この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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221.味も分からないご褒美にテンション上げようって思ってたのが、そもそも間違いだったみたいです。(ちょっと☆?)

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 幾度となく考えた。
 勿論ね、‥シークさんはそういうタイプじゃないってことも分かってるし、今この時が「そういう場合じゃない」って分かってるけど‥
 こんな時だから
 余計に思うんだ。
 死ぬ前の「せめてもの思い出」とかじゃないけどさ。‥そういう、ね。悔いを残したくないじゃない。
 最後に思うのが、
「‥シークさんとイチャイチャしたかった‥」
 は、いやってこと。
「シークさんと思い存分イチャイチャしたから、もう思い残すことないや」
 って思えたら最高じゃない?
 そう言えば‥アンバーとそんな話をしたことがあった。
 確か‥アンバーにシークさんが「自分はいつ死ぬかしれない危険な職業だから、コリンを残して早く死ぬかもしれない。そんなことを考えたら‥恋愛を躊躇してしまう」って言ってた‥って話をした時のことだ。
 あの時、アンバーは
「いつ死ぬかもしれない日々だから、恋人を作らない‥作ってその人を残して行くのが‥責任を取れないのが嫌だってシークの奴は思ってるの?
 俺は‥そういうことは思わないな。だって、職業柄多少危険度が高くなるって言っても、人間生きてる以上いつ死ぬかなんてわからない訳だしさ? それは誰にだって言えることだしさ? 
 恋愛をして、自分に恋人が出来て‥生活に張りが出るってことのメリットの方が大きいと思うけどな~。
 そもそも、楽しいことなかったら、生きてるの嫌じゃない。 
 楽しいことがあったら、、もっと生きていたいっておもうから、自分の命を大事にしようって思うだろうしさ。
 え? 死にたくないから危険なことはしないでおこうって‥仕事に後ろ向きになったら困るって言ってるって? 
 ‥そもそも、仕事に命をかけちゃいけないでしょ。

 恋人が出来たら‥むしろ、死ぬときの心残りってことを考えるな。
 こんなに早く死ぬんだったら、もっとイチャイチャしたらよかった~って思うだろうなって。
 思い存分イチャイチャしてたら思い残さないんじゃないかって? ‥思い存分ってどんなだ? そういうのに満足とか「もういいや」ってあるのか? 
 好きなんだから‥ないだろ。
 もっともっとしたかった‥生きて‥もっともっとしたかったって思うだろうな」
 って言ってた。

 ねえ‥シークさん。
 僕は今のままだったら‥死ぬ間際
「シークさんとイチャイチャしたかった‥」
 って思って死んでいきそうですよ? 
 僕は‥
 いつかそういう日‥シークさんと僕がイチャイチャできる日‥が来るまで、気長に待ち続けるのに、ちょっと飽きてしまいましたよ? (飽きたっていうより‥なんかちょっと期待が持てなくなりました‥)
 そう思い‥
 ふっとシークさんを見た。

 シークさんと目があった。
 がたっとシークさんが椅子から立ち上がり、僕の手を引っ張った。
 まるで、アンバーから僕を取り上げるみたいに。
 シークさん‥怒ってる? って思ったら、そのまま‥シークさんが歩き出した。
 僕の手をつかんだまま。

 部屋を出て、
 事務所を出て、
 ずんずんずんずん、僕の手を引っ張ったシークさんが前を歩く。
「シークさん? 」
 僕が声を掛けると、シークさんが足を止め‥僕を強引に抱きしめた。

「嫌だ‥」
 僕を胸に埋めたシークさんが呻く様に‥呟いた。
 シークさんの広い胸の中にいる僕には、シークさんの顔は見えなかったから、その表情は分からなかったけど、その声は‥凄く苦しそうに聞こえた。
「え? 」
 僕はちょっと名残惜しかったけど、シークさんの胸から脱出して‥っていっても、完全に離れるわけではない‥顔だけあげてシークさんを見上げた。
 心配そうに僕を見下ろすシークさんと目が合った。
 シークさんの表情は‥
 想像してたよりずっと‥

 悲しそうだった。

「シークさん」
 僕が呟くと、
「‥ごめん。結局、感情のまま行動してしまった」
 ってシークさんが苦しそうに微笑んだ。
「もどかしい‥でも何も出来ない。
 どうすればいいって考えて‥だけど‥分からなくて‥だのに、こころばっかり焦って‥
 コリンのこと止めたいのに、‥だけどそれは自分の我儘で‥」
 いつものシークさんらしくない、自信のない言葉。
 そのたどたどしい言葉から‥シークさんの僕に対する気持ちが伝わってきて‥涙が出そう。
 
 何よりも、僕の事を心配してくれてる。
 あとは、‥自分の気持ちとの葛藤かな。
 自分の気持ちと「今の状況」その狭間で気持ちが揺れ動いて‥もどかしいって気持ち。
 ‥僕の事止めたいけど、止めちゃいけないって分かってる。だけど‥ってそんな自分に対して、腹が立ったり‥不安だったり、心が落ち着かないって感じ。

「それに‥こんな時なのに‥アンバーは相変わらず自由気ままで、‥コリンに触れたりして‥
 アンバーが自分の事だけじゃなくって‥コリンの事励まして、安心させようとしてるって頭では分かってるはずなのに‥
 なのに‥俺は憎いって‥アンバーが憎いって思ってしまう。‥俺はこんな時なのに‥自分の事しか考えていない‥」
 こころがきゅんときた。
 シークさんが焼き餅焼いてくれてる‥。
 アンバーが憎いって、僕に触れるアンバーが憎いって‥。
 焼き餅焼いてる。
 シーンさんは「ちゃんと」僕の事好きなんだ。
 不器用で、億手で、あと‥圧倒的に恋愛経験が不足してるから「気が利かない」だけで‥
 僕の事、ちゃんと好きって思ってくれてるんだ。
 
 僕は黙って‥
 シーンさんの胸にまた顔を埋めた。

 ありがと
 は、おかしい?
 僕はアンバーより、シークさんの方が好きだよ
 は‥ちょっと‥いいわけがましい? いや、真実でいいわけとかじゃないんだけど‥。
 
 何を‥何から伝えればいいか分からない。
 伝えなくてもいいかな? とは‥思わない。伝えなかったら、さっきまでの僕と一緒、シークさんは不安なままだ。
 だけど、「今」伝えたらまるで、取ってつけたみたいになっちゃわないかな。
 でも、伝えなきゃ、‥伝えたい。
「‥シークさん。僕は死なない。その為に話合うって決めたんだ。皆で協力とか‥今まで考えたことなかったけど‥だけど、死なないためにはしなきゃいけないかなって。
 死にたくないとか‥考える以前に今まで自分が死ぬなんてこと、考えもしなかった。
 健康だし、若かったし、この通り優秀だし、根性も気力もある。‥馬鹿みたいに丈夫だったから、気力で何でもできるって思ってた」
 頭をあげることなく、シークさんの胸に顔を埋めたままポツリポツリと話す。
「思えばあれは‥怖さを知らないが故の強さだったんだ。
 出来ないことがない僕に怖いものはなかった。
 以前の‥学生時代の僕の世界は「出来る」か「まだ出来ない」で、「出来ないこと」は無かった。だから、何も怖くなかった。
 だけど違った。僕の世界が狭かっただけだったんだ。自分が井の中の蛙だってことを思い知らされた。
 そんな時、シークさんと会って、シークさんの事好きになって、シークさんが僕の事好きって言ってくれて‥
 出来る、出来るようになるだけが「嬉しい」じゃないことを知った」
 シークさんが頷いたのが‥シークさんにくっついている僕にダイレクトに伝わってきた。
 シークさんの暖かさが心地い。‥シークさんの心臓の音が心地いい。
「今までね「嬉しい」は自分で勝ち取っていかないと得られないものしかないって思ってた。‥だから、僕はシークさんに声を掛けたんだ。だけど、シークさんと一緒にいるうちに「こうして欲しい」って‥受け身の「嬉しさ」を求めている自分に気付いた。
 ‥恋は自分本位で出来るものじゃない。お互いが同じ気持ちになるのも難しいし、‥お互いに気持ちが伝わるのも難しい。
 分からないことばっかりだし、出来ないことばっかりだ」
 またシークさんが頷いた。
 僕は顔を上げて、シークさんを見た。
 シークさんは僕を‥まだ不安そうに見つめていてくれた。
「僕は死にたくない。
 ‥もっとシークさんと一緒に居たいし、キスしたいし、キスしてほしい。シークさんのご飯が食べたい。
 一緒に暮らしたい。‥まだエッチだってしてない。
 シークさん‥僕はシークさんよりずっと場違いな気持ちを抱いてますよ? だけどね。‥その気持ちがあるから、投げやりにならずに済んでる。
 もう死んでもいいや‥って思わずに済んでる。
 だから‥全てが終わるまで‥お預けの方が‥いいのかもしれない
 ご褒美の為なら頑張れる気がしますよね? 」
 僕は頑張って‥微笑んで見せた。
 シークさんには‥少しでも可愛い顔を見せたい。少しでも、好きになってもらいたい。
 シークさんの為にしたいことも、シークさんにして欲しいこともいっぱいある。

 まだまだ心残りがある。だから、死ねない。死にたくない。‥死んでやるもんか。

 生きる活力は、‥楽しい記憶だけじゃない。
 こういう‥邪な? 生々しい欲望‥。案外そういうものの方が分かりやすく活力になり得るのかも。
 そう思って‥思うことにして‥自分の心を納得させ、シークさんから離れようとしたら‥シークさんが僕を強く抱きしめ返して、僕にキスした。
 触れるだけの軽いキスの後、角度を変えて、今度はガッツリと。まるで噛みつく様な‥情熱的な、口付け。
 アンバーみたいに‥「慣れてるわ~」ってキスじゃない。
 今、アンバーと比べるのもどうかと思うけど‥。
 ‥というか、「これ」について考えたのは、結構後になってから
 今は
 僕もガッツリ‥シークさんとのキスにおぼれている。
 噛みつく様な‥熱いキスにおぼれている。
 それこそ‥何も考えられない位‥。

「前に進むために鼻先に結ばれた「食べたこともない」人参の味をあれこれ想像して涎をたらすより、‥先に人参を食べちゃって、もっと食べたいって頑張る方がよっぽど現実的だ。
 俺は‥そんなに気が長くないんだ。
 ‥自分でも今初めて知ったけど」
 僕から唇を離して‥まだ欲の残る瞳をした壮絶色っぽいシークさんがいつもより乱暴にそう言って‥ちょっと腰が砕けそうになってる僕の腰を支えて、ぐっと引き寄せた。

 ああ、そうだね。
 アンバーの言う通りだ。
 イチャイチャしたいに終わりなんてない。
 一度キスしたら、もっとしたい。「もう心残りないや~満足だ~」なんかあり得ない。
 
 僕はもう、「よくできました」の後のご褒美を楽しみに「嫌なこと」はしない。
 (いや、「嫌なこと」はするけど‥しなくちゃいけないからね‥)先に人参の味見を要求する!
 僕は腰に力を入れて、どん、と気合を入れなおすと、シークさんの腕をつかみ、シークさんを真正面から見つめて
「僕も、人参の味が知りたいです! シークさん! 僕とエッチしてください! 」
 力いっぱい言った。
「え‥」
 真っ赤になって固まるシークさん。

 不器用で、億手で、あと‥圧倒的に恋愛経験が不足してるシークさんには‥キスだけで今はいっぱいいっぱいみたいだった様でした‥。
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