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296.この度、(無事)押しかけ女房になりました! (最終回) 

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(コリンside)

 その後なんだかんだで、三年間頑張った。
 何もなかったかって聞かれるとウソになる。
 ‥何かあったのは、アン先輩の方で僕には何もなかったから、僕的には何もなかった。
 ただ、今まで通り、書類の作成したり、アン先輩の「インタビュー」について行って(連れて行ってもらった)文字に起こしたり(アン先輩と犯人の会話を文字にすることね)もさせてもらった。聞きだし方とか凄く勉強になることが多くって行ってよかった! この知識は今後の僕がインタビュアー(雑誌社での)をしていく上で役に立つな! って思った。
 情報屋に聞きに行く頻度は‥ちょっと減ったかな。
 あれからアン先輩は「今代のアン・ジェーンはオ‥私だからな」って言って自分で行くことにした様だ。
「どうせ、コリンがいなくなったら私が行かなきゃならないし」
 ‥って言いながら、いそいそと出掛けて行く。
 この頃何となくジャイルさんとイイ感じっぽい?
 ‥僕、「あの人怪しい‥」って忠告しましたよね??
 でも‥恋愛そういうのは当人の問題だからそれ以上僕が言えることはない。
 って言うか、僕がアン先輩に再度忠告しようとしたとき‥ジャイルさんが振り向いて‥僕を見たんだ。その時のジャイルさんの表情が怖かった。決して怒ってるわけじゃないよ。ただ‥笑ってなかったんだ。あのいつも開いてるのか閉まってるのか分からない目を微かに開いて‥僕を見たんだ。僕と目があったんだ。ぞくっとしたね。蛇に睨まれた蛙ってこういうのいうんじゃないかなって‥。それ以後、怖くってさ!! ああいうの、邪眼っていうのかな? 
 いや、分からないでしょ? 目が合っただけじゃんって思うでしょ?
 ‥どれくらい怖かったかって、真夜中に物音がしたな‥って思って建て付けの悪い引き戸(この場合引き戸の方が怖さ倍増)を開けた時、中型魔獣の光る赤い目と目が合った‥それっ位の怖さ? いや違うか‥そういう「わあ、びっくりした! 」って感じじゃない‥そういうのは「ったく、脅かすなよ! 」って条件反射で杖で一殴りすれば済む。‥そういう物理的にどうにかなるような話じゃない。
 そうだな‥さっきまで微笑んでたナナフルさんに僕の悪戯がバレて、ふっと‥笑みが深まって‥口元は依然として笑ってるのに目が笑ってない‥って状態になった‥そんな怖さ。
 ‥表現できないけど、それっ位怖かったってこと。(← 場数をある程度踏んでるコリンだからこれくらいで済んだけど、きっと普通の人だったら縮み上がって、腰抜かすか、そのまま逃げだすレベルの怖さだった)
 ジャイルさんの開いた目なんてもう二度と見たくない。
 先輩も大人だ。自分でどうにかする‥だろう。
 そんな僕のことをサンテスさんが「薄情な後輩だなあ」って言ってるのも‥無視だ。
 会う人間は、第二の魔王(きっとアンバーより強い)・ジャイルさん、サンテスさん、アン先輩‥そしてたくさんの犯罪者。
 それだけ。
 犯罪者にもそれぞれの過去があったってことが分かった(情報を纏めるのは僕だからね)。色んな人生を知ったような気持になった。
 インタビューで知ったこと、
 人は、驚くほど簡単に嘘をつく。
 嘘をつき続けると、自分でも本当なような気になって‥やがて演技だか、本当だか分からなくなる。周りの人間も隣人(として暮らしている犯人)がまさか嘘をついてるなんて思わないし、もしかしたら犯人自身も「これが本当かも? 」って思って‥暮らしていける。
 だけど、嘘は決して本当にはならない。
 誓約は‥決して嘘を許さない。
 ‥嘘は周りの人間を傷つけ(騙されたって気付いた時ね)‥最後は自分も傷付く。
 今まで親しかった人(最悪な場合は恋人)に
「信じてたのに‥」
 って涙をためた目で見られたときの犯人の顔は‥忘れられそうにない。
 ‥悪いことはするもんじゃない。
 人生を聞き出す「インタビュアー」は僕には出来そうにないなあ‥なんて思ったけど、今後雑誌社でインタビュアーをするんであったらインタビュイー(インタビューされる側の人)は選べないからね。その人のつらい過去を聞き出さなければいけない仕事にも‥いずれ行き当たるかもしれない。(注:ザッカさんがテーマを決めてる限り雑誌社の仕事としてはそんな重いネタを書くことはない)
 インタビュアーって僕に続けられるだろうか‥。
 そんなことを考えたり。
 だけどね。
 悪いことばっかりじゃない。
 犯人は‥全員とは言わないけど、大多数が
「‥話してスッキリした」
 って‥ホントにすっきりした顔をするんだ。
「アンタに聞いてもらえてよかった‥」
 って。
 それはアン先輩だから言ってもらえる言葉なんだって思う。
 ‥秘密って、持ってる方も辛いもんね。その重荷から解放されるってことは‥きっと僕らが思う以上にスッキリするんだろう。だけどどんな聞き方されてもいいわけでもないし、誰に話してもいいってわけでは無い。
 そういうの、なんとなく理解できるけど、「どんな聞き方すればいいか」「どんな人になら話してもいいって思えるのか」ってことは‥まだ分からない。
 ずっと見せてもらってるけど、別にアン先輩が犯人を宥めたり賺したり、慰めたりしてる様子は無いのに‥。なんでだろう? 
 ‥それがアン先輩の「凄さ」なんだろう。
 僕もいつかそんな凄いインタビュアーになりたいなって思った。

 誓約士の優秀さは、魔術の腕でも誓約のテクニックでも(でも、これは大事)、とっさの時の判断力や対抗魔術(これも大事)でも、インタビューのテクニックだけでもない。(でも、これも大事‥つまり、全部総合的に大事ってこと?? )そういうのは、訓練だけでできる様になるわけでは無い。(つまり人より経験を積んでしかも訓練もしろってことかな?? )

 それが分かったのはよかった。
「僕はまだまだな」
 アン先輩に笑顔でお礼を言って、地獄の寮を離れた。
 これでホントにさよなら。もう、ジャイルさんとアン先輩がどうなろうが僕には関係ないんだからね!!
 でも‥経験的に、このままじゃ終われないんだろうな‥とはちょっと知ってる。‥ややこしいことってのは、腐れ縁みたくいつまでも付きまとうもんだ。(と、それはまた別の話で)‥あるかな別の話‥。


「ただいまぁ! 」
 懐かしの小さな事務所。
 ナナフルさんとザッカさんの待つ‥僕の第二の家。
 扉を開けた瞬間、ナナフルさんが僕を抱きしめてくれた。
「‥コリン。大きくなったね。身長が伸びた。‥でも、何。ガリガリじゃない。誓約士協会ではご飯をあんまり食べさせてもらってなかったの? ‥美味しくなかったの? 」
 ナナフルさんが僕を正面からしみじみ見ながら‥怒ってる。
 も~ナナフルさんは心配性なんだから。相変わらずだなあって思って苦笑いしたら‥超激泣きしてるザッカさんと目が合った。
「ホントにガリガリに痩せて‥っ。コリン苦労したんだなぁ! (号泣)大丈夫だ。これからいっぱい食べさせてやるからなっ(号泣)!! 」
 ‥いや、食べさせてもらってなかったわけでは無かったですよ。きっと、普通の人なら大丈夫だったかと‥でも、僕にとっては少なかったかなあってだけで‥。あと、確かに全然美味しくなかったです。食べなきゃどうにもならないし、ご飯残すとか有り得ないから食べましたけど、もうこれ以上絶対食べたく無いって位美味しくなかったです。
 あの味がしないスープとか‥! もう、一生見たくないです。煮過ぎた大麦の粥とか‥! 特にもう!! 見たくないです。
 そもそも、素材も水も問題ないはずなのに、何故ああなる?? もしかしてあれか? あれが素材を殺す料理だったのか??  そうだよな、悪い素材を使ってたってわけでは無いのにあの味とか‥あり得ないよね!? 
 因みにこのメニュー、アン先輩も同じなのか? って思って、ある日の食卓を見てみたら‥若干違ってた。スープは明らかに濃い感じだったし、大麦の粥も煮すぎてなかった。それを見て、ピンと来たね。
 誓約士(ランク上)のご飯を出した残りに水を足したのが、誓約士(ランク下)のご飯だと‥!
 ‥もうちょっと考えろ。調理部。僕が口出しできる立場になったらそこら辺から改革するぞ。
 そんなことを思い出し若干涙ぐんでいると、ナナフルさんに優しく部屋に入るように促された。
 懐かしいダイニングテーブル。椅子に座ると、ほどなくして暖かい具たっぷりスープが運ばれて来た。
 入ってる肉は‥C肉なんかじゃない、ソーセージ! 
「さ、コリン冷めないうちに食べて」
 いつもの「おい、罰則(←罰則者を馬鹿にしてるらしく、厨房の人は罰則者である僕らを罰則と呼んでいた)さっさと食え。洗い物は自分たちでしとけ」っていう‥冷たい表情じゃない。優しく微笑む美しいナナフルさん!! 
 一家に一人欲しい! 
 って目でナナフルさんを見てるのがバレたらしく、「やらんぞ」ってザッカさんに睨まれた。
 いや、‥そういう意味じゃないですって‥。多分。
 苦笑いしてスープを匙ですくう。
 一口食べて‥涙が出そうになる。
 この味って‥
 慌てて部屋の中を見回した。
 さっき溜まった涙が一気に零れ落ちる。
「‥シークさん‥」
 そこには、三年分カッコよくなったシークさんがいた。
「‥お帰り」
 なんで? 
 涙を滝のように流しながら見上げると、苦笑いしたシークさんが
「‥もう30近いから大きな仕事を連続して受けるのは止めてるんだ。その代わり余った時間でここに料理を作りに来てる」
 ‥それは実力の無駄使いじゃ‥って思ったけど、シークさんなりの「冒険者引退後の生活設計」の一環なのかもしれない。‥僕がどうこう言うことじゃないってすぐに思い直した。
「俺たちが無茶言ったんだ」
 ってザッカさん。
 僕との接点を切らしたくないっていう「計らい」なのは‥勿論バレてる。
 僕がシークさんに別れを告げたって話は‥シークさんから聞いたのかな? ‥本心じゃなかったってことは‥ザッカさんだから分かっちゃったんだろう。
「コリンに振られたけど‥俺はコリンの事忘れられなかった。‥迷惑だったら、もう会わないようにする」
 ってシークさんの言葉も聞き終わらないうちに‥
 抱き着いてた。
「会いたかったよう‥っ! 」
 ずっと‥ずっと会いたかった! 
「僕が‥僕から別れるって言ったのに‥だのに‥ずっと‥っ! 後悔して‥ずっと会いたかった‥っ! シークさんにもし恋人が出来てたとしたら、絶対‥笑って会えない‥っだから別れようって‥言っちゃったんだ‥っ。僕が‥自分が傷つきたくなくて‥っ! シークさんの事信じられなくって‥っ! ごめんなさい‥っ! ゴメン‥っ! 僕はまだ‥っ! シークさんが好き‥っ!! 」
 もう、涙も鼻もぐしょぐしょだ。
 結局僕が泣き止んだのは、シークさんの服を涙と鼻水でぐしょぐしょにしつくした後だった。もう‥水でも浴びたのか? って位濡らしてしまった。だけど、シークさんは‥きっと冷たかっただろうに‥僕の頭を黙って撫ぜてくれた。‥それどころか! 泣き止んで「ごめんなさい‥」って蚊の鳴くような声で謝った僕を優しく抱きしめてくれたんだよ! 好き! 好きすぎる!!
 僕は、シークさんからいったん離れて、涙をぐいっとローブで拭くと(いかにも悪目立ちする禍々しさMAXの誓約士の黒い制服じゃないよ! グレイの一般的なローブだよ!! )ザッカさんに向き返った。
 勢いよくお辞儀すると、
「‥ザッカさん、僕ね。平民だから、将来魔力が枯渇しないとも限らないし、いつまでも誓約士ではいられないかもしれないけど‥僕ね、今まで三年間ずっと、一流のインタビュアーの元で修行してきた。だから‥これからきっとこの会社の役に立てるよ。だからね、僕をこの会社にずっと置いてくださいっ! 
 僕が誓約士でなくなっても、一流のインタビュアーの腕は残る‥から! 。シークさんが冒険者を引退してご飯屋さんになるみたいに、僕もずっと大好きなこの会社で‥大好きな仕事をしてたいんです。ずっと、ここで働きたいんです! 
 あと‥あのね。
 ‥ザッカさん、シークさんを今日ここに連れてきてくれてありがとう。
 僕の初めてインタビューの仕事にシークさんを選んでくれて、ありがとう‥! 」
 それだけ‥途中何度かつっかえながら一生懸命言った。
 ザッカさんは驚いた表情でそれを聞いていたけど、聞き終わるとあったかい笑いを浮かべて「おお」って頷いた。
「当たり前だ。従業員。これからも頑張ってくれよ」
 って僕の肩を軽くたたくと、
「結婚後はどこからここに通うんだ? 」
 って冗談っぽく聞いて来た。
 結婚!? 
 それは気が早い‥!!
 真っ赤になってシークさんを盗み見すると、シークさんはザッカさんに、
「取り敢えずは俺の家からだけど‥あそこは単身者用の家だから、休日に二人で探しに行こうって思ってる」
 って言ったんだ。
 ‥何それ、幸せ過ぎるんだけど!! 
 真っ赤になる僕に、ナナフルさんがクスクス笑いながら
「さ、スープが冷めちゃうわよ」
 って微笑んだ。
 ‥笑顔、癒される。美しい、好き。‥怒ったら氷の女王みたいに怖いけど。
 でも‥
「ナナフルさん、僕ね、ナナフルさんの怒ってる時の笑顔が一番怖いって思ってたけど‥もっと怖い悪魔より怖い人に会ったよ。その人ね、‥絶対目だけで人を殺せる人だった」
 席に戻って、もぐもぐスープを食べながら、思い出話をすると‥
 目の前には‥氷の女王の様なナナフルさん‥。
「‥コリンは今まで怒る私が一番怖いって思ってたの? 」
 笑顔が‥怖い。
 違った。
 美形の笑顔は‥胡散臭い顔の悪魔の流し目(?)よりずっと怖い。
 改めて考えを正す僕だった。

 コリン・コーナー改め、コリン・ナーサリーです。誓約士で、インタビュアー見習いです。それで‥この度、はれてシークさんの押しかけ女房になれました! 
 ‥世界中に声を大にして伝えたい。‥知らしめたい。シークさんは僕のだから、絶対誰も奪いに来ないでねって、言いたい。まあ、来ても、僕が返り討ちにするけどね! なんてったって、僕は最強だからね! 

 改めて‥幸せを噛みしめた僕だった。
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みんなの感想(2件)

ヒカリ
2022.07.09 ヒカリ

誰とではないとはいえども、自分から好き好きと迫ってシークをその気にさせておいてアンバーとも軽いキスではないのを平気でできて、それを悪いとも思っていないコリンにどうしても気持ちが受け付けず感想残してしまいました…

コリン側の関係者ばかりなのでシーク側の話もよめたら嬉しいです。。
コリン以外にもシークの良さをわかってくれるかたはいないのでしょうか…

文月
2022.07.10 文月

有難うございます!
是非、シーク側の話も書いていきますね!
シークは、事務所の皆といい関係を築いていってます♪
シークが今後幸せになる話を書いていきます! 今後ともよろしくお願いいたします♪

解除
ヒカリ
2022.07.07 ヒカリ

シークがかわいそうです。
別れさせて(既に別れてた?)シークを自由にしてあげてほしいです。
尻軽コリンはアンバーがいますし所詮シークのことが好きとかまやかしなのでしょう。
他人を思いやる気持ちのない自分勝手なコリンから早くシークを解放してあげてほしいです。

文月
2022.07.08 文月

感想有難うございます!!
シークをご心配頂き有難うございます!
大好きなキャラクターだから嬉しいです!
コリンは‥ゆっくり成長させていきたいなあ‥と思ってます(涙)

解除
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