冷然主人は男装騎士に一途

三島 至

文字の大きさ
3 / 14

色めく主人

しおりを挟む
 無事、というか俺の第一印象は多分無事では無いが、予定よりもグレードアップした護衛を雇う事に成功した。

 俺の好み過ぎるこの騎士、なんと住むところが無い(正確にはこの街に来たばかりでこれから探すところだ)と言うので、即座に「俺の屋敷に来い。住み込みで働け」と命令してしまった。

 つまりこの後合法で家に連れ帰ったのだが、あまり側に寄られるとドキドキしておかしくなりそうだったので、「主人の隣を歩くな」「今この時から俺がお前の雇い主だ。立場を弁えろ」とかなんとか言ってやや後ろを着いてきてもらった……ような気がする。多分そうだったと思う。
 緊張していて記憶が曖昧だが、彼は素直に従っていた。

 騎士と認められるためには、ある程度しっかりとした身分に裏付けられた、高潔さや礼儀正しさと、何より優れた戦闘能力が必要とされる。
 だからこの美形の騎士も、相当強いのだろう。
 真っ直ぐ伸びた背筋も、剣を携えて歩く姿も、騎士然として様になっていた。

 ……めちゃめちゃ格好良くないか?

 最低限、暴漢から守ってくれる護衛なら誰でも良かったのだが、タイミングに恵まれて最高級の護衛を手に入れてしまった。
 やはり俺は運が良いのかもしれない。

 どぎまぎしながら背後に全神経を集中させ、途中で居なくならないよな……と騎士の足音を耳で拾いつつ帰路に就いた。
 そして道中、俺は早速襲われた。

 慣れたくも無いが、見も知らぬごつい男どもに囲まれるという、代わり映えしない状況で、刃物を向けられ脅される。
 いつもなら凄く頑張って逃げるのだが、今日は黒髪の騎士が颯爽と動いた。

 戦いの事はさっぱり分からないので、どういう動きをしたのか良く理解出来なかったが、騎士は俺の後ろから駆け出すと、瞬く間に男たちを地面に転がしていった。
 相手からの攻撃の手も止まなかったはずだが、それをいなしつつ一人ずつ確実に倒す様は実に爽快で、剣舞のように鮮やかだった。

 一対多数だったというのに、これが素人と、国に認められた騎士の差かと、感嘆の溜息が漏れる。

「終わりました。この者たちはどの様になさいますか」

 本当に一瞬と思うくらいすぐに片が付き、さして髪も乱れていない騎士が俺に伺いを立ててきた。

「え、ああ、通行の邪魔だから、適当に端に転がしておくか……」
「かしこまりました」

 騎士の手によって、男達が道の端に寄せられていく。
 それを見ながら、俺はある事に気がついた。
 誰も血を流していないのである。
 騎士も、一滴の返り血も浴びず、倒れた男たちも、打撲のあとはあれど、切り傷は見当たらない。
 剣を抜いたと思っていたが、鞘に収めたまま戦っていたのか。

「……お前、腕は確かなようだな」
「ありがとうございます」

 一仕事終えた騎士を、今の俺なりに労ってみたが、言葉は上滑りする。
 それどころではなかった。
 さっきから、ばくばくと煩い鼓動と、表情筋を抑えるのに必死なのだ。

 見た目が好みで、礼儀正しくて、大の男数人を一人で相手にしても、剣を抜かずに勝ててしまうくらい、強い。
 ……格好良過ぎる。

 動揺して、動き出せずにいる俺を、見上げてくるこの顔がいけない。
 ただでさえ好きな顔なのに、俺より背が低くて、撫でたくなる位置に頭がある。

 駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、考えたら終わりだ。
 かわ……かわい……い、駄目だ考えるな! 無心になれ!
 彼は、彼は男で――――

「……お加減でも悪いのですか?」

 出会ったばかりの俺を、騎士が心配そうに見詰めてくる。
 ――あ、待て待て今その顔を向けられたら……

 頭の中で、ぷつんと音がした。
 駄目だった。
 こんなの……こんなの……、好きになるに決まっている!


 そうして、彼の事がどうしても可愛く見えてしまう俺は、これから苦悩の日々を送る事となりそうであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

最弱白竜ですが、なぜか学園最強の銀竜に番認定されました

斉藤めめめ
恋愛
竜の血を引く者だけが貴族になれるこの世界で、白竜は最も格の低い竜の証。 白竜の男爵令嬢リーゼロッテは、特待生として国内最高峰の王立竜騎学園に入学する。待っていたのは上位貴族からの蔑みと、学園を支配する四人の御曹司「四竜」。 その筆頭、銀竜公爵家の嫡男ルシアンに初日から啖呵を切ったリーゼは、いじめと嫉妬の嵐に巻き込まれていく。 それでも彼女は媚びない、逃げない、折れない。 やがてルシアンはリーゼから目が離せなくなり―― 白竜の少女が、学園と王国の運命を変える。 身分差×竜×学園ラブファンタジー、開幕。

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました

星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎ 王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝―― 路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。 熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。 「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」 甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。 よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、 気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて―― しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!? 「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」 年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。 ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

処理中です...