冷然主人は男装騎士に一途

三島 至

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俺の騎士になれ

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 相変わらず、身代金目的で誘拐されかけたり、強盗に襲われたりと、物騒な日々だ。
 前々から感じてはいたが、一人で出歩くのも、もう限界な気がする。
 そこで俺は、護衛を雇う事にした。

 決断するのが遅すぎるくらいだが、元々富裕層でも何でもない、家業を継いだだけの一般市民だった俺にとって、自分を護衛してもらうなど、中々踏み出せる事ではなかったのだ。
 友達はいないけどお金はある。
 そうと決まれば、俺はまた襲われる前に、街にいくつかある小さな仲介屋へと足を運んだ。

 ※

 仕事を依頼する時は、仕事や雇い人を紹介してくれる、仲介屋を通すのが基本だ。
 護衛を雇うのもそうだし、どこに頼んだらよいか分からない頼み事も、仲介屋で調べてもらえる。
 俺も自分の仕事の関係で、何度か世話になっているので、自宅近所の仲介人とは顔見知りだ。
 “仲介人”とは、仲介屋に勤める人の事である。

「仲介人、雇い人を探しているのだが」

 用件を言いつつ、ドアベルを鳴らしながら店内に入ると、いつもの仲介人が誰かと喋っていた。俺を除けば、店内には、その誰かと仲介人の二人しか居ない。

「へえ、少々お待ち下さい」

 仲介人が、一度俺の方へ顔を出し、また引っ込んだ。
 どうやら先客の対応をしているようなので、俺は大人しく、受付の順番待ちの椅子に腰掛けて待つことにした。
 狭い店なので、会話がはっきりと聞こえてくる。

「確かに実戦経験はありませんが、剣は扱えます」
「ですがねえ、今は戦争もないですし、小競り合いなんかも無くて落ち着いていますから、すぐに派遣できる所が……」
「何でも良いのです。危険な場所でも構いませんから」
「いや、いたって平和な世の中でして」
「では何のために騎士が存在するのですか」
「うーん、傭兵はともかく、騎士様なんて王様や貴族の近くで固まっていますからねえ、この辺じゃわざわざ騎士様が出向く程の仕事は紹介出来ませんよ」
「そんな……」

 先客は仕事を探しているらしかった。しかも話を聞く限り、彼は騎士のようだ。
 騎士は、国に認められた資格であり、名誉ある職である。大きな戦争になれば剣を取るが、平時は王都の警備や、貴人の警護に就く。
 だが近年では、金さえ積めば、個人でも騎士を雇う事が出来る。一般的な護衛を雇うよりも嵩むが、ステータスとして、騎士を側に置きたがる者も多い。
 例えば、俺のような一般人でも、金さえあれば専属騎士を持てるのだ。

 ……待てよ、これはもしかして、ちょうど良い所に来たのでは?

「仲介人、割り込んですまないが、話を挟んでもいいか」

 俺が思わず声を掛けると、仲介人は騎士の顔色を窺う素振りを見せた。
 騎士が無言で頷いたので、仲介人は「へえ……どうぞ」と了承の意を示す。

「そこの彼が求めている仕事は、個人の護衛でも構わないのだろうか」
「私の事でしょうか」

 騎士が振り向いた。

「…………ああ。君の事だ」
「でしたら、その通りです。すぐに仕事をしたいので、特に拘りはありません」
「だ、だったら」

 変に唾を飲み込んでしまって、会話に妙な間が空く。
 俺は驚いていた。
 騎士のその顔だ。
 黒い髪に縁取られたそれは、正直、運命を感じるレベルで……
 ……ものすごく好みであった。

 だが彼は男である。

 後ろ姿を見た時から分かってはいたが、顎に掛からない長さの短髪は、女性ではまずしない。
 ただ、前髪だけは少し長めだから、余計、女性的と言うか……中性的に見えてしまう。

 俺は反射的に、いつかの父のように跪きそうになったが、膝に力を込めて耐えた。
 笑顔で話しかけたい、優しくしたい、思い切り甘やかしてあげたい……と思った所で、必死に自分の心を否定する。
 違う!!
 彼は男だ、俺の運命の人ではない!

「だったら?」

 少し期待を含んだ騎士の声が、媚薬のように、耳に染み込んできて、俺の理性を殺しにかかる。

 微笑んではいけない、優しくしちゃ駄目だ、冷たく、いつもみたいに、偉ぶって、普段の俺でいないと……!!

「……お前の事は、俺が雇ってやろう。俺の騎士になれ」

 混乱した俺は最大限偉そうに、気持ちだけは掴みかかる勢いで、麗しの騎士を所望していた。

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