愛念

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本編

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それから半年の間、ルノワールが目を覚ますことはなかった。半年の間、エレオノールとマリアネルが皇后から事情を聞き、お見舞いに来たが眠り続けるルノワールは知る由もない。青白く、儚げなルノワールの顔を見たエレオノールは今まで無視され続けられた義兄が、自分より小さく、今にも消えそうで握った手を離せなかった。エレオノールもマリアネルもルノワールが昔から一人でいるとき、儚げで今にも消えそうだと思っていた事を思い出した。ルノワールは誰に対しても他人行儀で、実の両親ですら、国王陛下、皇后陛下と呼んでいた。マリアネルのこともマリアネル嬢と呼び、一度も許した愛称で呼ぶことはなかった。マリアネルもルノワールの婚約者だったため王宮に住んでいたので、エレオノールとともに毎日のように様子を見に来た。見舞いを繰り返すうちに、エレオノールは久しく呼んでいない義兄をルノ兄と声をかけるようになり、それに習い、マリアネルもルノワールを愛称でルノ様と呼ぶようになっていた。


Φ


目が覚めたとき、ああ、死ねなかったんだ。と落胆した。目だけで天蓋の向こう、窓から入る明かりから今が夜中であることに気付いた。当初の予定通り、足に感覚がなく動かすことは不可能で、少し喜んだ。腕にいくつかの管が繋がっていたが気にせずに、首元を擦れば、包帯が巻かれどうなっているのか分からなかった。管が繋がる腕は、げっそりと痩せ細り、皮と骨しかないという言葉がピッタリだった。少し腕を動かしただけなのに疲労感が否めなくなり、重くなる瞼に逆らうことなく眠りについた。


――――ルノ、....ル、...に、。ルノ兄...。


そう、懐かしい呼び名が耳を掠め、再び目を開けると、僕の細腕を握り、涙を流す義弟が視界に入った。ふと顔を上げた義弟、エレオノールと目が合い、エレオノールは一瞬固まっていたが、「ルノ兄っ!!」と叫ぶと、より一層大粒の涙を流し僕の細腕を額に当て、神に感謝していた。僕は、それを見つめていたが急に扉が開かれて、そちらに視線を送ると、数名の医師といつも僕の部屋の前にいた護衛騎士が入ってきていた。

「エレオノール様!どうされました、か...。」
「...ル、ノワール様。」
「....お目覚めに、なられ、て。」
「....っ。おい、誰か陛下を!陛下を呼んできてくれ!!」

そんな声とともに急に騒がしくなった室内。僕が眠るベッドの周りには医師が集まり、足の具合や首の具合を見つつ、水を飲ませてくれた。飲み込んだときに、僅かな痛みが首に走ったが、昔から痛覚が鈍かった僕には痛みより違和感の方が強かった。

「ルノワール様、飲み込むときに痛くなりますか?」
「...、、や。.....?」

声が出しにくく、『いや』と言ったつもりだったがハクハクと息が漏れ、音になったのは『や』だけだった。

「...ルノワール様、首の傷により、声帯が傷付き、声が出にくくなっているのです。」
「....そ、。」

それならそれでいいと思った。シナリオから外れてしまい、台詞もわからない今、話すことに関して必要性を感じなかった。そこに開けっ放しだった部屋の扉から国王夫妻が入ってきた。

「ルノワールっ!!」

皇后が俺が横たわっているベッドに駆け寄って来て、エレオノールの隣にあった椅子に腰掛けると、エレオノールと同じように涙を流しながら神に感謝していた。それを聞きつつ、皇后の後ろに立つ、国王に視線を送った。

「...ルノワール、....目が覚めて、よかった。」

静かに涙を溢し、医師や騎士たちも静かに涙していた。僕には、何故泣いているのか分からなかった。死ななかったのが残念なのか、目を覚まして嬉しいのか、おそらく後者なのだろうが、前世の記憶内の感情しか分からないので、理解できなかった。今生では両親はいないものとし、シナリオ通りに動いたため、知識や体術は知っていても、この世界での考え方が分からなかった。

分からなかった故に、今までもそうしてきたように、

「...も、しわ、け...あ、...ませ、。」

謝った。だが、不正解だったらしく全員が顔を歪ませていて、怒ったのだろうかと心配したがエレオノールに手を握られて、視線を向けると微笑まれ、怒っていないと分かり安堵した。

「...ルノ兄は、昔から他人の感情が分からなかったよね。」

小さく頷くと、手をぎゅっと握られ、「何故、忘れていたんだろう。」とエレオノールが呟いた。

「ルノ兄は、いつも、誰にでも他人行儀で、俺のことを無視してた。でも、たまに頭を撫でてくれてたのに、...なんで、忘れてたんだろう。」

そう、無視をしていたが、時々、エレオノールのふわふわの髪を撫でたくなり、無意識的に撫でてしまったことがあった。

エレオノールが国王に、目配せし、人払いがされた。室内にはエレオノールと国王夫妻だけ残り、立っていた国王も皇后の隣に椅子を持ってきて座った。

「...ルノワール、お前は何を隠している?」

急に問われ、一瞬驚いたが、何も答えなかった。皇后やエレオノールにも問われたが、答えなかった。暫くして宰相が国王を呼びに来て、国王夫妻は部屋を出て行った。室内はエレオノールと僕のふたりきりだった。


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