歌声は恋を隠せない

三島 至

文字の大きさ
29 / 91

恋愛相談

しおりを挟む
 
 騎士の仕事が終われば、カーネリアンはリナリアに会いに行く。
 直接会いに行くというよりは、教会帰りのリナリアの目に付くような道を、偶然を装って通るのだ。
 リナリアは必ず見つけて、隣に並んでくる。
 おそらく、彼女と一番仲がいいのはカーネリアンだ。
 愛しいリナリアの隣を歩けることは、幸福なことだが、カーネリアンも人並みな男性であるから、それ以上の欲もある。
 恋人でもないのに、独占欲ばかり大きくなってしまう。
 そろそろ、先々のことまで考えなければならないと思い始めていた。

 家族で暮らす家に帰ると、姉に来客を告げられた。
 カーネリアンの家は、ついこの間、姉の夫が訪問したばかりで、姉が嬉しそうにしている。夫はまた仕事で街を出てしまったが、まだ余韻が残っているようで、家の雰囲気は明るい。
 玄関から部屋に入ると、見覚えのある、うねる髪が振り向いた。

「お邪魔しています、カーネリアン」

 生き生きとして、笑顔で出迎えたのは、フリージアだ。
 カーネリアンは突然のことで驚いたが、愛想よく挨拶を返した。

「やあ、フリージア。珍しいどころの話じゃないな。こんな時間に、何か?」

「まだそんなに遅い時間じゃないわ」

「もうすぐ日も暮れるだろう。急ぎの用事?」

「急ぎっていうか……だってこの時間じゃないと、カーネリアン家にいないじゃない」

「外だとまずい話題なのか?」

 カーネリアンはフリージアの向かいのソファに腰掛け、神妙に聞く。
 フリージアは慌てて、「重たい話題じゃないのよ」と首を振った。

「恋愛相談に乗りにきたのよ!」

 ふふん、と得意げに言われ、カーネリアンの思考は一瞬停止する。

「相談しに来たんじゃなくて、相談に乗りに来たの?」

「そうよ!」

「……なんでそんな発想になったのさ」

「だって、カーネリアンはリナリアのこと好きよね? まさか好きじゃないわけないでしょ?」

「……」

 カーネリアンは黙り込む。意味が分からない。
 一応、あからさまに好意を示さないようには、気をつけているのだが、断言されてしまうのは初めてだ。
 ランスと話す時でさえ、からかいも口にされないように、ある程度会話は誘導している。
 フリージアは、カーネリアンの態度から気付いた訳ではないだろう。
 誰か意中の相手が他にいる場合は別として、一緒にいれば誰もがリナリアを好きになると、彼女は本気で思っているのだ。

「とりあえず、何を思って行動に移したのか、経緯を教えてほしいんだけど」

「カーネリアン、私はね、リナリアとまた仲良くしたいの。それで、カーネリアンにも協力してほしいのよ」

「それが何で恋愛相談?」

「リナリアの一番近くにいるのは、カーネリアンでしょ。私にも原因があるけど、リナリアは喋れないから、そんなリナリアを理解して、ずっと支えてくれる存在が必要よね。そろそろ、お仕事をするか、お嫁に行くことを考えていたらね、リナリアには絶対に幸せな結婚をしてほしい、って思ったの」

「……それで?」

「でね、ぽっと出の人より、カーネリアンがリナリアをお嫁にもらってくれたほうが、絶対いいと思う。だからカーネリアンに頑張ってもらおうと、恋愛相談に乗りに来たわけ。私が二人の仲を取り持てば、気持ちが満たされたリナリアが私に心を開いてくれる、っていう寸法」

「随分押し付けがましい恋愛相談だなあ……」

 強引で割りと無茶苦茶な計画に、カーネリアンは苦笑する。リナリアの相手に選ばれるのは光栄だし、フリージアがカーネリアンを応援してくれるのは嬉しく思う。
 だが、そんなに上手くはいかないだろう。

「リナリアの気持ちが大事だろう」

 カーネリアンは、リナリアから恋愛対象として見られている自信は全く無い。
 下手なことをして、例えばそういった目でリナリアを見ていると、本人に気付かれて、嫌われてしまうかもしれない。
 リナリアが優しいことは知っている。カーネリアンの恋情が露見したとしても、戸惑うかもしれないが、嫌悪を顕わにすることはないような気がする。
 それでも、リナリアがカーネリアンを見つけて駆け寄ることが無くなることを想像すると、今の関係を壊したくないと思う。

「それに、結婚って飛躍しすぎだよ。恋人になるのも難しいと思うよ」

「全く問題ないわ」

「どこからくるんだよその自信……」






 自信満々に答えるフリージアは、リナリアの気持ちを知っているから、ためらいはない。
 厳密に言えば、カーネリアンはリナリアへの好意を肯定してはいないのだが、フリージアの勢いは止まらない。

「外で会ったら、リナリアにばれちゃうでしょ? だからわざわざ家に来たの。安心して、二人の邪魔はしないわ! ただ、私の好感度も上げたいから、忘れないでね!」






 結局カーネリアンは、強く拒否することは出来なかった。

(まあ、少し様子を見るか……)

 結婚云々はさて置き、リナリアとフリージアのことは、わだかまりが無くなればいいとは思っていた。
 二人の和解が、解呪に繋がることに期待する。

「じゃあ、用事も済んだし、帰るわね。また度々作戦会議しましょう」

 フリージアは意気揚々と立ち上がり暇を告げた。
 すると、会話を聞いていたとしか思えないタイミングで、カーネリアンの姉が、横から会話に入ってきた。

「ごめんね、少し話が聞こえたのだけど」

 実際に聞いていたらしい。
 別に、声を潜めていたわけでもないので、聞こえても仕方がないのだが、確実に聞き耳を立てていただろうなと、カーネリアンは姉に対して、少しだけ不服に思った。

「フリージアちゃん……影ながら応援するわ。いつでもいらっしゃい。でもね、いい人がいたら、フリージアちゃんも自分の恋をつかまなくちゃ駄目だからね」

「お姉さん……ありがとうございます。頑張りますから、見ていて下さい!」

 カーネリアンを置いて二人は盛り上がっている。

「水を差すようで悪いけど、家の人が心配するよ」

 カーネリアンがやんわり告げると、姉が「リアン、送ってあげなさいね」と玄関まで追いやってきた。
 なんだかいつも、送るように言われている気がする。

「言われなくてもそうしますよ……」

 カーネリアンは半ば投げやりに答えた。


 帰り道、フリージアは良く喋るので、新鮮だった。
 リナリアともいつか、こんな風に会話を出来る日が来るだろうかと、希望を抱いた夜だった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます

nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。 アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。 全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。

物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜

丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。 与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。 専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、 失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。 そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、 セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。 「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」 彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、 彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。 嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、 広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、 独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。 栄養と愛情を取り戻したセレナは、 誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、 社交界で注目される存在となる。 一方、セレナを失った伯爵家は、 彼女の能力なしでは立ち行かず、 ゆっくりと没落していくのだった――。 虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび
恋愛
「結婚しよう」 アリーチェにそう約束したアリーチェの幼馴染みで勇者のルッツ。 しかし、彼は旅の途中、激しい戦闘の中でアリーチェの記憶を失ってしまう。 それでも、アリーチェはルッツに会いたくて魔王討伐を果たした彼の帰還を祝う席に忍び込むも、そこでは彼と王女の婚約が発表されていた・・・

処理中です...