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第十二章
78.
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なんと言えばいいのだろう。第一声を躊躇する。
加賀さんの声は聞こえていた。だからこそなかなか言葉がでてこない。
目を開けるのが怖かった。加賀さんはきっともう、あたしと愛莉が入れ替わったことに気づいている。
加賀さんの腕の中でじっとすること数十秒。ようやくあたしは目を開けた。
「……加賀、さん……」
返事はない。あたしは加賀さんの腕の中で言葉を紡ぐ。
「ずっと……後悔してたんです……加賀さんにあの時のことを謝りたくて、あの日をやり直したくて……だけど、加賀さんは最初からそんなの望んでなかったんですよね。加賀さんへの好きという感情が、お兄ちゃんに向かう感情とは違うって気づいていたから」
この時間はなんだったんだろう。加賀さんを傷つけたであろうことへの後悔でぐちゃぐちゃになって、苦しかったこの時間は全部無意味だったんだ。
そうだよね。加賀さんは愛莉が好きで、愛莉も加賀さんが好きで、あたしは途中から二人の間に割り込んできただけの負けヒロイン。二人が結ばれるために用意された刺激物。
馬鹿だあたし。最初からわかっていたはずなのに、あたしが勝手に依存して、勝手に好きになった。消えるべきなのはあたしの方。それなのに。
「……だけど……あたしだって、消えたくない……っ」
どっちが消える?
どっちも消える?
消えてまた新しいなにかになる?
実はもう、わかるんだよね。消えるのはあたしなんだって。だって頭が痛くなるのはあたしだけ。あたしの意思では愛莉に代われない。
新しいなにかが最初からいたなにかの身体を乗っ取るなんてできないの。それが道理であって当たり前であって普通なの。
それでもいままで当たり前にあった意識が消えるって怖いよ。あたしがあたしじゃなくなったら、あたしの意識はいったい何処に行くの?
それって死ぬのとなにが違うの?
「……愛莉さん」
加賀さんの声がする。声だけでは感情が測れないくらいの絶妙なトーン。
「愛莉さん、顔を上げて」
あたしの瞳に加賀さんが映る。瞬間、やっぱり好きだと思う。
「きみはなにか勘違いしてるみたいだから言っておくよ」
「……勘違い?」
「あのね、きみの身体は愛莉さんのものなんだ。きみの中には愛莉さんがいる。僕はきみじゃなくて愛莉さんが好きなんだ。きみの居場所は此処じゃない。消えたくないんじゃなくて、きみは消えるべき存在なんだ。きみの中に愛莉さんがいる。だから僕はきみに優しくする。きみが好きだから優しくするわけじゃない」
ああ痛い。痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたたたたたたイイタイイタイイタタタタタたたたた。
頭をハンマーで叩かれたような痛みが胸の辺りを締めつける。こんな言葉が聞きたかったんじゃないのに。こんな言葉を聞くために此処まできたんじゃないのに。こんなこんな人のことを好きにきにきになってしまままうなんて。
「聞いてる? 聞いてない?」
「……あッ、ああああああああああアあああっ!」
崩壊崩壊崩壊エラーエラーエラー。
もうむり!
もうううむり!!
これ以上はむりいいいいいっ!!!!
あたしは発狂しながら加賀さんの家を飛びだすと、無我夢中で走っていた。
心がバギバキと壊れる音がした。冷静でなんていられなかった。
だってそうでしょう。好きな人にあんなふうに言われたら誰だって傷つくよ。だってそうでしょう。あんなの、お前は死ねって言われてるようなものじゃん。だってそうでしょう。そうでしょう。そうでしょうが!!!!!!
桜舞う四月。北海道某所で車がなにかを撥ねる音がした。
加賀さんの声は聞こえていた。だからこそなかなか言葉がでてこない。
目を開けるのが怖かった。加賀さんはきっともう、あたしと愛莉が入れ替わったことに気づいている。
加賀さんの腕の中でじっとすること数十秒。ようやくあたしは目を開けた。
「……加賀、さん……」
返事はない。あたしは加賀さんの腕の中で言葉を紡ぐ。
「ずっと……後悔してたんです……加賀さんにあの時のことを謝りたくて、あの日をやり直したくて……だけど、加賀さんは最初からそんなの望んでなかったんですよね。加賀さんへの好きという感情が、お兄ちゃんに向かう感情とは違うって気づいていたから」
この時間はなんだったんだろう。加賀さんを傷つけたであろうことへの後悔でぐちゃぐちゃになって、苦しかったこの時間は全部無意味だったんだ。
そうだよね。加賀さんは愛莉が好きで、愛莉も加賀さんが好きで、あたしは途中から二人の間に割り込んできただけの負けヒロイン。二人が結ばれるために用意された刺激物。
馬鹿だあたし。最初からわかっていたはずなのに、あたしが勝手に依存して、勝手に好きになった。消えるべきなのはあたしの方。それなのに。
「……だけど……あたしだって、消えたくない……っ」
どっちが消える?
どっちも消える?
消えてまた新しいなにかになる?
実はもう、わかるんだよね。消えるのはあたしなんだって。だって頭が痛くなるのはあたしだけ。あたしの意思では愛莉に代われない。
新しいなにかが最初からいたなにかの身体を乗っ取るなんてできないの。それが道理であって当たり前であって普通なの。
それでもいままで当たり前にあった意識が消えるって怖いよ。あたしがあたしじゃなくなったら、あたしの意識はいったい何処に行くの?
それって死ぬのとなにが違うの?
「……愛莉さん」
加賀さんの声がする。声だけでは感情が測れないくらいの絶妙なトーン。
「愛莉さん、顔を上げて」
あたしの瞳に加賀さんが映る。瞬間、やっぱり好きだと思う。
「きみはなにか勘違いしてるみたいだから言っておくよ」
「……勘違い?」
「あのね、きみの身体は愛莉さんのものなんだ。きみの中には愛莉さんがいる。僕はきみじゃなくて愛莉さんが好きなんだ。きみの居場所は此処じゃない。消えたくないんじゃなくて、きみは消えるべき存在なんだ。きみの中に愛莉さんがいる。だから僕はきみに優しくする。きみが好きだから優しくするわけじゃない」
ああ痛い。痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたたたたたたイイタイイタイイタタタタタたたたた。
頭をハンマーで叩かれたような痛みが胸の辺りを締めつける。こんな言葉が聞きたかったんじゃないのに。こんな言葉を聞くために此処まできたんじゃないのに。こんなこんな人のことを好きにきにきになってしまままうなんて。
「聞いてる? 聞いてない?」
「……あッ、ああああああああああアあああっ!」
崩壊崩壊崩壊エラーエラーエラー。
もうむり!
もうううむり!!
これ以上はむりいいいいいっ!!!!
あたしは発狂しながら加賀さんの家を飛びだすと、無我夢中で走っていた。
心がバギバキと壊れる音がした。冷静でなんていられなかった。
だってそうでしょう。好きな人にあんなふうに言われたら誰だって傷つくよ。だってそうでしょう。あんなの、お前は死ねって言われてるようなものじゃん。だってそうでしょう。そうでしょう。そうでしょうが!!!!!!
桜舞う四月。北海道某所で車がなにかを撥ねる音がした。
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