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惹かれる
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母の記憶は無いが、実の父にさえ、抱きしめてもらった事は無かった。
人生が変わるようだった。
男であれば……男だと偽ったままなら、女の身では得られなかった温もりに、触れる事が出来るのだ。
だけど、同時に自覚もする。
髪を切っても、男物の服を着ても、……剣を取っても。
私の心は、まだこんなに、女なのだ。
ウォルク様は何も変わっていない。
女嫌いだと言われるようになる前と、本質は何も。
彼の言う通り、一つ戦う毎に震えているようでは、確かに使い物にならないだろう。
私は騎士に向いていないのかもしれない。
でも、言葉通りに受け取るには、その声は優しすぎた。
全く逆の事を言われているような気さえした。
ここで女々しく縋ったり、泣いたりはしない。
ウォルク様を、この先もお側でお守りするために……きちんと、自分の足で立つのだ。
私は名残惜しさを振り払い、腕でウォルク様の体を押して、人が一人通れるくらいの距離を取る。
ウォルク様からは抵抗を感じず、すんなりと離れる事が出来た。
涙は流さずに済んだけど、目は少し赤くなってしまったと思う。
ウォルク様は、ずっと合わせてくれなかった目を、今は私に向けていたから、恐らく目の赤さにも気付かれていただろうけど、この事に関しては、何も言われなかった。
そうして思うのは、やはりウォルク様は、言動がわざとらしいという事。
今だって、私をあげつらうなら、泣きそうになった所を指摘すればいいのに、またそうやって、心配そうな顔をしている。
きっと私を傷付けようとした発言だろうに、ウォルク様の方が辛そうにしているから、この方は随分と、嘘が下手だな、と思ってしまう。
「……気持ちが悪いな。何を笑っている」
ウォルク様は、私を貶めるような“台詞”を言いながら、取り繕えていない戸惑いの表情を浮かべた。
「ウォルク様が、急に優しくなさるから」
「頭が沸いたか。俺がいつそんな事をした? 脳の養分を全て腕に持っていかれたらしいな」
「ふふっ」
「何がおかしい!」
思わず笑いを溢していた。
いいえ、貴方はいつも優しいですよ――
――と、口には出さないけど、一度分かってしまえば、ウォルク様が可愛らしく見えてしまったのだ。
私が笑顔でウォルク様を見返すと、ウォルク様は急に、胸を押さえるような仕草をして、「うっ……!」と小さく呻いた。
自分の血の気が、さっと引くのが分かる。
大丈夫だろうか、持病があるとは聞いていないけれど、もしかしたら隠していたのかもしれない。
離れたばかりだったけど、すぐにウォルク様の側へと寄った。
「ウォルク様……!」
「……したい」
「え?」
「女であれば、優しく出来るのに……!」
今度は、別の意味で血の気が引いた。
私に“優しい”ウォルク様は、今、「女であれば」と言った。
知っていたのだろうか?
いや、最初からではなくとも、もしかしたら、私を抱きしめた時に、気付いたのかもしれない。
先の発言は……心情は何であれ、本当に、私に騎士を辞めさせようという意図だとしたら、その理由は――
――雇った騎士が、私が、女だったから?
人生が変わるようだった。
男であれば……男だと偽ったままなら、女の身では得られなかった温もりに、触れる事が出来るのだ。
だけど、同時に自覚もする。
髪を切っても、男物の服を着ても、……剣を取っても。
私の心は、まだこんなに、女なのだ。
ウォルク様は何も変わっていない。
女嫌いだと言われるようになる前と、本質は何も。
彼の言う通り、一つ戦う毎に震えているようでは、確かに使い物にならないだろう。
私は騎士に向いていないのかもしれない。
でも、言葉通りに受け取るには、その声は優しすぎた。
全く逆の事を言われているような気さえした。
ここで女々しく縋ったり、泣いたりはしない。
ウォルク様を、この先もお側でお守りするために……きちんと、自分の足で立つのだ。
私は名残惜しさを振り払い、腕でウォルク様の体を押して、人が一人通れるくらいの距離を取る。
ウォルク様からは抵抗を感じず、すんなりと離れる事が出来た。
涙は流さずに済んだけど、目は少し赤くなってしまったと思う。
ウォルク様は、ずっと合わせてくれなかった目を、今は私に向けていたから、恐らく目の赤さにも気付かれていただろうけど、この事に関しては、何も言われなかった。
そうして思うのは、やはりウォルク様は、言動がわざとらしいという事。
今だって、私をあげつらうなら、泣きそうになった所を指摘すればいいのに、またそうやって、心配そうな顔をしている。
きっと私を傷付けようとした発言だろうに、ウォルク様の方が辛そうにしているから、この方は随分と、嘘が下手だな、と思ってしまう。
「……気持ちが悪いな。何を笑っている」
ウォルク様は、私を貶めるような“台詞”を言いながら、取り繕えていない戸惑いの表情を浮かべた。
「ウォルク様が、急に優しくなさるから」
「頭が沸いたか。俺がいつそんな事をした? 脳の養分を全て腕に持っていかれたらしいな」
「ふふっ」
「何がおかしい!」
思わず笑いを溢していた。
いいえ、貴方はいつも優しいですよ――
――と、口には出さないけど、一度分かってしまえば、ウォルク様が可愛らしく見えてしまったのだ。
私が笑顔でウォルク様を見返すと、ウォルク様は急に、胸を押さえるような仕草をして、「うっ……!」と小さく呻いた。
自分の血の気が、さっと引くのが分かる。
大丈夫だろうか、持病があるとは聞いていないけれど、もしかしたら隠していたのかもしれない。
離れたばかりだったけど、すぐにウォルク様の側へと寄った。
「ウォルク様……!」
「……したい」
「え?」
「女であれば、優しく出来るのに……!」
今度は、別の意味で血の気が引いた。
私に“優しい”ウォルク様は、今、「女であれば」と言った。
知っていたのだろうか?
いや、最初からではなくとも、もしかしたら、私を抱きしめた時に、気付いたのかもしれない。
先の発言は……心情は何であれ、本当に、私に騎士を辞めさせようという意図だとしたら、その理由は――
――雇った騎士が、私が、女だったから?
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