌だ。
「なら、お兄ちゃんが本物かどうかみてください。お兄ちゃんを作った張本人である加賀さんならわかるでしょ」
「残念だけど僕はそんなに馬鹿じゃない。本物か偽物かの区別がつくような代物は作らないようにしているんです。だから僕はいつだってこれは本物だと思いながらそこにいる橋本を愛でるんですよ。僕の愛はそれくらいの愛なんです」
わかるよ。あたしもお兄ちゃんが好きだから、本物か偽物かの区別がつくような代物は作らないと言い切る加賀さんに安堵した。ちょっと触れただけで、話しただけで、してみただけでそれとわかるような不良品なんて作ってほしくないもの。
だから嬉しい。加賀さんのお兄ちゃんに対する愛が、拘りが、尊敬に値する。
「……あは、参ったな」
だからあたしは笑うしかなかった。このままでは本当に加賀さんを好きになってしまう。そんなことになればあたしはお兄ちゃんに、「この浮気者!」と叱られてしまうだろう。
だけどお兄ちゃん、あたしに入金してたよね。偽物ならあたしのポイポイに入金なんてできないんじゃない?
じゃああれは本物だって、本当にお兄ちゃんなんだって、あたし、期待してもいいのかな。
「加賀さん、本物のお兄ちゃんにしかわからない記憶とかないですか。本当にひとつもないですか」
「ないよ、ひとつもない」
「いま藍子さんの家にいるお兄ちゃんは、あたしのポイポイに入金してくれたんです。こんなの、本物のお兄ちゃんにしかできないんじゃないんですか?」
「そんなの偽物にだってできますよ」
「なにか、なにかありますよね。ひとつくらいあるでしょう? 決定的な違いが、なにか!」
本当にひとつもないのなら、どれが本物のお兄ちゃんなのかわからないじゃない。本当にひとつもないのなら、いつの間にか偽物に入れ替わっていたとしてもわからないじゃない。
「区別なんて、つかなくていいんですよ」
あたしは無言で首を横に振る。
「区別なんてついてしまったら、いなくなってしまった時に傷つくでしょう」
あたしは無言で首を横に振る。
「僕にとってはすべてが嘘で、すべてが本当なんです。それでいいじゃないですか」
あたしは無言で首を横に振る。
「区別がついてしまったとして、いま、愛莉さんの目の前にいる橋本が偽物だとわかったら? 偽物だから嫌いですか? 本物なら好きですか?」
あたしは無言で首を横に振る。
「橋本が本当は生きているのか、死んでいるのか。僕も愛莉さんもそんなのは知らなくていいんです。知ってしまってはいけないんです。知ればきっと僕達は、壊れてしまうから」
やめて、正論なんて掲げないで。あたしはただ、お兄ちゃんはまだ生きているんだって信じたかっただけなんだから。希望を打ち砕かないでよ。お願いだから、あたしにも夢をみさせてよ。
誰もいない道路の片隅で、あたしと加賀さんはどちらからともなく抱き合った。すぐに鼻が詰まって息が苦しくなったけど、加賀さんの腕の中はとても居心地がよかった。
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