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にじいろ
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タキは思いつく限りの記憶を総動員して、雷門に程近いブックカフェに紗雪と湊を案内した。落ち着いた純喫茶風の店内は、幸い窓際のボックス席が空いていた。
向かい合わせに座った紗雪は、明らかに緊張していた。タキと湊がコーヒーを注文した後に、小さな声で「レモネードを」と言った。
(いや、可愛いなあ)
東京の明るい夜の光が、ステンドグラスから差し込み、紗雪の横顔を淡く虹色に照らしていた。そのぷっくりした頬も、ピンク色の唇も独特の愛嬌があって、タキは思わず見つめてしまいそうになる。
「朝霧さん、なんかスゴイお若いですね。雑誌のプロフィールだとタキとあんまり年変わらないのに、十歳位若く見える」
「え、そうなんですか?」
「タキは今年三十……………七?」
「六」
「あ、榎本さんも若く見えますね。二十代位に見える」
「コイツ痩せ型ですからね。肌も白いし。あたしも今年三十になるんですけど、まあ、二人とも正社員でもなく好きな事ばっかして暮してて、独身貴族ならぬ独身貧乏ってヤツです」
「あ……カップルだと思ってたんですけど、違うんですか?」
「まーさかー!」
湊が顔の前で手をブンブン振った所で、コーヒーとレモネードが運ばれて来た。タキが店員に礼を言うのを、紗雪はそっと見ていた。
「あたしは別に中国に彼氏がいて、タキはフリー。あ。でもタキは飼い猫のルークとラブラブだよね」
「猫飼ってるんですか?」
紗雪の顔が少し輝いたのを見て、湊はタキの脇腹を小突く。タキは慌ててスマフォを取り出し、ルークの写真を探した。
「あ、これです」
白く、程よく肥えた猫が、ネコじゃらしにじゃれついたり、お腹を見せて寝転んでいる写真を見て、サユは「可愛い」と笑った。そのチューリップの様な笑顔に、タキは身体が熱くなるのを感じ、心の中でルークに礼を言った。
「朝霧さん、確か動物のイラストも描かれてますよね。アルパカとか」
「はい、普段は古本屋をしているので、それでお子さん向けに即興で描いたりとか……」
「へえ、古本屋を経営してるんですか?スゴいですね」
「いえ、出張販売が主で、三坪しかない小さい本屋です」
湊が間に入って、意外にも話は弾んだ。好きなミステリー作家、東京では下北沢が好きな事、ゴッホの魅力と様々な話題について語る紗雪を、少し眩しい様な気持ちでタキは眺めた。
「ね、もし良かったらなんですが、LINE交換しません?あたし、朝霧さんの古本屋も行ってみたいし!」
「あ、はい………」
おずおずと紗雪がスマフォを差し出す。湊と紗雪が交換するのをぼおっと見てから、一拍遅れてタキもスマフォをテーブルに置いた。
軽快なチャイムと共に、タキのLINEに紗雪が友達登録される。
(番号交換出来てしまった)
会えるのは今日限りだと思っていたので、あまりの展開にタキは呆気にとられた。
更に。
「あー、あたしトイレ行きたいんだけど、ここ混んでるみたい。ROXで行くわ。先帰るんで、タキはちゃんと朝霧さん送ってあげなね。じゃ。朝霧さん、今日は楽しかったです、ありがとうございました」
「えっ、湊!」
言うなり湊はコーヒーの代金を置き、嵐の様に去っていった。タキと紗雪は顔を見合わせた。
「………そろそろ行きましょうか」
「はい………」
紗雪の瞳が、少し不安げに揺れた。
「あの、朝霧さん」
店を後にし、地下鉄の改札まで歩く間、二人は無言だった。タキは久々に女性の歩幅に合わせてゆっくり歩いた。煤けた銀座線の入口で、小さく頭を下げてそのまま行こうとする紗雪を、タキは勇気を振り絞って呼び止めた。
「来週、新宿のバルト9でリバイバル上映している藤田嗣治の映画を観に行きませんか」
湊と三人で。
「え…………」
紗雪は驚いて、暫く沈黙した。ダメかな、とタキが諦めかけた頃。
「あの三人で………再来週の昼間なら………」
少し顔を赤くして、紗雪が頷いた。
向かい合わせに座った紗雪は、明らかに緊張していた。タキと湊がコーヒーを注文した後に、小さな声で「レモネードを」と言った。
(いや、可愛いなあ)
東京の明るい夜の光が、ステンドグラスから差し込み、紗雪の横顔を淡く虹色に照らしていた。そのぷっくりした頬も、ピンク色の唇も独特の愛嬌があって、タキは思わず見つめてしまいそうになる。
「朝霧さん、なんかスゴイお若いですね。雑誌のプロフィールだとタキとあんまり年変わらないのに、十歳位若く見える」
「え、そうなんですか?」
「タキは今年三十……………七?」
「六」
「あ、榎本さんも若く見えますね。二十代位に見える」
「コイツ痩せ型ですからね。肌も白いし。あたしも今年三十になるんですけど、まあ、二人とも正社員でもなく好きな事ばっかして暮してて、独身貴族ならぬ独身貧乏ってヤツです」
「あ……カップルだと思ってたんですけど、違うんですか?」
「まーさかー!」
湊が顔の前で手をブンブン振った所で、コーヒーとレモネードが運ばれて来た。タキが店員に礼を言うのを、紗雪はそっと見ていた。
「あたしは別に中国に彼氏がいて、タキはフリー。あ。でもタキは飼い猫のルークとラブラブだよね」
「猫飼ってるんですか?」
紗雪の顔が少し輝いたのを見て、湊はタキの脇腹を小突く。タキは慌ててスマフォを取り出し、ルークの写真を探した。
「あ、これです」
白く、程よく肥えた猫が、ネコじゃらしにじゃれついたり、お腹を見せて寝転んでいる写真を見て、サユは「可愛い」と笑った。そのチューリップの様な笑顔に、タキは身体が熱くなるのを感じ、心の中でルークに礼を言った。
「朝霧さん、確か動物のイラストも描かれてますよね。アルパカとか」
「はい、普段は古本屋をしているので、それでお子さん向けに即興で描いたりとか……」
「へえ、古本屋を経営してるんですか?スゴいですね」
「いえ、出張販売が主で、三坪しかない小さい本屋です」
湊が間に入って、意外にも話は弾んだ。好きなミステリー作家、東京では下北沢が好きな事、ゴッホの魅力と様々な話題について語る紗雪を、少し眩しい様な気持ちでタキは眺めた。
「ね、もし良かったらなんですが、LINE交換しません?あたし、朝霧さんの古本屋も行ってみたいし!」
「あ、はい………」
おずおずと紗雪がスマフォを差し出す。湊と紗雪が交換するのをぼおっと見てから、一拍遅れてタキもスマフォをテーブルに置いた。
軽快なチャイムと共に、タキのLINEに紗雪が友達登録される。
(番号交換出来てしまった)
会えるのは今日限りだと思っていたので、あまりの展開にタキは呆気にとられた。
更に。
「あー、あたしトイレ行きたいんだけど、ここ混んでるみたい。ROXで行くわ。先帰るんで、タキはちゃんと朝霧さん送ってあげなね。じゃ。朝霧さん、今日は楽しかったです、ありがとうございました」
「えっ、湊!」
言うなり湊はコーヒーの代金を置き、嵐の様に去っていった。タキと紗雪は顔を見合わせた。
「………そろそろ行きましょうか」
「はい………」
紗雪の瞳が、少し不安げに揺れた。
「あの、朝霧さん」
店を後にし、地下鉄の改札まで歩く間、二人は無言だった。タキは久々に女性の歩幅に合わせてゆっくり歩いた。煤けた銀座線の入口で、小さく頭を下げてそのまま行こうとする紗雪を、タキは勇気を振り絞って呼び止めた。
「来週、新宿のバルト9でリバイバル上映している藤田嗣治の映画を観に行きませんか」
湊と三人で。
「え…………」
紗雪は驚いて、暫く沈黙した。ダメかな、とタキが諦めかけた頃。
「あの三人で………再来週の昼間なら………」
少し顔を赤くして、紗雪が頷いた。
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