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187.総ては君と一緒に生きていきたいから。

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(side コリン)
 

 「どうせ僕は一人だ」って、ひねくれてた少年が仲間たちとの友情によって「僕はもう一人じゃない! 」って気付いて‥仲間たちと一緒に強くなっていく‥
 
 良い話だ。
 だけど、僕はそんな「いい雰囲気」で皆が盛り上がってる中で、一人冷静にさっき感じた「何か分かりそうな感じ‥」について考えていた。
 ‥盛り上がってるって言っても、もう若者‥って歳じゃない(若くない訳じゃないけど。若者ってそうじゃないじゃない。僕らはいわば‥青年って歳? 青春が似合う若者は少年だ)所詮、「よかったよかった」って和やかな雰囲気になる程度だ。少年時代のように「いえ~い! 今から飲みに言っちゃう?! 」「いーね~! 女の子誘っちゃおうぜ~! 」って感じに盛り上がる‥わけじゃない。‥もっとも、僕はそんな「盛り上がってパーリナイ」を体験したことはない。(※ そういう経験がないコリンはもう‥壊滅的な位古く、ダサい)

 理性的ではなく‥本能的に「絶好調! 」で、「俺ってイケてる~! 」(← やっぱりダサい)

 若い頃の「若いゆえに怖いもの知らずで、絶好調」って‥だけど、実感するものじゃないんだ。だって、気付かないから「怖いもの知らず」でいられるんだ。そして、「怖いもの知らず」だから、「絶好調に強い」んだ。
 ‥いわば、これからの目標を先に見せられるようなもん‥。僕はそれを「神の与えた試練」で「吊り下げられたニンジン」だって思ってるんだ。
「やれば出来るんだよ」「ここまで追いついておいで」って感じ。
 それで‥「まぐれじゃなくて、この力をいつでも出せるようにならなきゃ」って気が付いた者だけが‥成長できるんだ。(気が付かなかったら、たった一回の「まぐれ‥過去の栄光」に縋って「自分はやればいつでもできるけど、やらないだけだ」って言い訳したりする人生を送る残念な奴になるんだろう)
 そういう‥若い時限定の「お試し体験」。
 気力と体力‥それから「馬鹿にならないと出来ない」体験。

 思えばね‥。あれは、「馬鹿になる」って感じだった。
 ‥やっと‥分かった。

 フタバちゃんとロナウとの共同体で戦ってるとき‥

 僕らなら、大丈夫! 
 なんなら、出来ないことはない!! だって、これは「特別な共同体」だから!

 ‥ヤバい位自信がわいて来た。
 それで、闘い終わってもちょっと間、その高揚感が続いた。

 またやりたい‥
 って思った。
 ‥だけど、同時に‥「何かヤバいな」って‥感じたんだ。
 これは‥癖になる。

 ‥あれは、脳内麻薬エンドルフィンによる多幸感‥それも「強制的につくられた快楽」だった‥って気付いたのは、興奮がやっと解けたその日の夜のことだった。
「‥ヤバい‥。これは‥何か‥」
 ‥怖い。
 僕は‥本能でそれを再び求めて‥理性でそれを恐れた。‥結果的に、理性が勝ったって感じだろうか。僕は‥それを封印することを決めた。僕が冷静で理性的だったから‥っていうより、野生動物の危機回避能力って感じだったのかもしれない。
 因みにエンドルフィンっていうのは、神経伝達物質の一つで体内で生成され、モルヒネ同様の示す物質‥なんだって。詳しくはよくわからないけど、脳内で作られる麻薬って感じで‥これが出たら幸せ~って感じになる‥って認識してる。いっぱい食べた後、いっぱい寝た後にも分泌されるけど、めっちゃ走って疲れた~もう嫌だ~ってときにも出て、「なんか気持ちえ~わ~」ってなる‥らしい。僕はそんなに走ったりしないし、そんなにめちゃ寝たりしないし、めちゃ食べて満足~ってこともないから‥そういうのはわかんない。
 兎に角‥
 体外から摂取するわけでは無い合法的な麻薬って感じ‥なんだろう。「モルヒネ(体外から摂取する麻薬)」を摂取したことないから、「そんな感じだよね」ってのは分かんないけど‥多分‥「それくらいイイ感じ」になるってこと‥なのだろう。

 いい気分になって、ハイになるって感じ、かな?
 
 そういう時の力は‥自分の‥自分たちの本当の力じゃない。
 言うならば、「火事場の馬鹿力」ってやつだ。潜在能力が発揮された‥って表現もあるだろうけど‥いつでも出せるわけでは無い力は僕にとっては、所詮「まぐれ」だと思う。

 エンドルフィンが分泌されたことによって、何時もより気持ちが高揚して‥いつも以上に気分がハイになって、更に「共同体という特殊な状態」により、自分の力はいつもより、数倍「イケてる」。(共同体全員の力がまるで自分の力のように感じるんだ。そんな気持ちになってもおかしくはない)そのうえ、同じ目的の為に一緒に協力した者の間に生まれる「特別な」連帯感ってのもあっただろう。
 いうなれば‥共同体ハイって奴だ。

 エンドルフィンを強制的に分泌させて、共同体ハイ効果と相乗して‥強制的に成功体験を積ませて‥「気持ちよくさせて」、手っ取り早く「気持ちよくなれる方法」として‥共同体に依存させる。
 教会側の意図みたいなもんが見えてきて‥ゾッとした。

 もっとも、そういうこと(協会側の意図)を考えるようになったのは‥ザッカさんたちと協会怪しくない? って話をしたころからだ。
 学生の頃はそんなことは思っていなかった。‥単純に
 あの力を皆で一緒に‥じゃなくって、自分一人だけで出すぞ!! 
 って感じで‥なんか躍起になってたな。
 僕は欲張りだし、負けず嫌いだし‥基本他人を信じないからね。

 でも‥そうか‥「あの魔薬」の正体って‥「服従の催眠術」の魔法陣じゃないんだ。
 
 服従の催眠にかかったならば‥正気に戻った時、多少なり不快感を感じ、以降その原因物質かもしれない魔薬の服用をためらうだろう。(絶対ってわけではないけど、その可能性は高い)
 だけど、エンドルフィンは強制的に分泌されたんだとしても「自分が分泌した」わけだから、不快感はない(そして、自分が分布つした物質だから、異物として検出されない)そして、共同体のリーダー(仮)と共同体の仲間として‥同じ目的を達成するために協力し、「一人より二人」‥の共同体ハイの状態になる‥。

 エンドルフィンと共同体ハイの相乗効果‥。

 つまり、
 自発的に服用したくなり、常用したくなるのは‥魔薬を服用した方が共同体のリーダー(仮)に対し‥「服従させられている」って感覚が全くなく、催眠が解けた後も不快感が全く残らないからだ。そして、共同体としての成功はそのまま自分の成功体験として、記憶に積み重ねられる‥。それが、「次も‥」というふうに依存に繋がっていく‥ってことなんだろう。
 
 薬自体の中毒性というより、薬の効果に対する依存だな。

 そういう‥人間の弱さに付け入るとか‥最低だ。非人道的だよ‥。
 それが、敵‥悪の組織の恐ろしさなんだ。
 その怖さは、「力の強さ」や資金調達能力に優れていること‥権力や力を持っているってこと以上に、だ。
 あと‥恐ろしい程人心を掌握していることだな。‥寧ろ、こっちの方が恐ろしいかも‥。

 ホント‥ゾッとする。
 ‥逃げたくなる程‥怖い。
 アンバーをあのままあそこに置いていたら‥って考えたら‥怖くて仕方がない。

 あの時、僕は実はそこまで考えてアンバーを助けたわけじゃなかった。ただ、「袖振り合うも多生の縁」で‥なんか‥連れてきちゃったって感じ。だけど、今悪の組織のことを知れば知るほど‥あの時の自分の思い付きが悪くなかったって思う。
 アンバーは‥運悪くあそこにいただけで、本来はあんな所にいる人間ではなかった。そして‥アンバーと同じ様に連れてこられた「悪の組織チャイルド」も‥。
 運が悪かったアンバーは「運がいいことに」魔力が強く、催眠術にかからなかった‥そして、それをごまかせるだけの度胸と‥魔法の才能があった。
 そして‥きっとこれが一番大きい‥性格が‥僕と一緒で‥びっくりするほどひねくれてて、負けず嫌いで、他人を信じなかった。
 その結果、アンバーは自分の意思を持ち続けることが出来た。

 ‥僕と一緒って言いながら‥ 
 アンバーは僕よりずっと虚無的で‥人生に対して夢も希望も持ってない。

 だから‥快楽に流されなかったんだ。自分の快楽を求めるって気持ちにさえ、アンバーはホントに無関心だったんだ。
「どうせ、快楽も苦痛も一時だ。どうでもいい‥」
って思ってたんだ。
 
 そして‥そう思うまでになった‥今までのアンバーの生い立ち‥。
 ‥性格と魔力‥才能故、流れ(洗脳)にものれず、そして、流れに乗っていないことを隠すために自分を偽って生きて来た‥
 ‥そんなアンバーのこころを想うと‥
 今まで以上に悪の組織が憎くなった。


「‥どうした? コリン」
 黙り込む僕を心配したザッカさんに、僕は僕の仮説を話した。アンバーのことは‥勿論言ってない。そんなこと言われたらきっとアンバーは嫌だろうから。(僕の予想でしかないわけだしね。勝手に「君はきっとこう」なんて言われたら‥絶対嫌だって思うし)

 皆は黙って僕の話を聞いてくれた。
 そして‥神妙な顔で‥黙り込んだ。

「思った以上に、協会は腐敗しているってことだな」
 最初に呟いたのはザッカさんだった。
 ナナフルさんも頷き、
「その目的は‥なにかって話ですよね」
 と‥眉をしかめた。
「協会の目的を探る為に協会だけを調べても分からないだろうな。
 教会と協会の結びつき、利害関係‥。そして、協会と悪の組織の結びつき‥。
 悪いのは悪の組織だけの問題ではない。
 そして‥
 協会を管理しているのは魔法省だ。‥魔法使い同士の殺傷を通常の刑法で裁けないと決めているのは‥魔法省だ。
 魔法省も組織とつながっている‥って考えるのが普通だろうな。
 それも‥
 かなり昔から‥」
 ため息をついたのは、アンバーだ。
「偉いさんってのは、ろくなことかんがえねーな」
 って独り言ちてる。
 シークさんは、黙って前を睨んでいる。

 今まで「普通の国民」‥立場の弱い人たちを助けて来たシークさんだ。‥許せない気持ちでいっぱいなんだろう。
 敵は‥思った以上に大きい。
 大きな海を前に小舟を浮かべ‥クジラを狙いに行く‥。
 それっ位‥無謀なこと。
 
 明日、君にまた会えるって確証がどこにあるんだ‥って暮らし。
 敵の大きさは関係なく、僕らはいつもなんの確証も持てない暮らしをしてきた。人は弱い。勿論、無敵どころじゃなく‥(それどころか)いつ死ぬかもわからない。だけど‥生きてる間は君とずっと一緒に居たい。一緒に生きて、笑い合って‥しあわせを感じていたい。

 悔いなく死にたい‥なんて思わない。悔いなく‥生きたい。
 明日も明後日も、君と生きていたい。君と笑って生きていたい。その幸せを守る為に、僕らは毎日必死で戦い‥命を懸けているんだ。
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