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「――お見積もりが出ました。こちら、『ロイヤル・ドリーム・ウェディングプラン』になります」
王都の一等地にある、王室御用達の結婚式場。
そのVIPルームで、担当のウェディングプランナー(笑顔が張り付いたような女性)が、恭しく一枚の紙を差し出した。
「ふむ」
私はその紙を受け取り、一番下の「合計金額」に視線を落とした。
そこに書かれていた数字は、金貨五千枚。
ちょっとした小国の国家予算並みである。
「……なるほど」
私は無表情のまま、隣に座るクラウス公爵を見た。
彼は面白そうに頬杖をついている。
「どうだ、アイーダ? 一生に一度の式だ。これくらい豪華でも私は構わないが」
「閣下。貴方の資産なら痛くも痒くもないでしょう。ですが、これは『プライド』の問題です」
私はスッと立ち上がり、プランナーに向き直った。
「……担当さん。貴女、私を誰だと思っておいでで?」
「は、はい? もちろん、次期ベルンシュタイン公爵夫人となられる、アイーダ様でございます」
「違います。私は『適正価格の守護者』です」
私は懐からマイ電卓を取り出し、バンッ! とテーブルに叩きつけた。
「これから『公開処刑(ライン・チェック)』を行います。覚悟はよろしくて?」
「ひっ……!」
プランナーの笑顔が引きつる。
私は赤ペンを取り出し、見積書の一行目を指した。
「まずこれ。『会場使用料・休日特別加算』金貨五百枚。……高すぎます。平日に変更します」
「えっ? で、でも、多くのゲスト様は平日はお仕事が……」
「有給を取らせればいいのです。招待状に『休みを取らないと今後の取引に影響する』と書けば、全員来ます」
「ご、強引な……!」
「次にこれ。『新婦お色直し・ドレス三着セットプラン』金貨八百枚。……ボッタクリですね。布の原価と縫製工賃を計算しても、この十分の一で作れます」
「そ、それはブランド料といいまして……」
「いりません。ドレスは私がデザインし、懇意にしている下町の職人に縫わせます。持ち込み料? 取ったら私がこの式場を買収して経営陣を入れ替えますよ?」
「ひぃぃっ! 持ち込み料は無料にさせていただきます!」
「よろしい。次。『ウェディングケーキ入刀ナイフ・レンタル料』金貨十枚。……ただのナイフを借りるだけで金貨十枚?」
「装飾が施された特別なナイフですので……」
「不要です。家から包丁を持ってきます」
「ほ、包丁!?」
「よく切れますよ? あるいは、ロベルト殿下の剣を使ってもいいわね。彼は今、私の店で『なんでも係』をしていますから」
「げ、元王子の剣でケーキ入刀……!?」
「話題性も抜群ね。……次、『フラワーシャワー清掃料』金貨五枚。……花びらを片付けるだけで?」
「人件費がかかりますので……」
「ロベルト殿下にやらせます。彼の時給は銀貨二枚です。金貨五枚もあれば、彼を一年雇えますよ」
「ま、また元王子が……!」
私は次々と赤線を引いていく。
『キャンドルサービス(火気厳禁のためLEDに変更)』
『聖歌隊(ミシェルに歌わせる)』
『鳩のリリース(衛生的に却下)』
見積書の金額が、みるみるうちに削ぎ落とされていく。
プランナーはもはや涙目で、助けを求めるようにクラウスを見た。
「こ、公爵閣下……! よろしいのですか!? こんな……生活感溢れる結婚式で!」
しかし、クラウスは満足げに頷いた。
「素晴らしい。私の想像以上のコストカットだ」
「か、閣下!?」
「『愛は金では買えない』と言うが、彼女は『金で愛を汚さない』ために戦っているのだ。……実に美しいとは思わんか?」
「変態だ……このカップル、変態だわ……!」
プランナーの心の声が漏れているが、私は気にしない。
「さて、最後の大物です。『引き出物』金貨千枚」
「は、はい! これは削れませんよね!? ゲストへの感謝の品ですから!」
「ええ。感謝は大事です。ですが、カタログギフトのような『選べるけど欲しいものがない』品は無駄です」
私はニヤリと笑った。
「引き出物は、我が『黒字屋』の特製クーポン券と、ロベルト殿下のポエム集(サイン入り)にします」
「い、いらねぇぇぇ!」
プランナーが絶叫した。
「クーポン券は実用的ですし、ポエム集は焚き付けや鍋敷きになります。SDGs(持続可能な開発目標)的にも完璧です」
「ゲストが減りますよ!?」
「大丈夫です。私の結婚式に来るような人は、物好きな人ばかりですから」
私はすべての修正を終え、真っ赤になった見積書をプランナーに突き返した。
「以上です。再計算した結果、総額は金貨五百枚。……当初の十分の一になりましたね」
「じゅ、十分の一……」
プランナーはガクリと膝をついた。
「商売あがったりですぅ……」
「あら、悪い話ばかりではありませんよ?」
私は彼女の肩に手を置いた。
「この結婚式、『国一番の節約挙式』として宣伝してあげます。『あのベルンシュタイン公爵家も認めた! 無駄を省いたスマート婚!』というキャッチコピーで」
「え?」
「これからの時代、派手婚より地味婚(スマート婚)が流行ります。貴女の式場は、そのパイオニアになれる。……どうです? 私と独占契約を結びませんか?」
「……!」
プランナーの目に、ビジネスマンの光が宿った。
「の、乗りました! そのプラン、いただきます!」
「契約成立(ディール)ですね」
私は握手を交わした。
***
帰り道の馬車の中。
「……楽しそうだったな、アイーダ」
クラウスが愛おしそうに私を見つめる。
「ええ。最高のストレス発散でした」
「君の手にかかれば、結婚式すらビジネスショーになる。……当日が楽しみだ」
「ふふっ。覚悟しておいてくださいね。誓いのキスの秒数も、タイムキーパーに管理させますから」
「それは困るな。そこだけは延長料金を払わせてくれ」
「……特別に、前払いで許可します」
私たちは笑い合い、馬車に揺られた。
私の手帳には、すでに「新婚旅行の格安プラン」と「新居のリフォーム見積もり(ロベルト施工)」のページが作られていた。
愛も夢も、しっかりとした予算管理の上にこそ咲く花なのだ。
王都の一等地にある、王室御用達の結婚式場。
そのVIPルームで、担当のウェディングプランナー(笑顔が張り付いたような女性)が、恭しく一枚の紙を差し出した。
「ふむ」
私はその紙を受け取り、一番下の「合計金額」に視線を落とした。
そこに書かれていた数字は、金貨五千枚。
ちょっとした小国の国家予算並みである。
「……なるほど」
私は無表情のまま、隣に座るクラウス公爵を見た。
彼は面白そうに頬杖をついている。
「どうだ、アイーダ? 一生に一度の式だ。これくらい豪華でも私は構わないが」
「閣下。貴方の資産なら痛くも痒くもないでしょう。ですが、これは『プライド』の問題です」
私はスッと立ち上がり、プランナーに向き直った。
「……担当さん。貴女、私を誰だと思っておいでで?」
「は、はい? もちろん、次期ベルンシュタイン公爵夫人となられる、アイーダ様でございます」
「違います。私は『適正価格の守護者』です」
私は懐からマイ電卓を取り出し、バンッ! とテーブルに叩きつけた。
「これから『公開処刑(ライン・チェック)』を行います。覚悟はよろしくて?」
「ひっ……!」
プランナーの笑顔が引きつる。
私は赤ペンを取り出し、見積書の一行目を指した。
「まずこれ。『会場使用料・休日特別加算』金貨五百枚。……高すぎます。平日に変更します」
「えっ? で、でも、多くのゲスト様は平日はお仕事が……」
「有給を取らせればいいのです。招待状に『休みを取らないと今後の取引に影響する』と書けば、全員来ます」
「ご、強引な……!」
「次にこれ。『新婦お色直し・ドレス三着セットプラン』金貨八百枚。……ボッタクリですね。布の原価と縫製工賃を計算しても、この十分の一で作れます」
「そ、それはブランド料といいまして……」
「いりません。ドレスは私がデザインし、懇意にしている下町の職人に縫わせます。持ち込み料? 取ったら私がこの式場を買収して経営陣を入れ替えますよ?」
「ひぃぃっ! 持ち込み料は無料にさせていただきます!」
「よろしい。次。『ウェディングケーキ入刀ナイフ・レンタル料』金貨十枚。……ただのナイフを借りるだけで金貨十枚?」
「装飾が施された特別なナイフですので……」
「不要です。家から包丁を持ってきます」
「ほ、包丁!?」
「よく切れますよ? あるいは、ロベルト殿下の剣を使ってもいいわね。彼は今、私の店で『なんでも係』をしていますから」
「げ、元王子の剣でケーキ入刀……!?」
「話題性も抜群ね。……次、『フラワーシャワー清掃料』金貨五枚。……花びらを片付けるだけで?」
「人件費がかかりますので……」
「ロベルト殿下にやらせます。彼の時給は銀貨二枚です。金貨五枚もあれば、彼を一年雇えますよ」
「ま、また元王子が……!」
私は次々と赤線を引いていく。
『キャンドルサービス(火気厳禁のためLEDに変更)』
『聖歌隊(ミシェルに歌わせる)』
『鳩のリリース(衛生的に却下)』
見積書の金額が、みるみるうちに削ぎ落とされていく。
プランナーはもはや涙目で、助けを求めるようにクラウスを見た。
「こ、公爵閣下……! よろしいのですか!? こんな……生活感溢れる結婚式で!」
しかし、クラウスは満足げに頷いた。
「素晴らしい。私の想像以上のコストカットだ」
「か、閣下!?」
「『愛は金では買えない』と言うが、彼女は『金で愛を汚さない』ために戦っているのだ。……実に美しいとは思わんか?」
「変態だ……このカップル、変態だわ……!」
プランナーの心の声が漏れているが、私は気にしない。
「さて、最後の大物です。『引き出物』金貨千枚」
「は、はい! これは削れませんよね!? ゲストへの感謝の品ですから!」
「ええ。感謝は大事です。ですが、カタログギフトのような『選べるけど欲しいものがない』品は無駄です」
私はニヤリと笑った。
「引き出物は、我が『黒字屋』の特製クーポン券と、ロベルト殿下のポエム集(サイン入り)にします」
「い、いらねぇぇぇ!」
プランナーが絶叫した。
「クーポン券は実用的ですし、ポエム集は焚き付けや鍋敷きになります。SDGs(持続可能な開発目標)的にも完璧です」
「ゲストが減りますよ!?」
「大丈夫です。私の結婚式に来るような人は、物好きな人ばかりですから」
私はすべての修正を終え、真っ赤になった見積書をプランナーに突き返した。
「以上です。再計算した結果、総額は金貨五百枚。……当初の十分の一になりましたね」
「じゅ、十分の一……」
プランナーはガクリと膝をついた。
「商売あがったりですぅ……」
「あら、悪い話ばかりではありませんよ?」
私は彼女の肩に手を置いた。
「この結婚式、『国一番の節約挙式』として宣伝してあげます。『あのベルンシュタイン公爵家も認めた! 無駄を省いたスマート婚!』というキャッチコピーで」
「え?」
「これからの時代、派手婚より地味婚(スマート婚)が流行ります。貴女の式場は、そのパイオニアになれる。……どうです? 私と独占契約を結びませんか?」
「……!」
プランナーの目に、ビジネスマンの光が宿った。
「の、乗りました! そのプラン、いただきます!」
「契約成立(ディール)ですね」
私は握手を交わした。
***
帰り道の馬車の中。
「……楽しそうだったな、アイーダ」
クラウスが愛おしそうに私を見つめる。
「ええ。最高のストレス発散でした」
「君の手にかかれば、結婚式すらビジネスショーになる。……当日が楽しみだ」
「ふふっ。覚悟しておいてくださいね。誓いのキスの秒数も、タイムキーパーに管理させますから」
「それは困るな。そこだけは延長料金を払わせてくれ」
「……特別に、前払いで許可します」
私たちは笑い合い、馬車に揺られた。
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