相生様が偽物だということは誰も気づいていない。

文月

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一章.相生 四朗

3.水鏡

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「相生様、テニスも上手いんだね。あの相崎様とラリーがあんなに続いて」
「まさに、互角って感じよね」
 女子がうっとりした声をだす。
 相生君たちは一部の生徒の間から様付で呼ばれて、ファンクラブまである。全く、ドラマか漫画の世界だね。

 相生君と相崎君か。親戚だから、息が合うのかも。

 と、田中君は考えかけてすぐに、「ないな」とその考えを消した。
 ‥関係ない。親戚関係ないよ。

 相生君と相崎君、相馬君、そして相模さん(という人)は、親戚ならしい。この間じいちゃんから聞いた情報だ。人気者の接点。皆が喜ぶレア情報だ! 
 このレア情報を披露したらみんなびっくりするだろうな~って思うけど、この情報を喜ぶような華やかな人々たち(所謂リア充とか言う住む世界の違う方々)とは別に知り合いではない。
 僕同様地味な僕の友達に披露したところで、
「親戚なんだ」
「へ~」
 っで、終わりだ。
 せっかくのレア情報。いっそのこと、言わないで僕だけの秘密というのもいいかもしれない。
 それって、なんか優越感じゃないけど‥よくない?

「でも、体力はないんだよな。相生君。ここらでそろそろ強烈サーブ打って試合終了、だな。おっと、今回は相崎君に返されて相生君の負け、か」

 隣にいた友達の池谷が面白そうに言った。頷いて僕も相生君を見る。肩をちょっとすくめて悔しそうにしている。凄いな、イケメンというのはそういうしぐさも様になるんだ。
「うん、相生君は体力ないよな。しかも、相崎君とこんなラリーしてるかと思ったら、田中相手にガタガタ、とか、波があるよな」
 と、今度は佐藤。佐藤は別に友人って程でもない。一緒にいたわけでもなく、たまたま居合わせたって感じ。
 佐藤は‥そういえばなんでここに居たんだろ? 
 にしても‥
 え、何? 僕の話? 急に「僕相手にガタガタ」とか‥なんか、嫌な言い方じゃない??
 「(僕が)下手だから調子が狂うんじゃない? 」って言いたいの??
 一瞬ムッと来た僕に
「上手いから、下手な人とやると‥調子が狂うんじゃない? 」
 女子が言った。‥予想通りの反応来たよ。ったく!!
 僕、関係なくない?? それこそとばっちりじゃない??
 それもこれも佐藤のせい。なんだ?? 佐藤。そんなこと言われるほど、僕はお前と親しくはないはずだ!
「まさにそうだろう。下手なラリーが続いて、まあ、結局最後はあのサーブだ」
 う! 池谷まで‥。
「あのサーブ、あのサーブ、あのサーブって‥ラリーにならないまま終わるゲームもあるよな」
 佐藤が面白そうに笑う。
「あるある。相生君は体力がないから。田中戦も最後にはそうなってた」
 池谷も笑いながら相槌を打つ。‥言われたい放題だな。相生君(と僕)
 ほらほら、女子の皆さんに呆れたような顔をされていますよ。
 学園のアイドルに「体力無い」はダメでしょ‥。悪口デショ‥。
 そんなこと言ってたら女子の皆さんに怒られますヨ。
 そんな懸念は無関係とばかりに、女子の皆さんは
「パワーだったら相馬君よね。技術の相生様、パワーの相馬君って感じ? 相崎君はその間かなあ。バランスがいいのよね」
 うっとりした顔で言った。佐藤たちなんてもう視界に入ってないって感じ。
 女子ってイケメンが好きだよな。ま、相生君はいい奴だから、男にも人気があるんだけど。

「何々? 僕たちの悪口? しんちゃん。駄目だよ? 女の子には優しくしなさいっていつも言ってるでしょ? 」
 女子たちの視線に気付いた相崎君が近づいて来た。
 キラキラオーラが眩しい☆ 
 女子の皆さんは‥もう、僕らのこと「邪魔だから退け」って感じ! もう、全然扱いが違うって感じだ(笑)
「相崎様! 」
 ハートマークになった目で相崎君を見る女子の皆さんに構わず、相生君はタオルを取りに相崎君から離れる。その間、会話なし。思えば、相崎君から相生君に話しかけているのはよく見るけど、相生君から相崎君に話しかけているのって見ないな。

 仲わるいのかな? 

 でも、相崎君は相生君の事「しんちゃん」なんて呼んでいつも親しげに話し掛けてるよな。
 そもそも、しんちゃんって? 四朗だから、しんちゃん? 変なの。
「しんちゃん。本気出してよ~」
 つかつかと相生君のところに歩いて来ながら、相崎君がちょっと「怒ったような」顔をする。相崎君は‥なんて言うか、チャラいんだよねぇ。正統派王子様って感じ。
「何が? 」
 相生君は、顔もあげないで相崎君に返事し、タオルで首なんかを拭いている。
「わかるんだよ? しんちゃんが本気出してるか出したないか」
 拗ねる様な表情で相崎君が相生君に言う。
「ふうん」
 興味ない‥って感じで相生君がため息をつく。
 あ、ぴりぴりしだした。こういうのは完璧相生君のせいだ。相生君は相崎くんに冷たすぎる。ほら、いつも一緒にいる相馬君が様子をうかがっている。
 相馬君は本当に面倒見がいい。
 だけど、別に間に割って入ることもしない。ただ、様子をうかがって‥喧嘩になりそうになったら「いくぞ」って相生君を引っ張っていくだけだ。
 そんな相馬君の苦労なんて知ったこっちゃないんだろう相崎君は、
「目を見たらさ」
 ドヤ顔で相馬君に言った。
 目をみたら君が本気じゃないか否か、分かる。
 うわ~、気障~☆
「め? 」
 初めて相生君が顔を上げて相崎君を見る。もう、ドン引きって顔をしていた。

 でも、そうそう、相生君と相馬君って相崎君にこの顔よくするよね。
 っていうか、相生君と相馬君がこんな顔するのは相崎君に対してだけってこと。‥それっ位、相崎君限定でドン引きしてるってこと??
 ‥まあ、そんな顔する位、するのが許されるって位親しいってことだろう。
 あまりにもタイプが違うから今までその考えに及ばなかったけど。親戚って聞いた今なら‥分からないでもない。
 親戚だから、タイプがあんまりにも違うのに、一緒にいるってこと‥かな? 

「目を見たら‥って、なんか意味深っ」
 きゃーって黄色い悲鳴をあげて、女子が騒いている。
 これが僕と池谷だったらこうはならない。「フツメンが何キモいこと言っとんじゃ」って冷たい目で見られて終わりだろう。
 囲まれてる女子に愛想振りまきながら、にこにこと上機嫌な相崎君に
「‥気持ち悪い事言うなよ」
 と、呆れ顔の相生君。
 ‥ホントに親戚なのかしらん。びっくりするほど違うよね‥。

「え? だってそうだよ。しんちゃん、真剣になったら、目の色がちょっと変わるんだよ? 自分のことだから気づいてないでしょ? なんていうか、アンバーっていうの? 薄い目の色がさらに薄くなるの」
「え~見てみたい! 」
 相崎君がますます騒ぐ女子に囲まれる中、相生君はそっとその場から離れていった。相馬君も相生君についてその場を離れる。

 相馬君は、なんだか相生君の影みたい。一部の女子(※ 腐女子の皆様)が「ちょっと怪しい」なんて騒ぐのもなんかわからないでもない。
 相崎君は‥仲が悪いって感じじゃない。構って欲しいから、相生君をわざと怒らてるって感じ。‥だけど、相生君は本気で嫌がってるて感じ‥。
 僕は、相生君の後姿をそっと目で追った。

 どちらかというと、華奢な背中。
 中性的とか、儚いって感じじゃないんだけど、なんか、生気みなぎるって感じじゃないんんだ。

「鏡、みたいなんだよね。ほら、水とか鉄とかに自分がうつるじゃない。キラキラしてる鏡じゃないんだけど、自分が映る‥みたいなさ。ああ、鏡って良いこと言ったな。眼だけじゃなくって、しんちゃんのテニスも剣道も丁度鏡みたいなんだよな。目の前の相手と互角の力で‥丁度、流されるみたいに‥」
「え~凄い! 」
 横では、相変わらず相崎君と女の子たちの声が聞こえている。
 そして、相生君たちの姿は全く見えなくなった。


 ‥水みたいに、あいつに溶けそうになる。違う。あいつにではなく‥溶けそうになる。
 溶ける‥。流される? ‥いずれにせよ、酷くキモチワルイ感覚だ。

 ‥そういえば、「相生は水の一族」って父さんが言ってたな。成程、そういう意味か。

 心の中で、相崎 信濃は思った。
 因みに、相崎は、火の一族と呼ばれている。すべてを巻き込んで燃やしきる火。

 ‥合わないはずだ。

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