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153.ドキドキの同窓会。

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 ロナウという男。

 コリンやフタバにとっては、「残念な奴」でしかないんだけど、同級生からの評価はそう悪くない。
 コリンと違って周りに喧嘩うらないし、
 フタバみたいに、「ただいるだけで威圧感」なクールビューティーでもない。
 そして、二人みたいに成績優秀で勝手に周りからの反発を買っているわけでも‥ない。
 だけど、成績が悪すぎて悪目立ちする‥ことはない。

 その容姿同様、地味な奴なんだ。
 地味だけど、地味ゆえに無害な奴で、それ故、評価は悪くないんだ。
 こいつとつるめば「うまみがある」わけでもないし、わざわざ「潰しておかなきゃいけない‥」って程重要人物ではない。「見てるだけで加虐心が‥」って程悪目立ちもしないし、‥もし危害を加えられていたところで‥「助けなきゃ」って気持ちが起こるほど庇護欲を刺激しないような人物。
 つまり、うまみが無いから‥ロナウの為に(わざわざ)何かしてやろう‥っていう様な人もいないけど、わざわざ危害を与えよう‥なんて人もいないってことだ。

 所謂人畜無害な人間って奴だな。
 それ故、人々はロナウに、当たり前に挨拶位はするし、話しかけられれば返事位はする。

 ロナウはそういうポジションの人間なんだ。

 
 そんなこんなで同窓会!

 同窓会会場できょろきょろしていたロナウに、
「だけど、驚いたよ。テイナー君が騎士紋にコース変更するなんて。というのも、テイナー君は多属性持ちの成績優秀者だったからね」
 ニコラスがニコニコと話しかけて来た。(ちなみに、テイナーはロナウのファミリーネーム)
 ニコラスは、魔法学概論(座学)の先生だ。
 
 教会はアカデミーとは違う。
 アカデミーは専門的なことを教え、考えさせる場。教会は、「魔法の本質を理解させ、正しく使用する」ことを教える場‥って感じ。
 有効利用を目的とし、「今後の魔法とは‥」を議論したり「新しい魔法」を研究したりするのはアカデミー。
 伝統的な由緒正しい魔法の使用法(主に治療や結界など)を教えるのが教会って感じかな。
 教会では勿論攻撃魔法は教えない。剣についても、ただ攻撃を受けた場合に受け流したり、防御するために教えるくらいだ。
 だって、教会が攻撃を教えるなんて変でしょ? 
 それに、教会卒業者の殆どは教会に就職したり、一般事務に就くから、攻撃魔法なんて不要なんだ。

 ロナウはその総てで中の上位の成績を収めている。(剣の成績は、コリンたちには不評だったが(← 剣を握っている時の目がヤバかったから)ずば抜けていた)あとは、魔法学も得意だった。新しい魔法を考えたり、習った魔法を応用したり‥ロナウはどちらかというとアカデミー向けの性格だった。(それはコリンも同じ。だけど、アカデミーは学費が高いし、競争心が強い貴族の子息子女が多く、凄く殺伐としているから、コリンが入学したらきっとアカデミーに血の雨が降る‥)
 
 ロナウは「出来ない子」じゃない。
 コリンたちが「出来過ぎる」だけなんだ。

 ぺこり、とロナウが無言で頭を下げる。
 先生と懐かしい学生時代の話もいいが‥今はそれどころではない。

 兎に角、噂を広めてくれそうな‥口の軽そうな奴を見つけないと‥
 って学生時代の記憶を総動員させて、辺りをきょろきょろしていると、

「先生、お久しぶりです。‥テイナー君は、今は騎士として活躍してるの? 」
 先生の後ろからひょこりと、赤毛の青年が顔を出した。

 誰だっけ?
 ロナウが心の中でコッソリ首を傾げる。

「ああ、ミューラー君」
 隣にいた先生がにこやかに話しかける。ミューラーも先生に挨拶する。
 ああ、‥名前聞いても知らんな。思い出せん‥というか、知らんな。絶対、学生時代話したことすらなさそう。
 愛想笑いしてたら、
「お久しぶりですね。ミューラーさん」
 ってフタバがロナウの横に立った。
「ベネットさん! 僕の事覚えてくれてたの! 僕実は学生時代君の事‥」(※ ベネットはフタバの‥以下略)
 ってフタバを見て真っ赤になったミューラーとフタバの間に割り込んだのは‥
「フタバちゃん。こんなとこで無駄話してる暇‥ない」
 コリンだった。
 
 無駄話!

「おい! コーナー! 今僕はベネットさんと! 」(※ コリンのファミリーネームはコーナー)
 ミューラーがコリンの肩をつかむ。
 コリンがミューラーを振り返る。

 一瞬‥
 魂持ってかれたと思った。
 相変わらず、めちゃめちゃ美しいな‥
 ‥男なのに、‥男だけど。
 ‥そう、こいつは男! 男なんてどうでもいい!!

 固まるミューラーと、不機嫌MAXなコリン。(口には出さないけど、もう、雰囲気がそんな感じ)
「肩、勝手につかまないでくれない? 」
 ミューラーの手を払いのけるコリンの表情は、‥無表情だ。

 ‥凍るかと思った~。あいつ、絶対魔王だよね!?

「‥ああ。ごめんね。‥僕、人見知りだから、知らない人に話しかけられると緊張しちゃうんだ。
 だから‥」
 ぼそ、とコリンがミューラーに言った。
 無表情のまま、
 台詞を棒読みしたような口調で。

「ダメよ、コリン。ミューラーさんが固まってるじゃない。私とロナウは慣れてるけど、他の人はそうじゃないんだから」
 にこ、とフタバが天使の様な微笑を浮かべる。
 イメージは、ナナフルさん(フタバ談)
 因みに、これらは全部事前に打ち合わせした演技だ。
 同級生に会ったらこんな態度取りましょうっていう、打ち合わせをしたんだ。

「おや、ベネットさん。随分柔らかい雰囲気になったね」
 先生がにっこりと微笑む。
 ‥よし、引っかかった。
 うまいぞ、僕の演技。
 心のなかでコリンがほくそ笑む。(うまかったのはフタバの演技だということは言うまでもない)

「‥婚約をしたからかしら。
 私、ここにいるロナウと婚約したんです」

 ええ!!!
 驚くミューラーと、‥ざわつく周囲。
 皆関心のないふりをして、話を聞いていたんだ。
 なんだかんだ言って、フタバは目立つ美少女だから。

「おや! おめでとう」
 人のいい先生がニコニコと二人を祝福する。ミューラーは‥もう、顔面蒼白だ。
 ま、告白しようとした瞬間振られたんだしね。
「ええ。‥フタバちゃんに苦労をさせたくないから、もっと頑張らないといけないなって思って‥。
 今はフリーの剣士をしているんですが‥定職に就きたくって‥。
 僕の家は騎士の家だから、家族の勧めもあって魔術士紋から騎士紋に変えたはいいけど、どうも僕には向いているように思えなくって」
 ロナウが照れ照れと‥嬉しそうに言う。(勿論演技だが、なかなかこいつも上手い。下手なのは、コリンだけだ)
「そうですか? 成績は随分優秀みたいでしたが‥」
 先生は首を傾げたが、
「‥実践と学問は違う‥って感じでした」
 というロナウの言葉に「そうですよね‥」と心底納得した顔をして、
「テイナー君は優しい人ですからね‥。人を傷つけるのは向いていないのでしょう」
 ってしんみりと‥いたわるような表情でロナウを見た。
 そんな先生に‥

 ‥すみません、人を傷つけるどころか、騎士として働いたことすらありません‥。それに、僕、別に敵を傷つけることなんて何とも思ってません。学生時代から結構無茶してました‥

 とは言えない。
 ロナウは困ったように微笑んだ。
「それで‥僕は、騎士とは別で‥事業で生計をたてようって思っているのです」
 よし‥
 先生の助け舟(先生にその気はなかっただろうが)のおかげですんなり本題に入ることができた!
「事業? 家業か何かを継ぐのでしょうか? 」
 先生が首を傾げ、ミューラーがロナウを見る。
 興味を持った‥って顔だ。

「いいえ。全く新しい事業です」

 ロナウが自信満々‥という顔をして言い切った。
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