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自覚・カーネリアン
しおりを挟むリナリアのひとつ上であるカーネリアンは、十一歳になっていた。
平凡なカーネリアンに、天使の生まれ変わりのようなリナリアが付きまとう。
カーネリアンは複雑だった。
十歳とは思えないほど、リナリアの歌声は素晴らしい。
初めてこの街に来たとき、随分綺麗な子がいるな、と思ったが、何よりカーネリアンが心惹かれたのはその声だ。
五歳のときはまだ、子供の可愛い声だったが、今ではもう、天使そのものだ。
もちろん本物の天使の声を聴いたこともないし、神様と違って人々の空想の存在なので、いるかどうかは分からない。
神様の遣いである天使に例えられるのは、最上の誉め言葉だ。
カーネリアンはいつも、こっそり歌を聴きに行く。
リナリアの取り巻き達のように、あからさまに好意を見せるのは憚りがあった。というのも、あくまでカーネリアンが好きなのはリナリアの歌声であって、リナリア自身ではないからだ。
リナリアは確かに可愛らしいが、自分勝手で、我が儘だ。
物を譲られるのは当然だと思っているし、沢山の取り巻きがいるくせに、カーネリアンが何処かへ行こうとすると、「どこへ行くのよ!」と、離してくれない。
「用事はないし。もう帰る。君はそこにいたら?」
カーネリアンが言うと、
「用事がないならまだ居なさいよ! 私より優先することなんて無いでしょ?」
カーネリアンから見てリナリアの態度は、一緒に居たいというより、そちらから離れたがるなんてあり得ない、といったものだった。
優しげといえば聞こえがいいが、頼りなくも見えるカーネリアンは、頭の中では常に冷静で、皆から一歩離れた所からリナリアを見ていた。
皆は、リナリアの性格は気にならないようだ。
可愛ければ何でも許されるらしい。
馬鹿馬鹿しく思う。
リナリアは自分の思い通りにならないからか、カーネリアンが移動すると、最初は引き留めるが、意志が変わらないと分かると、付いてくるようになった。
カーネリアンは不愉快だった。
そこまで固執しなくてもいいだろうと思った。
リナリアの歌が好きだというのは、絶対本人に気付かれたくないと思うようになった。
リナリアは誰のことも好きではない。
皆がリナリアを好きなのは当たり前のことなのだ。
もし気付かれたら、
「やっぱりカーネリアンも私のことが好きなのね!」
といって、満足するだろう。
カーネリアンが好きなのは歌だけだと反論しても、嫌いなやつの歌など好きにはならないと思われそうだ。
十三歳になる頃、カーネリアンは相変わらずリナリアに興味が無いふりをしながら、もう誤魔化せないと感じていた。
リナリアに付きまとわれて不愉快だと思っていたが、実はそうでは無いことに気付いてしまった。
何故リナリアはカーネリアンなどに構うのだろうと考えたときに、行き着く明白な理由が気に食わなかったのだ。
リナリアの自尊心のためではなく、カーネリアン自身を見てほしかった。
カーネリアンに少しでも好意があるからだと思いたかった。
リナリアの歌を聴いているのも、うまくやっているので、ばれてはいない。
リナリアは未だカーネリアンを構う。
カーネリアンが他の大多数と同じ、天使に魅了された取るに足らない存在だと分かれば、リナリアはカーネリアンへの興味を無くすだろう。
それだけは嫌だった。
カーネリアンの価値はそれだけだった。
リナリアの、声を失う事件が起きたのは、カーネリアンが恋を自覚したすぐあとのことだった。
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