上 下
260 / 310

254.冷静になる。

しおりを挟む
 結局ザッカさんの事務所に着いたのは夜中だった。
 フタバちゃんの家で、「影ロナウ」の様子の報告をフタバちゃんの部下の人から聞いたり‥色々と「居なかった間」の仕事が溜まっている。
 フタバちゃんが代わりに管理してくれてるっていっても、やっぱり自分しかできないこともあるからね。
 自分が居なかった‥関わっていなかった間も、勿論状況は変わってるわけで。
 それに全部目を通して、分からないところを全部聞いていると結構時間を取られた。
 ザッカさんたちと会う前に、そういう情報は全部頭に入れておきたい。
 家族みたいだけど、甘え切っちゃいけない。
 ‥特に今は。
 助けてもらって当たり前とか絶対考えちゃいけない。
 僕は‥近頃ちょっと浮かれてた。
 今回、久し振りに職場に戻って‥悲しいかなそれを再確認した。

 民間人を巻き込むことは絶対しないように。
 たとえ、それを君の仲間が許しても、だ。
 世間はそんなこと、思わない。
 
 おやっさんの言葉、まるで頭から氷水をぶっかけられたような気持がした。
 ‥今までのほほんと温泉に浸かっていい気分になってたのに、だ。
 今は頭が混乱して「一人で」「これから」をどうするか、とか計画できないけど‥そんなこと言ってられない。
 皆には協力してもらうけど、絶対に危険な目に合わせない、とか‥それを一番‥念頭に置いておかないといけないってことが大切。
 今回ね、誓約士協会に行ったのは‥フタバちゃんたちに言った「証人になってもらって無駄死にしない為」ってのも確かにあるんだけど、一番の理由は「主導権をあっちに譲る」ってことだったんだ。
 僕ら主体で
 僕らが軸になって‥
 ‥僕らだけで‥
 じゃなくって、僕らは誓約士協会の主導の下で邪魔にならない様に僕らの目的を果たす‥ってこと。
 大きな仕事「魔術士協会の不正を暴く」とか「魔薬の売人の逮捕」「魔薬の販売ルートの根絶」とかは誓約士協会に任せる。
 影ロナウを使っての薬草工場の妨害やなんかは‥だけど続けていくつもりだ。
 手柄とかも譲るつもりはない。
 この先、ロナウやフタバの就職やらなんかにプラスになるように交渉材料として使っていきたい。
 だけどね、
 これ以上危険なことをするのは‥やめようって思うんだ。
 怖気づいた‥とかじゃなくって、無駄死にしても仕方がないんじゃないかなって。
 ‥嘘。
 怖気づいた。
 皆と離れて一人で誓約士協会にいた時、急にね‥怖くなったんだ。
 今、こんな少しの間なのに‥僕は皆と離れるのが嫌だって思ってる。
 なのに‥このまま永遠に皆と離れ離れになったら? ‥誰かを永遠に失ってしまったりしたら? 
 そんなことを考えると‥もう正気でいられない気持ちになった。
 だって今回僕たちがしようとしてることは‥とてつもなく危険なことだから‥
 そういうこと‥誰かが死んでしまうかもしれないってこと‥当たり前にある。
 そう気付いた。
 だって‥僕らよりずっと「半端じゃない魔術士」の集団である誓約士協会が‥僕の話を聞いて表情を曇らせたんだ。それだけ‥ヤバいことだって認めたんだ。
 あの時のおやっさんたちの‥見たことない程真剣な顔見た瞬間‥ことの重大さを再確認した。
 改めて‥自覚した。
 だから
 今までよりずっと‥そのことについて考えた。
 そしたら‥ホントに怖くなったんだ。
 もう‥一人でいるのが無理って思う位怖くって‥でも、泣きつく相手はここにはいない。
 優しい言葉を掛けてくれるシークさんはいないし、
 「大丈夫だって」って言って苦笑いしてくれる頼もしいザッカさんやフタバちゃん、ナナフルさんもいない。
 「何、怖気づいてんの? かぁわいい。‥慰めてやろうか? 」って揶揄って‥元気づけてくれるアンバーも居なければ、‥見てるだけで「どうでもいいか」って気分にさせてくれるロナウもいない。
 「怖ければ一晩中起きて皆で宴会でもするか! 」って大笑いして‥総てを包み込んで見守ってくれる家族も‥いない。
 今いないだけで、一生いないわけじゃない。
 今は
 だけど‥一生の別れもあり得る‥
 それは‥とてつもなく‥怖い。

 だから‥考えた。
 考えたら、
 そんなに大きなことは「個人ですること」を超えてる。
 って‥思えたんだ。‥気付いたんだ。
 気付いて‥怖気づいたって自分で認めたら‥気持ちがふっと軽くなったし‥今までの自分の傲慢さや我が儘勝手で自分勝手だったことが無性に腹立たしくなって‥恥ずかしくなった。
 ゴメン!
 ‥ホントにすみません‥
 って謝らないと気が済まない~って感じになった。
 しばらくはそんな自己嫌悪で悶絶して‥
 それが落ち着いたらね、
 そういえば‥僕らには僕らでしないといけないことがある。
 って気付いた。
 あれもこれも‥ってテンパって自分たちのしなきゃいけないことが後回しになってた。
 今回おやっさんに報告して、おやっさんと話している時に、気付いた。

 ‥おやっさんに報告できない、内密に片付けとかなきゃいけないことあったわ、って。

 ナナフルさんの家族のことを調べる‥とか、
 僕らの同級生とかが魔薬の使用もしくは所持で捕まらない様にこっそり証拠隠滅しておく‥とか。
 何よりも‥僕らの仲間であるアンバーを悪の組織から守ること。
 僕らがしでかした「なんか問題がありそうな行動」はないかな? とか。もしあったら、証拠隠滅しておかなきゃな‥とか。

 そういうこと。
 まずはそれを片付けることが先かなって‥思ったんだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ラストダンスは僕と

BL / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:292

愛されベータ

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:101

君が望んだ終焉の果てに

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:42

サヨナラを言えるまで愛されていて

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:24

幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい

BL / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:210

底辺αは箱庭で溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:8,045pt お気に入り:1,178

いつかの絶望と

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:79

処理中です...