歌声は恋を隠せない

三島 至

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恋の応援

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 オーキッドを交えて食事をしたことで、フリージアは決意を新たに奮闘していた。
 よく考えれば、フリージアも人のことを言えない。リナリアに面と向かって話しかけられないからと、こそこそと遠くから眺めるばかりなのだ。
 何日か過ぎて、オーキッドは相変わらずリナリアの説得を試みているようだった。様子を見るに、結果は芳しくないらしい。
 オーキッドも積極的にリナリアに接触している。フリージアは自分も見習おうと、リナリアを避けるようなことはやめた。
 リナリアが教会で歌う日には、今までは後ろのほうにこっそり陣取っていたのだが、これからは最前列を狙っていこうと思う。
 実際にやってみると、よくオーキッドとかちあった。彼も街に来た初日から、最前列を保守しているそうだ。
 オーキッドはとても話しやすく、フリージアは自然と砕けた口調になる。たくさんリナリアの話をした。街に噂が広まってからは自粛していたが、誰かとリナリアのことを話したくてたまらなかったのだ。






「リナリアは本当に可愛くて、私は昔からずっと、リナリアのことが大好き。リナリアになら、何を言われたっていいの。昔みたいに、馬鹿ね、って怒られてもいいの。だから、早くリナリアの声が戻ってほしい。歌声は本当に素晴らしいけれど、リナリアは話す声もすごく可愛いんです」

 フリージアは言葉と表情、全身でリナリアへの好意を伝えている。盲目的ではなく、本来のリナリアの姿を、正しく捉えた上で、彼女について語った。
 オーキッドはフリージアの言葉に耳を傾けながら、優しい感情に心が和む。
 リナリアの本心は分からないが、少なくともフリージアは、彼女のことを本当に大切に思っている。
 こんなに慕われているのに、何故仲違いしたままなのだろう。
 オーキッドが疑問を口に出して聞いてみたところ、フリージアは、「リナリアは私のこと、好きじゃないの……」と悲しそうに言った。
 リナリアの言葉は、呪縛となって、フリージアの勢いを奪ったのだ。

「でも、一生友人になれないのは嫌だから、頑張る」

 健気な少女に、オーキッドも「応援するよ」と女性達を魅了してきた笑顔で言った。
 フリージアに効果は無かったが、その先にいた女性たちはくらりときたようだった。






 ある日、フリージアは珍しい人物に呼び止められた。

「ちょっと! フリージア!」

 小声で叫ぶという真似をしながら手招いていたのは、ミモザであった。
 フリージアは教会から帰ってきて、家の扉を開けようとするところだった。

「……ミモザ、そんなところで何しているの?」

 ミモザは家と家の間の、道とも呼べない隙間に身を潜め、頭と片手だけを覗かせてフリージアを呼んでいる。

「いいからいいから、聞きたいことがあるの。ちょっと来て」

 訝しく思いつつ、フリージアは言われたとおりに側へ寄った。

「もう、何? ミモザ」

 前にもこんなことがあったなと、ランスに引っ張られた食事の日を思い出す。

「ランスとデートしたって本当なの?」

 ミモザは力強くフリージアの両肩をつかむと、低い声音で聞いてきた。

「………何を誤解したのかは分かったわ。安心して、してないから」

 ミモザからは、新たな恋人同士をからかうといった素振りは感じられない。凄んで問い詰めているといった方が正しい。

(ミモザって、ランスのこと好きだったんだ……)

 フリージアは全く知らなかった事実に、たった今気が付いた。

「でも、手をつないで歩いていたって聞いたわ」

 ミモザはなおも言い募り、じっとりとフリージアをねめつけてくる。
 面倒な相手に遭遇したと思った。フリージアは懇切丁寧に、誤解であることを伝える。

「別れ際に、少し引っ張られただけなのよ。カーネリアンとか、皆いたし、デートじゃないわよ?」

 彼女が納得するまで、延々と話続けると、やっとミモザの表情が和らいだ。誤解は解けたようである。ミモザはいつもの様子に戻って、素直に謝ってきた。

「そう、誤解なのね……無理に引き止めてごめんね、フリージア」

「別にいいのよ」

 ミモザの機嫌が直ってほっとする。
 しかし、落ち着いたと思ったら、ミモザは憮然として、でも、と付け加えた。

「フリージアの本命って誰なの? 最近王都からきた素敵な商人さんとも、親しいって聞いたけど」

「噂って怖いわね、どこから聞くのそれ」

「私は母さんから聞いたわ」

 ミモザの母親の噂好きは健在のようだ。
 フリージアは無言でため息を吐いた。

「私が思うに、本命はカーネリアンなんでしょう?」

「違うから!! それはないからね!!」

 ミモザの言葉に、全力で否定を返す。
 一番されたくない誤解だ。過去それで手痛い目にあったのだから。

「ええ? でも、他にいないじゃない」

 ミモザは不思議そうに言うが、本当にフリージアに好きな異性などいないのだ。
 強い否定は逆に信憑性が低かったらしく、返って疑いの眼差しを向けられる。

「隠したいなら、無理に聞かないけど……まあ、ランスじゃないならいいのよ。フリージアも頑張ってね」

 そう言って立ち去ろうとするミモザに、駄目押しで「本当に違うからね!?」とフリージアは叫んだが、「はいはい、分かったわよ」と軽く流される。
 絶対分かっていない。新たな誤解を呼んでしまった。

 釈然としないながらも、すごすごと自分の部屋に戻ったフリージアは、どうするべきか考える。
 リナリアのことが好きすぎて、恋愛事は考えたことがなかった。
 年頃になれば、自然と恋をするものなのだろうが、フリージアにはまるでないのだ。

(私、お嫁にいけるのかしら……)

 一抹の不安がよぎる。

(でも、カーネリアンは駄目よ、絶対に。だってリナリアの好きな人だもの……)

 ふと、ある考えを思いついた。
 ミモザも、自分の恋に必死だった。
 リナリアが、フリージアに絶交宣言したのも、カーネリアンの側にいるフリージアが目障りだったからだ。

(私が、さっさと恋人を作ってしまえば、敵視されなくなるんじゃない? いいえ、むしろ、リナリアの恋を応援していると伝わればいいのよ)

 フリージアの心に光明がさした。久しぶりに心が躍る。
 リナリアと和解する道筋が見えた気がした。
 恐れる必要などない、嫌な顔をされたら、自分は敵ではないことを示せば良いのだ。

 そうと決まれば、実行あるのみだと、フリージアは意気込んだ。



    
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