橋本愛莉というおんな

まなづるるい

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第十二章

77.

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「あたしが……淋しいって言ってんじゃん……っ」

 ああもうどうして。こんなはずじゃなかったのに。
 言うつもりなんてなかった。好きになるつもりじゃなかった。誰がこんな変態を好きになるかって、ずっとずっと思ってた。
 いつから?
 知らない。
 どうして?
 知らない。
 人を好きになる瞬間なんてそんなもんでしょう。

「あ、愛莉……さん……僕、勘違いしますよ?」

 加賀との距離が近くなる。対面していたはずの距離が、いつの間にか隣になって、加賀の手があたしの頬に。

「愛莉さん……僕のこと、好き?」

 そんな改まって聞かれるとこっちまでドキドキが伝染ってくる。
 ああ、嫌だなぁ。あたしの身体、愛莉に盗られたくないなぁ。

「す……き……加賀、好き……」

 唇が触れる。ただそれだけで頭の中が、全身が、甘く痺れてどうにかなりそうで。この瞬間が永遠に続けばいいのにって、初めて心の底から思っていた。

「やば……嬉しすぎて、ガチガチだ」
「きしょ」
「本当だって。触ってみて」

 本当だ。好きって言っただけなのに、こんな硬くなっちゃって。

「これ、どうすんの?」
「どう……しよっか」




(背後注意)

 布団の上だといくら動いてもギシギシ軋む音がしないんだなって思ったり、あたしも加賀で濡れるんだなって思ったり。そんなことばかり考えていたら加賀が、「愛莉とシテる時は感じたりするのか」とか聞いてきたから、「馬鹿じゃねぇの」って言ってやった。
 流石にそういうのはわかんないよ。わかんないけど、まるで動画をみている気分だった。自分がされてる感覚はないけど、音声だけは聞こえてくるから。
 そりゃ、時には変な気分になったりもしたけど、だからって別に自分で触ったりはしなかった。

「愛莉さん、凄いぬるぬる」
「あっ」
「そんな声だされたら僕、もう」

 何度も啄むようなキスをして、舌を吸われたかと思えば音を立てて、また吸われて。テクニシャンすぎるだろう。
 触ってほしくて自分から足を絡めて擦りつけてわかってるくせに、「どうしたの?」なんて白々しい。
 ようやく舐めてもらってやばくなると、「きもちいいの?」って、確信犯。

「きもちよかったね」
「全然」
「だよね。きもちよすぎて何度も恥ずかしいこと言ってたもんね」
「言ってない」
「途中で僕のこと、千里って呼ばなかった?」
「呼んでない。都合のいい解釈すんな」
「なんだ、千里って呼んでくれていいのに」
「やだよ。あいつと同じ名前なんて」
「あいつ?」
「鹿児島千里。あたしあいつ大嫌い」
「え、いま僕のこと、千里って」
「呼んでない」
「呼んでよ」
「嫌」
「そうやってこれから先も、鹿児島さんと同じ名前だからって理由で僕の名前を呼んでくれないの?」
「そう」
「そっか……僕に千里と名付けた親を一生恨みたくなるよ」

 乱れた服を整えて定位置に座っていると、そういえばと思いだす。

「そういえば、ご両親は?」
「ああ、それならしばらく帰ってこないから大丈夫」
「なんで? 仕事?」
「さっき愛莉さんがうちにいるからまだ帰ってこないでって連絡しといたんだ」

 いつの間に。それってつまり、あたしが此処にいる限り帰ってこれないのでは?

「あ、あたしそろそろ帰るよ」
「え、どうして? 愛莉さん、僕としたくてわざわざ会いにきたの?」
「違うっての! あたしがいたんじゃご両親帰ってこないんでしょ?」
「別に一日くらい帰ってこなくたって平気だよ大人なんだし」
「いやだからそうじゃなくて」
「じゃあ愛莉さんはなにしにきたの?」

 加賀に言われて言葉に詰まる。本当にそうだ。あたしはなにしに此処まできたんだろう。
 そうだ、愛莉が加賀と話したがってたんだ。金と時間をかけてこんなところまできたんだから、あたしはあたしのすべきことをやらなくちゃ。

「……愛莉が……加賀と話したいって……」
「……話すって、なにを?」

 さっきまでの空気とは一変、加賀の声色が冷たくなる。

「愛莉がプロポーズを断ってしまったことを凄く後悔してるんだ」
「それで? 僕のきもちはもう伝えたよね。僕はあの子のきもちには答えられない。これ以上、なにを話したいの?」

 不思議な感覚だった。さっきまであんなにあたしを好きだと言っていた加賀が、まるで別人のようにあたしを拒絶しているのだから。
 あたしに言ってるわけじゃないのに。もっと言えば、あたしの向こう側にいる愛莉に言ってるだけなのに、なんだかあたしに言われてるみたいで死にたくなってくる。
 あたしの心情を察したのか、加賀があたしの頭をぽんと撫でた。

「そんな顔しないで。僕は話すことないけど、あの子が話したいなら話すよ」

 僕達また会えるよね。
 そう言ってあたしをそっと抱き締める加賀は、優しいようで残酷だ。
 なんだ、あたし自分でコントロールできるじゃん。
 あたしは自分の意識を手放すと、真っ暗な闇の中で膝を抱えて蹲っていた。
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