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239.優しい人
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「あの人たちにも、なりたいものがあったのかなあ」
さっきのフタバの話を、ついさっき簀巻き魔術士が連れていかれたドアをぼんやり見つめながらコリンが呟いた。
光属性持ちだからって全員聖女になるわけでは無い。
魔が差して、闇属性を持ったからっていっても、全員悪人になるわけでは無い。
なりたいものに、なれる素質はあるけどならない人もいるし、なりたいものに気付いていない人もいる。
なりたいものになれる人はほんの一握りの幸福な人。
だけど‥なりたいものに気付けた人ってのも幸福だと思う。
中には、それにすら気づかずに‥気付く間もないくらい時間に追われて暮らしている人だっている。
さっきの経済上の理由で子供に聖女を諦めさせた親だって、‥ホントは好きなとさせてやりたかったって悔やんでる親もいるだろう。
コリンが思ったのはそれ。
「さあなあ‥。そもそも好きな物っていうのも分からず生きて来たのかもなあ。‥それって可哀そうだな」
ってロナウが言うと、シークとザッカが頷いた。
「見つかるといいわね。‥例え、この先何にもなれなくても、流されて何となく生きるんじゃなくて、「こんな道もあるかもしれないな」ってものが見つかるといいわね」
そう言って微笑むフタバは、優しい。
さっきの簀巻き魔術士が最後に浄化されたような顔をしてフタバを見てるのを見たとき、
この人たちにはフタバちゃんが聖女様に見えてるのかもなあ。
って思った。
‥きっとホントの聖女様には会ったことないだろう。彼らにとって、フタバちゃんが聖女様に見えたなら、フタバちゃんによって救われたのなら‥それでいい。
「聖女様‥かあ」
ぽつりとコリンが呟く。
教会時代。コリンは「汚い自分」を見られるのが怖くて、彼女たちに会わないように暮らして来た。
だから、コリンは聖女様をあまり知らない。
「聖女になる人ってのは、凄く人間が出来てるんだろうな。
‥まさに特別って感じだよな。
無償の愛‥美しいね」
ロナウがうっとりとした顔をする。ロナウは聖女様に憧れてた男子生徒の一人だった様だ。
コリンは
「‥そうだね」
とだけ呟いて、居心地悪そうな顔をする。
どちらかというと、自分はあっちの‥簀巻き魔術士寄りだったからな‥って反省しかない。
コリンが項垂れていると、フタバが首を傾げて
「確かにね‥
親に反対されて我に返る子もいるんだけど‥
気が付いたら聖女になってたって子も多いよ。
優しい子が人を助けたいって思う。そして、どうやら自分にはそれを出来る能力があるらしい。助けているうちにレベルが上がってきた! 私凄い! って思う。
助けた人は自分の事を聖女って呼んで、有難がる‥お礼を言ってくれる。嬉しい。教会も勧めてくれる。なら、なるしかないんじゃない? って思う。
そして、気が付けば聖女になっていた。そういう子」
どちらかというと、そういう子の方が多いらしい。
「天真爛漫な世間知らずな子が多いから」
っていうのは‥でも、ちょっと口が悪すぎる‥かなあ。
純粋な子が多いって言って欲しい‥。
でも、そんな純粋で優しい子が、経済的な理由から「お金にならない」聖女になることを親に反対されて、そしてその子も(泣く泣く)それに納得する。
「でも‥その子は諦めがつくんだろうか。
だって、その子は当たり前に人を助けたい人間なんだから‥」
心配そうにコリンが聞くと
「私の友達は、かなり努力して聖女紋を赤の医療師紋に変えて赤の医療師になりましたわ。今は、診療所で働いてるわ。診療所だったら、給料もいいからご両親も納得なさってたし。
要は、自分の納得できる範囲で妥協することも大事って話なんでしょうね」
フタバは微笑んで言って、コリンはほっとした顔で微笑んだ。
形は違えど、人の為になる仕事ってことだろう。
よかったよかった‥
と、
「聖女と医療師ってどう違うんだ? 」
聞いたのはザッカだ。
フタバが頷いて、
「聖女は呪いや「心の病」を癒し、医療師は「身体の病」を癒します。
癒し方も、聖女の場合は「魔力の不調」である呪いを「どんな呪いであろうとも」すべて消し去ります。
医療師は‥怪我が治った状態に「早送り」します」
そう簡潔に説明した。
そう言えばコリンから昔そんな話聞いたな、とザッカたちは思った。
「皆そうなの? 」
ザッカがフタバに聞く。
「え? 」
フタバが首を傾げる。
「光属性持ちでも聖女にならなかった子は、皆‥赤(もしくは青)の医療師になるの? 」
ザッカの質問にフタバが微かに微笑む。
「そうじゃないですわ。
‥そんな人の方が稀です。
色々です。
優しい人を望む金持ちに望まれ結婚する人が多いですわね。
大勢の人を癒すのではなく、愛する人とその家族を癒す‥って感じかしら?
‥聖女紋を持ってる子は、皆優しいから、一緒に居るだけで幸せになる、その子が淹れるお茶すら有難いって大事にされますわ。
たとえ、その子の生まれが平民だろうとね」
聖女は貴族や平民ではなく「聖女」って身分ならしい。
聖女の素質があっても、そのことに気付いていない人もいるかもしれない。
その人はどんな暮らしをしてるんだろうか?
もし、その人が自分の素質に気付いたなら、そういう仕事に就きたいって思うんだろうか?
ふと、コリンはシークさんを想った。
シークさんは(女じゃないから聖女じゃないだろうけど)一緒に居るだけで幸せになって、シークさんが作るご飯を食べると元気になれる‥シークさんは「そういう人」なのかもしれない。
シークさんの魔力は多くないけど、優しい風属性の魔力だ。
癒しの風って言われるように、聖女(男なら神官? )には元々風属性だったものも多いって聞く。
そして、シークさんは優しくって困ってる人を頬って置けない性格だ。
素質としては十分。可能性としても十分だ。
シークさんは、「君にはどうやらそういう能力があるようだ」って誰かに言われたら「じゃあその力を生かした職業に就こう」って思うんだろうか?
「シークさんは‥
冒険者をやめたとしたら‥何になりたい? 」
シークが冒険者になっているのは、「そうする以外の生き方を知らなかったから」だろう。
‥そんな人は多い。
それを言ったら、簀巻き魔術士の状況となんにも変わらないんだけど‥。
シークは困惑するかなって思った。
急に何? って思うかなって。
だけど、シークは
「食堂を始めてもいいかなって。
森で知り合いの冒険者に会った時なんかに、食事を分けてあげたことがあるんだけど、そいつらがね、皆「元気出た! 力が湧いてきた! 」って言って笑顔になるんだ。
この前ギルドで奴らに会った時、俺のご飯が恋しいって言ってて‥。
それ聞いてたら何となく‥そんな暮らし方もあるかなって」
って照れくさそうに微笑んだんだ。
コリンは驚いて‥
それから‥凄く嬉しそうに微笑んだ。
「ぴったりだと思います! 」
その横に自分が居れたらいいのにって思う。
これから先も僕は誓約士を続けるだろう。だけど、人に優しくない誓約士にならないように‥僕は優しい人の傍に居たいって思う。‥そんな理由は身勝手だってことは分かる。
もしそうすることによって、シークの幸せの邪魔になるんだったら‥ダメだって頭では分かってる。だけど‥
泣きそうになったコリンに、シークは不安そうに
「そうなったとしても、コリンは俺の傍に居てくれる? 」
って言った。
コリンの涙腺が決壊して涙がもう‥滝のように溢れる。
シークと見つめ合おうとしたコリンを邪魔するように
「あ! 僕も絶対行きます! 」
って言ったのは、ロナウ。
「勿論私も行きますわ。それどころか、給仕のお手伝いもしましてよ! 」
そして、フタバ。
「専属契約結んで昼と夜運んでもらおうかな~」
ザッカ。
「それはいいですね」
ナナフル。
「‥俺も、自分のしたいことに挑戦してみようかな」
ぼそりとアンバーが呟いた。
「したいこと? 」
全員の視線がアンバーに集まる。
世界征服??
そんな物騒なことを考えていたら
アンバーは気配でそれを察したのか苦笑いして
「俺は、‥きちんと魔術を学んでみたい。アカデミーでも魔塔でもいいんだけど‥どこかで。‥その為に今までの罪を償わないとなって思う。
今回のことが終わったら‥きちんと‥」
それは、僕らにとっては凄く悲しくって‥凄く(アンバーと一生会えなくなりそうで)怖いことだったけど、そう言ったアンバーが何か凄くすっきりした顔をしていたから‥
皆は拍手して、アンバーの新しい決意を祝ったんだ。
さっきのフタバの話を、ついさっき簀巻き魔術士が連れていかれたドアをぼんやり見つめながらコリンが呟いた。
光属性持ちだからって全員聖女になるわけでは無い。
魔が差して、闇属性を持ったからっていっても、全員悪人になるわけでは無い。
なりたいものに、なれる素質はあるけどならない人もいるし、なりたいものに気付いていない人もいる。
なりたいものになれる人はほんの一握りの幸福な人。
だけど‥なりたいものに気付けた人ってのも幸福だと思う。
中には、それにすら気づかずに‥気付く間もないくらい時間に追われて暮らしている人だっている。
さっきの経済上の理由で子供に聖女を諦めさせた親だって、‥ホントは好きなとさせてやりたかったって悔やんでる親もいるだろう。
コリンが思ったのはそれ。
「さあなあ‥。そもそも好きな物っていうのも分からず生きて来たのかもなあ。‥それって可哀そうだな」
ってロナウが言うと、シークとザッカが頷いた。
「見つかるといいわね。‥例え、この先何にもなれなくても、流されて何となく生きるんじゃなくて、「こんな道もあるかもしれないな」ってものが見つかるといいわね」
そう言って微笑むフタバは、優しい。
さっきの簀巻き魔術士が最後に浄化されたような顔をしてフタバを見てるのを見たとき、
この人たちにはフタバちゃんが聖女様に見えてるのかもなあ。
って思った。
‥きっとホントの聖女様には会ったことないだろう。彼らにとって、フタバちゃんが聖女様に見えたなら、フタバちゃんによって救われたのなら‥それでいい。
「聖女様‥かあ」
ぽつりとコリンが呟く。
教会時代。コリンは「汚い自分」を見られるのが怖くて、彼女たちに会わないように暮らして来た。
だから、コリンは聖女様をあまり知らない。
「聖女になる人ってのは、凄く人間が出来てるんだろうな。
‥まさに特別って感じだよな。
無償の愛‥美しいね」
ロナウがうっとりとした顔をする。ロナウは聖女様に憧れてた男子生徒の一人だった様だ。
コリンは
「‥そうだね」
とだけ呟いて、居心地悪そうな顔をする。
どちらかというと、自分はあっちの‥簀巻き魔術士寄りだったからな‥って反省しかない。
コリンが項垂れていると、フタバが首を傾げて
「確かにね‥
親に反対されて我に返る子もいるんだけど‥
気が付いたら聖女になってたって子も多いよ。
優しい子が人を助けたいって思う。そして、どうやら自分にはそれを出来る能力があるらしい。助けているうちにレベルが上がってきた! 私凄い! って思う。
助けた人は自分の事を聖女って呼んで、有難がる‥お礼を言ってくれる。嬉しい。教会も勧めてくれる。なら、なるしかないんじゃない? って思う。
そして、気が付けば聖女になっていた。そういう子」
どちらかというと、そういう子の方が多いらしい。
「天真爛漫な世間知らずな子が多いから」
っていうのは‥でも、ちょっと口が悪すぎる‥かなあ。
純粋な子が多いって言って欲しい‥。
でも、そんな純粋で優しい子が、経済的な理由から「お金にならない」聖女になることを親に反対されて、そしてその子も(泣く泣く)それに納得する。
「でも‥その子は諦めがつくんだろうか。
だって、その子は当たり前に人を助けたい人間なんだから‥」
心配そうにコリンが聞くと
「私の友達は、かなり努力して聖女紋を赤の医療師紋に変えて赤の医療師になりましたわ。今は、診療所で働いてるわ。診療所だったら、給料もいいからご両親も納得なさってたし。
要は、自分の納得できる範囲で妥協することも大事って話なんでしょうね」
フタバは微笑んで言って、コリンはほっとした顔で微笑んだ。
形は違えど、人の為になる仕事ってことだろう。
よかったよかった‥
と、
「聖女と医療師ってどう違うんだ? 」
聞いたのはザッカだ。
フタバが頷いて、
「聖女は呪いや「心の病」を癒し、医療師は「身体の病」を癒します。
癒し方も、聖女の場合は「魔力の不調」である呪いを「どんな呪いであろうとも」すべて消し去ります。
医療師は‥怪我が治った状態に「早送り」します」
そう簡潔に説明した。
そう言えばコリンから昔そんな話聞いたな、とザッカたちは思った。
「皆そうなの? 」
ザッカがフタバに聞く。
「え? 」
フタバが首を傾げる。
「光属性持ちでも聖女にならなかった子は、皆‥赤(もしくは青)の医療師になるの? 」
ザッカの質問にフタバが微かに微笑む。
「そうじゃないですわ。
‥そんな人の方が稀です。
色々です。
優しい人を望む金持ちに望まれ結婚する人が多いですわね。
大勢の人を癒すのではなく、愛する人とその家族を癒す‥って感じかしら?
‥聖女紋を持ってる子は、皆優しいから、一緒に居るだけで幸せになる、その子が淹れるお茶すら有難いって大事にされますわ。
たとえ、その子の生まれが平民だろうとね」
聖女は貴族や平民ではなく「聖女」って身分ならしい。
聖女の素質があっても、そのことに気付いていない人もいるかもしれない。
その人はどんな暮らしをしてるんだろうか?
もし、その人が自分の素質に気付いたなら、そういう仕事に就きたいって思うんだろうか?
ふと、コリンはシークさんを想った。
シークさんは(女じゃないから聖女じゃないだろうけど)一緒に居るだけで幸せになって、シークさんが作るご飯を食べると元気になれる‥シークさんは「そういう人」なのかもしれない。
シークさんの魔力は多くないけど、優しい風属性の魔力だ。
癒しの風って言われるように、聖女(男なら神官? )には元々風属性だったものも多いって聞く。
そして、シークさんは優しくって困ってる人を頬って置けない性格だ。
素質としては十分。可能性としても十分だ。
シークさんは、「君にはどうやらそういう能力があるようだ」って誰かに言われたら「じゃあその力を生かした職業に就こう」って思うんだろうか?
「シークさんは‥
冒険者をやめたとしたら‥何になりたい? 」
シークが冒険者になっているのは、「そうする以外の生き方を知らなかったから」だろう。
‥そんな人は多い。
それを言ったら、簀巻き魔術士の状況となんにも変わらないんだけど‥。
シークは困惑するかなって思った。
急に何? って思うかなって。
だけど、シークは
「食堂を始めてもいいかなって。
森で知り合いの冒険者に会った時なんかに、食事を分けてあげたことがあるんだけど、そいつらがね、皆「元気出た! 力が湧いてきた! 」って言って笑顔になるんだ。
この前ギルドで奴らに会った時、俺のご飯が恋しいって言ってて‥。
それ聞いてたら何となく‥そんな暮らし方もあるかなって」
って照れくさそうに微笑んだんだ。
コリンは驚いて‥
それから‥凄く嬉しそうに微笑んだ。
「ぴったりだと思います! 」
その横に自分が居れたらいいのにって思う。
これから先も僕は誓約士を続けるだろう。だけど、人に優しくない誓約士にならないように‥僕は優しい人の傍に居たいって思う。‥そんな理由は身勝手だってことは分かる。
もしそうすることによって、シークの幸せの邪魔になるんだったら‥ダメだって頭では分かってる。だけど‥
泣きそうになったコリンに、シークは不安そうに
「そうなったとしても、コリンは俺の傍に居てくれる? 」
って言った。
コリンの涙腺が決壊して涙がもう‥滝のように溢れる。
シークと見つめ合おうとしたコリンを邪魔するように
「あ! 僕も絶対行きます! 」
って言ったのは、ロナウ。
「勿論私も行きますわ。それどころか、給仕のお手伝いもしましてよ! 」
そして、フタバ。
「専属契約結んで昼と夜運んでもらおうかな~」
ザッカ。
「それはいいですね」
ナナフル。
「‥俺も、自分のしたいことに挑戦してみようかな」
ぼそりとアンバーが呟いた。
「したいこと? 」
全員の視線がアンバーに集まる。
世界征服??
そんな物騒なことを考えていたら
アンバーは気配でそれを察したのか苦笑いして
「俺は、‥きちんと魔術を学んでみたい。アカデミーでも魔塔でもいいんだけど‥どこかで。‥その為に今までの罪を償わないとなって思う。
今回のことが終わったら‥きちんと‥」
それは、僕らにとっては凄く悲しくって‥凄く(アンバーと一生会えなくなりそうで)怖いことだったけど、そう言ったアンバーが何か凄くすっきりした顔をしていたから‥
皆は拍手して、アンバーの新しい決意を祝ったんだ。
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