愛念

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準備が整い、王太子だったルノワールを呼びに来たメイド長は、ルノワールの部屋の扉を数回叩いたが返事がなく、一声かけて恐る恐る扉を開くと、部屋に充満した血の匂いで目眩がした。窓辺のソファに座るルノワールに近づくと、この血の匂いがルノワールから発せられるものだと気付いたときには、視界に血塗れのルノワールが映った。メイド長は小さく悲鳴を上げたが、ルノワールが辛うじて生きていることに気付き、部屋の外にいた騎士や、通りががりの執事やメイドたちに指示を出し、医者を呼ばせた。部屋の外にいた騎士に血濡れのルノワールをベッドに運ぶように頼み、メイド長は国王陛下に伝えに走った。


騎士達は血濡れのルノワールをソファからベッドに移動させると息を呑んだ。まだ辛うじて生きているルノワールの顔は、苦痛に歪むことなく、穏やかに、これから迎える死を受け入れていた。ソファに座っていた状況から自分で自分を刺したのは目に見えて分かった。だが、ここまで安らかに死を迎え入れる、まだ二十歳にもならない自分たちの護衛対象に恐怖した。

そこに宮廷医師が何人も駆け込んで来て、すぐにルノワールの状態を診た。数人が両足を止血し、傷を縫って塞いだ。首にぱっくりできた切れ目も止血しつつ縫合して無理矢理繋げた。それから、血液が足りていないからと3つほどの輸血袋をルノワールの首や足に繋げ、鎮痛剤と点滴を腕に繋げた。騎士の一人がルノワールを抱え、もうひとりが点滴などの液体の袋をルノワールより高い位置で抱え、メイドたちがベッドのシーツやらクッションやらを変えるのを待った。変えられた真っ白なベッドに降ろされたルノワールはとても儚げで今にも消えてしまいそうだった。ベッドの天蓋の部分に点滴類を掛け、縫合した両足と首に包帯を巻き、シーツを掛け、メイドたちが沢山持ってきたクッションを枕元に敷き詰めると、天蓋を閉め、メイド長が国王陛下を連れてくるのを部屋の壁際で待った。

バタバタとノックもなしに入ってきた国王陛下夫妻に驚いたが、決して表には出さない彼らは流石と言える。国王が乱雑に天蓋を開ければ、国王、皇后ともに息を呑んだ音が響いた。皇后はボロボロと涙を流しながら、冷え切ったルノワールの手を握り項垂れてしまった。メイド長がそんな皇后に椅子を差しだし、皇后も促されるまま座った。国王は医師たちにルノワールの状況を聞き、絶句した。


「...ルノワールの状態は?」
「...はい、両足の太腿を剣で貫いたようで穴が開いている為、縫合して無理矢理塞ぎました。」
「...両足の脹脛は膝裏から踵にかけて割かれており、アキレス腱なども切れているので、歩くのは難しいかと。....こちらも縫合しております。」
「....首に関しては、致命傷を外れていて、....幸運でした。もう少し剣先がずれていたら、即死だったでしょう。こちらも縫合して、包帯を巻いています。声帯に傷がついているので、僅かに話しにくくなっていると思います。」
「...身体全体として、血が足りていないので、輸血をしています。」

「.....っっ。...なぜ、なぜ、こんなことに。」


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