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227.ロナウが主役

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「ええとですね、魔法陣は固定された魔法で‥つまり、魔力の塊なんです。だから魔力を吸収できるロナウなら、吸収することが可能かなって思って。
 ただ、ロナウはどの属性でも‥魔力として自分の中に取り込むことが出来るんですが‥ああいう所謂普通の魔力とは違う「何かの目的をもっている魔力」っていうのは、そのままでは自分の中に取り込めないんです。
 そうですね‥適切な例えが急には見つからないんですけど‥
 ロナウは相手が持ってる飲み物をなんでもぶんどって飲むことが出来るけど、相手が持っているのが氷の塊だったら、溶かさないと飲めない。だけど、ロナウにはその氷を溶かす術がないので、ただ手に持っておくことしかできない‥って感じですかね。
 でもですね! 「溶かせば飲める」んです! それは、誰にでも出来ることじゃないんです! ロナウは凄いんですよ! 」
 コリンの表情はキラキラしてて、ロナウを褒めているってことは違いないんだけど‥
「ぶんどるって表現を使うことに悪意を感じるけどな」
 ロナウは苦笑いした。
「‥そうね」
 フタバも苦笑いする。
「つまり、魔法陣を破壊してロナウが吸収できる「ただの魔力」に変えればロナウは吸収できる‥と。
 そのためにはどういう工程が必要なんだ?
 ① 対象者を見つける、② コリンが対象者から魔法陣‥魔力を吸収し回収する、③ 魔法陣を壊し魔力に変えて④ ロナウが吸収する。
 ってことか? 」
 アンバーは「使った表現なんてどうでもいい」って感じで‥コリンに質問した。
 コリンに魔法を習い始めてからアンバーは、魔法全般‥中でも新しい魔法に興味を持つようになった。そういうアンバー(教え子)にコリンは優しい表情を向け
「そう」
 微笑んで頷いた。
 それは、まるで師匠が弟子にするような優しい眼差しだった。

「対象者を見つけるのはどうやるんだ? 」
 これは、ザッカだ。
 もう、具体的な話をしている。
 コリンは表情を改め‥真面目な顔で重々しく頷くと
「それはアンバーが一番適任だと思います」
 と言った。
 アンバーがコリンを見て、一度目を見開き、しかし、微かに頷く。
 自分が一番適任だということは明らかだ。
 なぜって、自分は(この中では唯一)闇属性の魔法の「詮索」を持っているから。
 コリンは、
「魔力の察知位なら魔術士なら誰でも出来る‥僕も勿論できますが、精度も範囲も‥詮索が使えるアンバーには遠く及ばないです。
 僕はね、実際に魔法陣を破壊したことがあるです。その時僕は、確かに「彼女は魔薬を使用している」って分かった。‥だけど、その時は目の前に対象者は一人しかいなかい状態だったから分かった。
 たくさん魔術士がいて‥たくさんの魔力が混じっている‥情報量が多い状態の中から魔薬の使用者を探し出すというのは‥僕には無理ですね」
 終始真面目な口調で言って、アンバーを見、アンバーもコリンに頷いた。
 その様子を見て、ザッカも
「その件はじゃあ、アンバーに任せる」
 と頷き、周りの皆も頷いた。
 ザッカは周りを見渡し、その様子‥皆が納得して頷いているのを確認すると
「それで‥その次の工程‥魔力の吸収はロナウだな? そのあとの工程‥魔法陣の破壊はコリン? 」
 と、コリンを見る。
「はい、それは僕がやります」
 コリンが頷く。
 それを聞き、ロナウが首を傾げる。
「でも‥どうやるんだ? この前、コリンはシャルルの目を見ながら‥シャルルと対話しながら魔法陣を破壊してただろ? 」
 あれを、今回もやるのか? 可愛い女の子ならいいけど‥知らないおっさん相手にもあれを‥見つめ合ってお話‥するとか‥ちょっときついぞ‥って思ってるんだ。
 しかも、一人ずつ‥とか、時間がかかりすぎるし、周りから変に思われるんじゃないか? とも。
 コリンが苦笑いして首を横に振る。
「僕だけならそうするしかないけど‥せっかくアンバーがいるんだ。アンバーなら例えば100人招待客のいるパーティー会場の中からだって魔薬使用者を識別することが出来るだろう。
 だったら‥いっぺんに破壊した方が早いんじゃない? 相手の同意を得ながら‥じゃなくて、強制的に魔法陣を取り上げて、強制的に壊すんだ。
 いっぺんに。そしたら、そう時間はかからない。強制的に取られた人間は勿論分かるだろうが、周りの人間は何かが起こったことにすら気づかないと思うよ」
 楽しそうにコリンが言った。
「出来るのか? そんなこと」
 ロナウが眉を顰める。
 コリンは苦笑いして
「出来るか出来ないかって聞かれるならば、出来る。してもいいか悪いかといえば、してはいけないことだけどね。違法に手に入れた違法な物とはいえ人の物を勝手に奪うのは犯罪だ。
 しかも、奪っていく際に、考えられないような苦痛を伴うかもしれない。まあ、でも‥今回は非常事態だからね」
 自業自得だっていうのだろう。
「どうやるんだ? 」
 ゴクリ‥とロナウが唾をのむ。
「どうって‥僕は誓約士だ。誓約士特権「所持品を強制提示及び提出させる権利」。
 つまり、「あんた怪しい物持ってるでしょ。出しなさい」って奴だ。「見せてもらってもいいですか? 」って奴じゃないぞ。もっと、強制的な奴。「出さないと‥酷い目にあわせるぞって奴だけど、出す際もひどい目に合うって言うね」
 ははってコリンが笑った。
 ‥いや、そこ笑うとこ??
 って思ったら、‥フタバちゃんも笑ってる。
 口には出してないけど、「それなww」って顔してる‥。普通の人ロナウは苦笑いしたが、周りを見渡すと‥アンバーも「それなww」って顔してる。ザッカとナナフルは興味ないって顔だ。
 ‥きっと、ここで自分と同じ感覚なのはシークさんだけだろう‥
 ロナウは思った。
「そして、ロナウの能力魔薬‥影寄せの応用を使えば‥魔力のしっぽを捕まえば、複数の対象者から同時に魔法陣を(無理やり)引きはがすことができる」
「それって‥痛いんだろ? どれくらい痛いんだ? 」
 ロナウは、眉を寄せて‥おずおずとコリンを見る。
 酷い目って聞いただけで‥自分まで痛いような気になったんだ。
「う~ん。そりゃ、対象者の魔薬依存度によるな。
 魔薬に依存していればしている程‥引きはがされたら痛い。身体に植物が根を下ろしてるような感じだよ。浅かったらちょっと痛い‥って位で抜けるけど、深く根を下ろしてたら‥きっと無茶苦茶痛い」
 コリンは「至極当たり前」って顔で言った。 

 流石コリン! 鬼畜だね!!

 ロナウが「深く身体に根を下ろした植物を抜く痛さ」を想像して青くなっていると、
「吸収できるって言っても‥限度があるだろ? 受け入れるロナウの側にさ。コップに水を入れ続けても、許容量を超えたら溢れるぞ? 
 それに、吸収するにも魔力がいるんだろ? 」
 アンバーがコリンに質問した。相変わらず、人の痛みとかどうでもいいって感じだ。
 コリンが頷く、
「だから共同体を組むって言ったんです。
 共同体は魔力を共同体内で共有するから。ロナウが吸収した魔力が共同体全体の魔力になり、また次の吸収や、魔法陣の破壊に使える。そうやっていけば、魔力過剰になることも、魔力切れを起こすことなく‥無限にこの作業を続けられる」
 コリンはご機嫌だけど、それをやるのは‥コリンだけじゃないってことは‥勿論コリンにとってどうでもいいことなんだろう。
 ちょっとうんざりしたロナウは、チラリと盗み見したアンバーが「上等だ、根絶やしにしてやンよ」‥みたいな、ちょっとワクワクした顔してたのに、更に‥うんざりした。
 うんざりした‥っていうか、なんか複雑な気持ち、ね。「何なの、この人たち? 」っていう‥理解できないって感じ。

 兎に角、細かいところはもうちょっと話し合って決めるとして‥、確実に決まっていることは、新しい共同体のメンバーが、アンバー・コリン・ロナウってことだ。
 この間違いなく過酷で危険な作業にフタバを巻き込まずに済みそうなことには、ちょっとほっとした。
 フタバの実力は知っているけど、‥あんなに家族に大事にされてる「大事なお嬢さん」を危険なことに巻き込みたくはない。(あと‥なんといっても、女の子だしね)

 ロナウが一人密かににこにこしていると、
「私は今回何も出来ませんの? 」
 不満顔でフタバがコリンを睨んだ。
 ロナウは、とっさに眉間にしわを寄せ、コリンを見た。「ちょっと、コリン。フタバちゃんを止めてよ」っていう無言の‥視線によるテレパシーである。
 コリンも困っているだろう‥って思ったのに、(ロナウにとって意外なことに)ニコッと笑ったコリンはフタバに
「魔法陣を効率的に壊すのに協力してほしい。僕だけだったら、魔法陣を一枚一枚破っていくしかできないけど、フタバちゃんなら、切り取った空間に集めることが出来る。その上で‥魔力を込めて二人で壊せば‥一度に大量の魔法陣を破壊することが出来る」
 って言ったんだ! 
 え~!? コリン‥お前、ちょっとは女の子を気遣う‥とかないのか!? 女の子を危険な目にあわせるのは良くない、とか思わないのか?!

 驚き‥動揺を隠せない(三人の中では一番)常識人のロナウたった。
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