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遅めの初恋を拗らせる
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俺の専属騎士に名前を尋ねたのは、随分後になってからだった。
思えば、雇うと言ってそのまま連れて来てしまい、自己紹介もまだだったのだ。
彼はリオートと名乗った。
当たり前だが、この国では珍しくない男性名だったため、俺は正直落胆を隠せなかった。
綺麗な顔をしているし、彼はもしかしたら女性なのでは……などと期待していたが、限りなく小さな希望も、ここで砕け散る。
傷心の俺は、苦し紛れに「凡庸でつまらない名前だな」とわざわざ嫌な言い方をしてしまった。
それには、リオートはただ目を伏せるだけだった。
違うんだ、本当は、良い名前だな、と褒めるつもりだったのに、この、素直じゃない口が勝手に喋るのだ。
だが、どちらにせよ本当の気持ちは伝えられないし、憎まれ口でも叩いて、軽蔑されていた方がマシかもしれない……。いや、やっぱり嫌われるのは嫌だな。
リオートは以前から俺の名前を知っていたらしい。
俺が名乗ると、「存じております。ウォルク様は有名人ですから」と予想外の事を言われた。
俺は固めた表情の奥で、実はかなり焦っていた。
一体俺のどんな話を知っているのだろうか。
怖くて聞けやしない。
俺はそれなりに広い屋敷に住んでいるため、手の回らない家事なんかは、雇い人に任せている。
他に住み込みの雇い人は居ない。今回雇ったリオートが初めてだ。
部屋は持て余しているし、好きに選べ、と言いたい所だったが、護衛を離しておくのは不自然ではないか? と思ったので、結局俺の寝室の隣を宛がう事にした。
俺は自分で自分の首を絞めてしまったかもしれない。
意識しまくっている相手が、いつも隣の部屋で寝ているのだ。
いやしかし、リオートは男である。
何も起こるはずが無い……俺が血迷って何かしようものなら、騎士であるリオートに返り討ちに遭うだけだ。
良かった、これで安心だ。
屋敷の案内と、リオートの部屋決め、俺の仕事内容についてざっくりと説明し終えると、会話は止まってしまった。
リオートは極端に無口なようだった。
彼が自分から口を開く事は稀だ。
そういう性格なのか、それとも、まだ俺のように緊張しているのか。
俺はといえば、遠い昔の思春期が戻ってきたみたいに、リオートの事ばかり考えていた。
家訓に従っていた時は、女性に優しくするのが当たり前だったが、男相手に優しくしたいと思ったのは初めてである。
案内をしている時も、リオートが一瞬俯いた隙に、何度頭を撫でそうになったか分からない。
それどころか、俺の嗜好を槍で突いてくる彼の顔を見ると、赤面からは逃れられないので、正面からはまともに見る事も出来なかった。
絶対に目を合わせられなかったし、まるで俺が“あれ”する乙女のようだ。
この期に及んで、まだ言葉にするのは怖いのでぼかすが、これはあれだ、遅めの、初めての“あれ”だ。
だが自覚した所で、俺の口から漏れるのは、「さっさと歩け」「黙っているだけでは分からん」とかいう、しょうもない文句ばかりである。子供か?
俺の護衛騎士は、女性に好まれそうな、整った顔立ちをしている。
およそ男とは思えない、白くすべらかな肌で、戦った後ほんのり上気する頬が、職人が丹精込めて作った美しい人形に、命を込めた瞬間のようで、ぞくりとする。
女性どころか、この俺も骨抜き……いやまあ、男女問わず、惹き付ける魅力があるのは確かだ。
こっそり盗み見た彼の背中は、男にしては華奢に見える。
薄着では無いから、肌を隠す布を全て取り払ったら、もっと細い体が顕わになるのでは――――
待て待て俺は今何を考えた?
思考が危ない方向に逸れそうになったので戻す。
彼はこの細腕で、自分よりも屈強な男達を伸していったのだと思うと、一体これまで、どれだけの鍛錬を積んできたのだろうと、尊敬の念が込み上げてくる。
細腕といえば、彼の手は素手だった。俺の印象だと、騎士といえば白手袋だと思う。
彼の白魚のような手に、俺の騎士だという証を嵌めてもらえたら、どんなに素晴らしいだろう。
俺を守るために存在する、俺だけの騎士。
なんて甘美な響きだ。
よし決まりだ、リオートには白手袋を贈ろう。獣の皮を使った、ちょっと良い品を買ってやるのだ。
思えば、雇うと言ってそのまま連れて来てしまい、自己紹介もまだだったのだ。
彼はリオートと名乗った。
当たり前だが、この国では珍しくない男性名だったため、俺は正直落胆を隠せなかった。
綺麗な顔をしているし、彼はもしかしたら女性なのでは……などと期待していたが、限りなく小さな希望も、ここで砕け散る。
傷心の俺は、苦し紛れに「凡庸でつまらない名前だな」とわざわざ嫌な言い方をしてしまった。
それには、リオートはただ目を伏せるだけだった。
違うんだ、本当は、良い名前だな、と褒めるつもりだったのに、この、素直じゃない口が勝手に喋るのだ。
だが、どちらにせよ本当の気持ちは伝えられないし、憎まれ口でも叩いて、軽蔑されていた方がマシかもしれない……。いや、やっぱり嫌われるのは嫌だな。
リオートは以前から俺の名前を知っていたらしい。
俺が名乗ると、「存じております。ウォルク様は有名人ですから」と予想外の事を言われた。
俺は固めた表情の奥で、実はかなり焦っていた。
一体俺のどんな話を知っているのだろうか。
怖くて聞けやしない。
俺はそれなりに広い屋敷に住んでいるため、手の回らない家事なんかは、雇い人に任せている。
他に住み込みの雇い人は居ない。今回雇ったリオートが初めてだ。
部屋は持て余しているし、好きに選べ、と言いたい所だったが、護衛を離しておくのは不自然ではないか? と思ったので、結局俺の寝室の隣を宛がう事にした。
俺は自分で自分の首を絞めてしまったかもしれない。
意識しまくっている相手が、いつも隣の部屋で寝ているのだ。
いやしかし、リオートは男である。
何も起こるはずが無い……俺が血迷って何かしようものなら、騎士であるリオートに返り討ちに遭うだけだ。
良かった、これで安心だ。
屋敷の案内と、リオートの部屋決め、俺の仕事内容についてざっくりと説明し終えると、会話は止まってしまった。
リオートは極端に無口なようだった。
彼が自分から口を開く事は稀だ。
そういう性格なのか、それとも、まだ俺のように緊張しているのか。
俺はといえば、遠い昔の思春期が戻ってきたみたいに、リオートの事ばかり考えていた。
家訓に従っていた時は、女性に優しくするのが当たり前だったが、男相手に優しくしたいと思ったのは初めてである。
案内をしている時も、リオートが一瞬俯いた隙に、何度頭を撫でそうになったか分からない。
それどころか、俺の嗜好を槍で突いてくる彼の顔を見ると、赤面からは逃れられないので、正面からはまともに見る事も出来なかった。
絶対に目を合わせられなかったし、まるで俺が“あれ”する乙女のようだ。
この期に及んで、まだ言葉にするのは怖いのでぼかすが、これはあれだ、遅めの、初めての“あれ”だ。
だが自覚した所で、俺の口から漏れるのは、「さっさと歩け」「黙っているだけでは分からん」とかいう、しょうもない文句ばかりである。子供か?
俺の護衛騎士は、女性に好まれそうな、整った顔立ちをしている。
およそ男とは思えない、白くすべらかな肌で、戦った後ほんのり上気する頬が、職人が丹精込めて作った美しい人形に、命を込めた瞬間のようで、ぞくりとする。
女性どころか、この俺も骨抜き……いやまあ、男女問わず、惹き付ける魅力があるのは確かだ。
こっそり盗み見た彼の背中は、男にしては華奢に見える。
薄着では無いから、肌を隠す布を全て取り払ったら、もっと細い体が顕わになるのでは――――
待て待て俺は今何を考えた?
思考が危ない方向に逸れそうになったので戻す。
彼はこの細腕で、自分よりも屈強な男達を伸していったのだと思うと、一体これまで、どれだけの鍛錬を積んできたのだろうと、尊敬の念が込み上げてくる。
細腕といえば、彼の手は素手だった。俺の印象だと、騎士といえば白手袋だと思う。
彼の白魚のような手に、俺の騎士だという証を嵌めてもらえたら、どんなに素晴らしいだろう。
俺を守るために存在する、俺だけの騎士。
なんて甘美な響きだ。
よし決まりだ、リオートには白手袋を贈ろう。獣の皮を使った、ちょっと良い品を買ってやるのだ。
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